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記憶を取り戻す前の私 7
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顔合わせは、陛下たちと一緒にお茶をいただいたあの部屋で行われた。
「エリー、ここに座りなさい。
まあ、緊張しているのね。大丈夫よ。相手は貴女もよく知る方ですから」
私のよく知る人物って誰だろう?
不安だわ……
「王妃殿下、本日はどうぞよろしくお願いいたします」
王妃殿下と話をしていると、近衛騎士と一緒にやってきたのは王太子殿下だった。
まさか!
「母上、エリーに婚約者を決めるなんて何を考えているのです?
私の知らないところで勝手に話を進めるとは! こんな強引なことを私は認めませんから」
王妃殿下を鋭い目で見つめる殿下。
会話の内容からすると、私の相手は殿下ではない様子。
流石にそれはないか……と安心する私。一人でホッとしていると、殿下は私にまで話しを振ってくる。
「エリー、私の両親に何を言われたのかは知らないが、嫌なら嫌といって構わない。君のことは私が……」
「守るとでも言いたいのかしら?」
冷淡に殿下の話を遮る王妃殿下。
「不本意な婚約者とはいえ、決まった相手のいる身でありながら、何かとエリーにまとわりつくようなことをしたから彼女は嫌がらせを受けたの。貴方たちは何も分かってないわね。
だからエリーを守るために婚約者を王命で決めることにしたわ。貴方たちよりもしっかりした人物を選んだから何の心配もないの。
誰か王太子を執務室までお送りして!」
「母上、お待ち下さい!」
殿下は近衛騎士に連れて行かれてしまった。
気不味さを感じたその時、
「ふふっ! いらしたわね」
王妃殿下の声のトーンが変わる。王妃殿下の視線の先にいたのは先生だった。
「王妃殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
「公爵、待っていたわ。
二人はすでに知り合いのようだから、今日は二人きりでゆっくり話してみてちょうだい。
エリー、あとで話を聞かせてね」
私の婚約者候補って先生だったの……?
王妃殿下はニコッと私達に笑いかけた後、部屋を出て行ってしまった。
その瞬間、部屋の中に静寂な空気が流れる。
「黙っているが、どうした?」
「相手の方が先生だと思わなくて、驚いてしまいました」
「嬉しそうには見えないな。私では不服か?」
「そうは思っていません。ただ、先生に申し訳ないと感じました。
学園だけでなく社交界でも人気の先生が、私なんかの婚約者候補になるなんて……
先生は素晴らしい教師で、全てが完璧な人で、相手が私では不釣り合いかと思いました」
先生は学園にいる時と変わらず、感情の読めない表情をしている。
戸惑う私とは違って、こんな時まで余裕があって落ち着いている先生は大人の男性だわ。
「君の考えていることは理解した。
ずっと教師と生徒という関係でいたのに、急に婚約者になれと言われて困惑することも分からなくもない。
だが、私は真面目な君なら公爵夫人としてやっていけると思っている。
エリーが私を嫌でないのなら、この話をすぐに進めたいと思っている。いいか?」
信頼する先生にそこまで言っていただけるなら、私の立場ではお断り出来ない。
公爵家に嫁ぐことは色々不安はあるけれど、先生を信じてみよう。
「はい。そのお話、お受けいたします。
先生の婚約者として周りから認めてもらえるように努力していきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく!」
私達は正式に婚約することになった。
婚約が決まると同時に、私はすぐに公爵家に引っ越すことになってしまう。療養中は婚約者である先生が私の面倒を見たいと言い出し、それを国王陛下と王妃殿下が認められたからだ。療養が終わったらそのまま公爵家に住み、婚姻まで公爵夫人としての教育を受けることになるらしい。
国王陛下と王妃殿下に挨拶をし、王宮に迎えに来て下さった先生と馬車に乗り込もうとしたその時、
「エリー、待ってくれ」
それは余裕のない表情をした王太子殿下だった。
「王太子殿下?」
「公爵、最後にエリーと二人で話をさせて欲しい」
殿下と二人で話す? 本当は遠慮したいけど、色々お世話になってしまったから断れないわね。最後にお礼を伝えてこようかしら。
「先生、少しだけいいでしょうか?」
いつも冷静で落ち着いている先生なら、あっさりと許可してくれると思っていたのに、先生の反応は意外なものだった。
「エリー、婚約者がいる身でありながら他の男と二人で話すなんてありえない。
君は私の婚約者としての自覚が足りないのではないか?」
冷たく言い放つ先生にビクッとしてしまう。先生のこんな姿を見たのは初めてだった。
更には殿下にまで……
「いくらお相手が殿下であっても、私の婚約者と二人きりになることは許せません。
あの女と婚約破棄の話が出ているのは知っていますが、だからといって私の婚約者に馴れ馴れしくされるのは困ります。
次のお相手候補である隣国の第二王女に誤解される恐れがありますので、行動にはどうかご注意下さい」
私は、その時に殿下が公爵令嬢と婚約破棄する予定であることを知った。
殿下はあの方との結婚を本気で嫌がっていたもの。政略結婚であっても、信頼できない方とは結婚したくはないわよね。
しかし、それより驚いたのは先生の口調だった。今まで感情を表に出さなかった人が、明らかに怒っているのが分かったから。
ただ、先生の言っていることは正論であると思い、私は気付いたら謝っていた。
「先生、私は婚約者としての自覚が足りませんでした。以後気をつけて行動いたします。申し訳ありませんでした。
殿下、お話ならこの場でお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「エリーは悪くない。悪いのは私だ。
公爵、私の配慮不足だ。申し訳ない」
「殿下がそこまで仰るなら構いませんよ。
しかし、エリーへの話は手短にお願いします。まだ療養が必要な体でして、早く公爵家に連れて行きたいんです」
先生の声はまだ不機嫌なままで、重たい雰囲気が漂っていた。
「エリー、ここに座りなさい。
まあ、緊張しているのね。大丈夫よ。相手は貴女もよく知る方ですから」
私のよく知る人物って誰だろう?
不安だわ……
「王妃殿下、本日はどうぞよろしくお願いいたします」
王妃殿下と話をしていると、近衛騎士と一緒にやってきたのは王太子殿下だった。
まさか!
「母上、エリーに婚約者を決めるなんて何を考えているのです?
私の知らないところで勝手に話を進めるとは! こんな強引なことを私は認めませんから」
王妃殿下を鋭い目で見つめる殿下。
会話の内容からすると、私の相手は殿下ではない様子。
流石にそれはないか……と安心する私。一人でホッとしていると、殿下は私にまで話しを振ってくる。
「エリー、私の両親に何を言われたのかは知らないが、嫌なら嫌といって構わない。君のことは私が……」
「守るとでも言いたいのかしら?」
冷淡に殿下の話を遮る王妃殿下。
「不本意な婚約者とはいえ、決まった相手のいる身でありながら、何かとエリーにまとわりつくようなことをしたから彼女は嫌がらせを受けたの。貴方たちは何も分かってないわね。
だからエリーを守るために婚約者を王命で決めることにしたわ。貴方たちよりもしっかりした人物を選んだから何の心配もないの。
誰か王太子を執務室までお送りして!」
「母上、お待ち下さい!」
殿下は近衛騎士に連れて行かれてしまった。
気不味さを感じたその時、
「ふふっ! いらしたわね」
王妃殿下の声のトーンが変わる。王妃殿下の視線の先にいたのは先生だった。
「王妃殿下、ご機嫌麗しゅうございます」
「公爵、待っていたわ。
二人はすでに知り合いのようだから、今日は二人きりでゆっくり話してみてちょうだい。
エリー、あとで話を聞かせてね」
私の婚約者候補って先生だったの……?
王妃殿下はニコッと私達に笑いかけた後、部屋を出て行ってしまった。
その瞬間、部屋の中に静寂な空気が流れる。
「黙っているが、どうした?」
「相手の方が先生だと思わなくて、驚いてしまいました」
「嬉しそうには見えないな。私では不服か?」
「そうは思っていません。ただ、先生に申し訳ないと感じました。
学園だけでなく社交界でも人気の先生が、私なんかの婚約者候補になるなんて……
先生は素晴らしい教師で、全てが完璧な人で、相手が私では不釣り合いかと思いました」
先生は学園にいる時と変わらず、感情の読めない表情をしている。
戸惑う私とは違って、こんな時まで余裕があって落ち着いている先生は大人の男性だわ。
「君の考えていることは理解した。
ずっと教師と生徒という関係でいたのに、急に婚約者になれと言われて困惑することも分からなくもない。
だが、私は真面目な君なら公爵夫人としてやっていけると思っている。
エリーが私を嫌でないのなら、この話をすぐに進めたいと思っている。いいか?」
信頼する先生にそこまで言っていただけるなら、私の立場ではお断り出来ない。
公爵家に嫁ぐことは色々不安はあるけれど、先生を信じてみよう。
「はい。そのお話、お受けいたします。
先生の婚約者として周りから認めてもらえるように努力していきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく!」
私達は正式に婚約することになった。
婚約が決まると同時に、私はすぐに公爵家に引っ越すことになってしまう。療養中は婚約者である先生が私の面倒を見たいと言い出し、それを国王陛下と王妃殿下が認められたからだ。療養が終わったらそのまま公爵家に住み、婚姻まで公爵夫人としての教育を受けることになるらしい。
国王陛下と王妃殿下に挨拶をし、王宮に迎えに来て下さった先生と馬車に乗り込もうとしたその時、
「エリー、待ってくれ」
それは余裕のない表情をした王太子殿下だった。
「王太子殿下?」
「公爵、最後にエリーと二人で話をさせて欲しい」
殿下と二人で話す? 本当は遠慮したいけど、色々お世話になってしまったから断れないわね。最後にお礼を伝えてこようかしら。
「先生、少しだけいいでしょうか?」
いつも冷静で落ち着いている先生なら、あっさりと許可してくれると思っていたのに、先生の反応は意外なものだった。
「エリー、婚約者がいる身でありながら他の男と二人で話すなんてありえない。
君は私の婚約者としての自覚が足りないのではないか?」
冷たく言い放つ先生にビクッとしてしまう。先生のこんな姿を見たのは初めてだった。
更には殿下にまで……
「いくらお相手が殿下であっても、私の婚約者と二人きりになることは許せません。
あの女と婚約破棄の話が出ているのは知っていますが、だからといって私の婚約者に馴れ馴れしくされるのは困ります。
次のお相手候補である隣国の第二王女に誤解される恐れがありますので、行動にはどうかご注意下さい」
私は、その時に殿下が公爵令嬢と婚約破棄する予定であることを知った。
殿下はあの方との結婚を本気で嫌がっていたもの。政略結婚であっても、信頼できない方とは結婚したくはないわよね。
しかし、それより驚いたのは先生の口調だった。今まで感情を表に出さなかった人が、明らかに怒っているのが分かったから。
ただ、先生の言っていることは正論であると思い、私は気付いたら謝っていた。
「先生、私は婚約者としての自覚が足りませんでした。以後気をつけて行動いたします。申し訳ありませんでした。
殿下、お話ならこの場でお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「エリーは悪くない。悪いのは私だ。
公爵、私の配慮不足だ。申し訳ない」
「殿下がそこまで仰るなら構いませんよ。
しかし、エリーへの話は手短にお願いします。まだ療養が必要な体でして、早く公爵家に連れて行きたいんです」
先生の声はまだ不機嫌なままで、重たい雰囲気が漂っていた。
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