17 / 30
お呼び出しですか
しおりを挟む
離れの邸で生活したい問題、夫婦の閨と跡取りどうする問題、色々と悩みは尽きない毎日だけど、気にせず部屋に引き籠る私は公爵夫人。
そんな私のところにはお茶会のお誘いや夜会の招待状が沢山届いているらしく(以前は私が管理していたが、今は夫のフィルが管理している)、身分の高い方からの招待にだけ、フィルが丁寧に欠席のお返事を書いてくれているらしい。
ある日、険しい表情のフィルが私に豪華な封筒を渡してきた。
これは……、王妃殿下からの招待状だわ。
「王妃殿下が私達夫婦と一緒にお茶をしたいらしい。
分かっていると思うが、夫婦一緒に茶会に呼ぶなんて滅多に聞かない。これは茶会という名の呼び出しだと思う」
「はい。理解しております」
我が国の王妃殿下のお茶会といえば、高位貴族の夫人を招待するものばかりだ。それを私達夫婦を招待するなんて、呼び出しとしか考えられない。
私は自殺未遂をした後、一歩も公爵邸から出ていない。外出も社交も全くせず、王宮の夜会は体調不良を理由に欠席し、王妃殿下のお茶会も欠席し続けていた。普通の貴族なら許されないけど、うちの公爵家は許されていた。
社交が必要ないくらいの権力をうちの公爵家は持っているということだ。
多分、国王陛下や王妃殿下が貧乏な田舎貴族出身の私とフィルの結婚を勧めたのは、これ以上公爵家の力が強くならないようにとの意図があると思う。
「王妃殿下のお茶会に行きます。フィルが一緒なら安心して行けますわ」
「エリー、無理しなくていいんだ。王妃殿下には私から謝罪してくる。
部屋から出ない君が、邸を出て王宮に行くなんて、途中で具合が悪くなったりしたら……」
断れないのは知っているし、途中でフィルが嫉妬とかして機嫌が悪くならなければ何とかなるはず。
「王妃殿下がお呼びなら断れないわよ。いつかは行かなくてはならないと思っていたの。
大丈夫よ。フィルが私を守ってくれるでしょう?
優しく、心穏やかに守って欲しいわ」
つまらない嫉妬をしないで、ヤンデレスイッチはOFFでお願いという意味を込めて、〝優しく、心穏やかに〟を強調してお願いする私。
「勿論だ。私が隣でエリーを守るよ。ただ、私から見て無理そうだと判断したら、早く切り上げて帰ってこよう」
「フィルってば、心配しすぎよ。ふふっ」
そして、お茶会当日を迎える。
「奥様、とてもお美しいですわ!」
「ええ! まるで花の妖精みたいです」
「これは、殿方の視線を独占してしまいそうですわね」
王宮のお茶会用に着飾った私をメイドたちが口々に褒めているが、私は気が気ではなかった。
こんなに可愛かったら、王宮で男連中から注目されちゃうよ!
極力地味にしたかったから、持っているドレスの中で一番シンプルで無難なデザインの物を選んだのに、ヒロイン補正なのかそれでも可愛すぎるのだ。
薄いピンクベージュのドレスは派手じゃなくていいかなぁと思ったのに、こんなに似合ってしまうなんて想定外だ。
金持ち公爵家にあるドレスがシンプルそうに見えて、実は有名デザイナーが最高級の布地や宝石を使って制作した凄いドレスだということもある。
「シンプルなドレスが奥様の美しさと可憐さを引き立てているのかもしれないですわ」
「……あ、ありがとう。ちょっと褒めすぎよ。何だか恥ずかしいし、少し寒気がするからマントでも羽織っていこうかしら?
フード付きのマントを出してくれる?」
今の私が長生きするためには、フィル以外の男性の気を引かないことが重要だ。そのために、ヒロイン特有の美しい容姿をマントでも被って隠そうとしたのだが、
「奥様、王宮の茶会の場でマントはドレスコード違反かと……
マントの中に刃物でも隠し持っていると疑われたりしたら大変ですわ」
「は、ははっ。そうよねぇ」
結局、マントは無理そうなので、軽く羽織れそうなショールを持って行くことになる。
しかし、出発前のドダバタはこれだけでなかった。
「エリーが可愛すぎるから寝室に閉じ込めておきたい……
頑丈な鍵が必要だな。窓は格子を付けて厚手のカーテンと……」
準備が終わったと聞いて、部屋に迎えにきたフィルが私を真顔で見つめた後、ボソボソっと言った言葉を私は聞き逃さなかった。
今のは監禁宣言ですかー?
「……エリー、何だか顔色が悪いな。
やはり今日はやめておくか?」
ヤンデレスイッチが入りそうなフィルにビビっただけで、気分が悪いわけではない。
「大丈夫ですわ。王妃殿下が待って下さっているのですから、絶対に行かないと。
それよりも、今日は護衛騎士は何人連れて行くのでしょうか?」
「護衛は二十名だ。そのうち十名は女性でエリーの近くに置くようにする。他の十名は騎士団長と、騎士歴十五年以上のベテランばかりだから安心してくれ」
半分は女騎士で残りはベテランのおじさん騎士ってことね。若い男性の騎士はいなくて、女性の騎士は私の周りを囲んで隠してくれると。
ふぅー、何とかなりそうだわ。
「フィル、ありがとう。隣にフィルがいるだけでなく、周りに信頼する女性の騎士たちと騎士団長とベテラン騎士までいるなんて、安心して出発できるわね」
「夫として当然のことをしただけだ。さあ、行こうか」
「ええ」
無事に出発したが、王宮で王妃殿下にお会いする前にも一悶着あることを、この時の私はまだ知らずにいた。
そんな私のところにはお茶会のお誘いや夜会の招待状が沢山届いているらしく(以前は私が管理していたが、今は夫のフィルが管理している)、身分の高い方からの招待にだけ、フィルが丁寧に欠席のお返事を書いてくれているらしい。
ある日、険しい表情のフィルが私に豪華な封筒を渡してきた。
これは……、王妃殿下からの招待状だわ。
「王妃殿下が私達夫婦と一緒にお茶をしたいらしい。
分かっていると思うが、夫婦一緒に茶会に呼ぶなんて滅多に聞かない。これは茶会という名の呼び出しだと思う」
「はい。理解しております」
我が国の王妃殿下のお茶会といえば、高位貴族の夫人を招待するものばかりだ。それを私達夫婦を招待するなんて、呼び出しとしか考えられない。
私は自殺未遂をした後、一歩も公爵邸から出ていない。外出も社交も全くせず、王宮の夜会は体調不良を理由に欠席し、王妃殿下のお茶会も欠席し続けていた。普通の貴族なら許されないけど、うちの公爵家は許されていた。
社交が必要ないくらいの権力をうちの公爵家は持っているということだ。
多分、国王陛下や王妃殿下が貧乏な田舎貴族出身の私とフィルの結婚を勧めたのは、これ以上公爵家の力が強くならないようにとの意図があると思う。
「王妃殿下のお茶会に行きます。フィルが一緒なら安心して行けますわ」
「エリー、無理しなくていいんだ。王妃殿下には私から謝罪してくる。
部屋から出ない君が、邸を出て王宮に行くなんて、途中で具合が悪くなったりしたら……」
断れないのは知っているし、途中でフィルが嫉妬とかして機嫌が悪くならなければ何とかなるはず。
「王妃殿下がお呼びなら断れないわよ。いつかは行かなくてはならないと思っていたの。
大丈夫よ。フィルが私を守ってくれるでしょう?
優しく、心穏やかに守って欲しいわ」
つまらない嫉妬をしないで、ヤンデレスイッチはOFFでお願いという意味を込めて、〝優しく、心穏やかに〟を強調してお願いする私。
「勿論だ。私が隣でエリーを守るよ。ただ、私から見て無理そうだと判断したら、早く切り上げて帰ってこよう」
「フィルってば、心配しすぎよ。ふふっ」
そして、お茶会当日を迎える。
「奥様、とてもお美しいですわ!」
「ええ! まるで花の妖精みたいです」
「これは、殿方の視線を独占してしまいそうですわね」
王宮のお茶会用に着飾った私をメイドたちが口々に褒めているが、私は気が気ではなかった。
こんなに可愛かったら、王宮で男連中から注目されちゃうよ!
極力地味にしたかったから、持っているドレスの中で一番シンプルで無難なデザインの物を選んだのに、ヒロイン補正なのかそれでも可愛すぎるのだ。
薄いピンクベージュのドレスは派手じゃなくていいかなぁと思ったのに、こんなに似合ってしまうなんて想定外だ。
金持ち公爵家にあるドレスがシンプルそうに見えて、実は有名デザイナーが最高級の布地や宝石を使って制作した凄いドレスだということもある。
「シンプルなドレスが奥様の美しさと可憐さを引き立てているのかもしれないですわ」
「……あ、ありがとう。ちょっと褒めすぎよ。何だか恥ずかしいし、少し寒気がするからマントでも羽織っていこうかしら?
フード付きのマントを出してくれる?」
今の私が長生きするためには、フィル以外の男性の気を引かないことが重要だ。そのために、ヒロイン特有の美しい容姿をマントでも被って隠そうとしたのだが、
「奥様、王宮の茶会の場でマントはドレスコード違反かと……
マントの中に刃物でも隠し持っていると疑われたりしたら大変ですわ」
「は、ははっ。そうよねぇ」
結局、マントは無理そうなので、軽く羽織れそうなショールを持って行くことになる。
しかし、出発前のドダバタはこれだけでなかった。
「エリーが可愛すぎるから寝室に閉じ込めておきたい……
頑丈な鍵が必要だな。窓は格子を付けて厚手のカーテンと……」
準備が終わったと聞いて、部屋に迎えにきたフィルが私を真顔で見つめた後、ボソボソっと言った言葉を私は聞き逃さなかった。
今のは監禁宣言ですかー?
「……エリー、何だか顔色が悪いな。
やはり今日はやめておくか?」
ヤンデレスイッチが入りそうなフィルにビビっただけで、気分が悪いわけではない。
「大丈夫ですわ。王妃殿下が待って下さっているのですから、絶対に行かないと。
それよりも、今日は護衛騎士は何人連れて行くのでしょうか?」
「護衛は二十名だ。そのうち十名は女性でエリーの近くに置くようにする。他の十名は騎士団長と、騎士歴十五年以上のベテランばかりだから安心してくれ」
半分は女騎士で残りはベテランのおじさん騎士ってことね。若い男性の騎士はいなくて、女性の騎士は私の周りを囲んで隠してくれると。
ふぅー、何とかなりそうだわ。
「フィル、ありがとう。隣にフィルがいるだけでなく、周りに信頼する女性の騎士たちと騎士団長とベテラン騎士までいるなんて、安心して出発できるわね」
「夫として当然のことをしただけだ。さあ、行こうか」
「ええ」
無事に出発したが、王宮で王妃殿下にお会いする前にも一悶着あることを、この時の私はまだ知らずにいた。
516
あなたにおすすめの小説
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました
ララ
恋愛
3話完結です。
大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。
それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。
そこで見たのはまさにゲームの世界。
主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。
そしてゲームは終盤へ。
最後のイベントといえば断罪。
悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。
でもおかしいじゃない?
このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。
ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。
納得いかない。
それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?
狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」
「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」
「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」
「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」
「だから、お前の夫が俺だって──」
少しずつ日差しが強くなっている頃。
昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。
……誰コイツ。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる