目覚めたらバッドエンドを迎えた後のヒロインだった件

せいめ

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お呼び出しですか

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 離れの邸で生活したい問題、夫婦の閨と跡取りどうする問題、色々と悩みは尽きない毎日だけど、気にせず部屋に引き籠る私は公爵夫人。

 そんな私のところにはお茶会のお誘いや夜会の招待状が沢山届いているらしく(以前は私が管理していたが、今は夫のフィルが管理している)、身分の高い方からの招待にだけ、フィルが丁寧に欠席のお返事を書いてくれているらしい。

 ある日、険しい表情のフィルが私に豪華な封筒を渡してきた。
 これは……、王妃殿下からの招待状だわ。

「王妃殿下が私達夫婦と一緒にお茶をしたいらしい。
 分かっていると思うが、夫婦一緒に茶会に呼ぶなんて滅多に聞かない。これは茶会という名の呼び出しだと思う」

「はい。理解しております」

 我が国の王妃殿下のお茶会といえば、高位貴族の夫人を招待するものばかりだ。それを私達夫婦を招待するなんて、呼び出しとしか考えられない。

 私は自殺未遂をした後、一歩も公爵邸から出ていない。外出も社交も全くせず、王宮の夜会は体調不良を理由に欠席し、王妃殿下のお茶会も欠席し続けていた。普通の貴族なら許されないけど、うちの公爵家は許されていた。
 社交が必要ないくらいの権力をうちの公爵家は持っているということだ。

 多分、国王陛下や王妃殿下が貧乏な田舎貴族出身の私とフィルの結婚を勧めたのは、これ以上公爵家の力が強くならないようにとの意図があると思う。

「王妃殿下のお茶会に行きます。フィルが一緒なら安心して行けますわ」

「エリー、無理しなくていいんだ。王妃殿下には私から謝罪してくる。
 部屋から出ない君が、邸を出て王宮に行くなんて、途中で具合が悪くなったりしたら……」

 断れないのは知っているし、途中でフィルが嫉妬とかして機嫌が悪くならなければ何とかなるはず。

「王妃殿下がお呼びなら断れないわよ。いつかは行かなくてはならないと思っていたの。
 大丈夫よ。フィルが私を守ってくれるでしょう?
 優しく、心穏やかに守って欲しいわ」

 つまらない嫉妬をしないで、ヤンデレスイッチはOFFでお願いという意味を込めて、〝優しく、心穏やかに〟を強調してお願いする私。

「勿論だ。私が隣でエリーを守るよ。ただ、私から見て無理そうだと判断したら、早く切り上げて帰ってこよう」

「フィルってば、心配しすぎよ。ふふっ」


 そして、お茶会当日を迎える。


「奥様、とてもお美しいですわ!」

「ええ! まるで花の妖精みたいです」

「これは、殿方の視線を独占してしまいそうですわね」

 王宮のお茶会用に着飾った私をメイドたちが口々に褒めているが、私は気が気ではなかった。

 こんなに可愛かったら、王宮で男連中から注目されちゃうよ! 

 極力地味にしたかったから、持っているドレスの中で一番シンプルで無難なデザインの物を選んだのに、ヒロイン補正なのかそれでも可愛すぎるのだ。

 薄いピンクベージュのドレスは派手じゃなくていいかなぁと思ったのに、こんなに似合ってしまうなんて想定外だ。

 金持ち公爵家にあるドレスがシンプルそうに見えて、実は有名デザイナーが最高級の布地や宝石を使って制作した凄いドレスだということもある。

「シンプルなドレスが奥様の美しさと可憐さを引き立てているのかもしれないですわ」

「……あ、ありがとう。ちょっと褒めすぎよ。何だか恥ずかしいし、少し寒気がするからマントでも羽織っていこうかしら?
 フード付きのマントを出してくれる?」

 今の私が長生きするためには、フィル以外の男性の気を引かないことが重要だ。そのために、ヒロイン特有の美しい容姿をマントでも被って隠そうとしたのだが、

「奥様、王宮の茶会の場でマントはドレスコード違反かと……
 マントの中に刃物でも隠し持っていると疑われたりしたら大変ですわ」

「は、ははっ。そうよねぇ」

 結局、マントは無理そうなので、軽く羽織れそうなショールを持って行くことになる。
 しかし、出発前のドダバタはこれだけでなかった。

「エリーが可愛すぎるから寝室に閉じ込めておきたい……
 頑丈な鍵が必要だな。窓は格子を付けて厚手のカーテンと……」

 準備が終わったと聞いて、部屋に迎えにきたフィルが私を真顔で見つめた後、ボソボソっと言った言葉を私は聞き逃さなかった。

 今のは監禁宣言ですかー?

「……エリー、何だか顔色が悪いな。
 やはり今日はやめておくか?」

 ヤンデレスイッチが入りそうなフィルにビビっただけで、気分が悪いわけではない。

「大丈夫ですわ。王妃殿下が待って下さっているのですから、絶対に行かないと。
 それよりも、今日は護衛騎士は何人連れて行くのでしょうか?」

「護衛は二十名だ。そのうち十名は女性でエリーの近くに置くようにする。他の十名は騎士団長と、騎士歴十五年以上のベテランばかりだから安心してくれ」

 半分は女騎士で残りはベテランのおじさん騎士ってことね。若い男性の騎士はいなくて、女性の騎士は私の周りを囲んで隠してくれると。

 ふぅー、何とかなりそうだわ。

「フィル、ありがとう。隣にフィルがいるだけでなく、周りに信頼する女性の騎士たちと騎士団長とベテラン騎士までいるなんて、安心して出発できるわね」

「夫として当然のことをしただけだ。さあ、行こうか」

「ええ」

 無事に出発したが、王宮で王妃殿下にお会いする前にも一悶着あることを、この時の私はまだ知らずにいた。


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