スターチスを届けて

田古みゆう

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2.2月15日

2月15日 p.2

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「なんだ~成瀬。先生が困ってるのに、助けてくれんのか? 寂しいなぁ」 
「……わかったよ」
「いや~、助かる助かる。プリントは生徒指導室にあるから。終わったら、先生の教室に届けておいてくれ」
「はぁ? 俺がそこまでするのかよ……」
「頼んだぞ、成瀬!」 

 強引に浩志に仕事を押し付けると、小石川は職員室へと向かって行った。 

 こうして、彼は今日も一人居残りをすることになったのだ。 

 一時間ほどで作業を終えた浩志は、小石川の言い付け通り彼の教室へ出来たばかりのプリントの山を抱えて向かう。

(確か、こいちゃんは一年二組……) 

 浩志は扉の前で立ち止まると上の方を見た。一年二組と札がかかっている。教室を覗いてみると、少女が一人残っていた。 机の上に何やら広げ、真剣な表情で作業をしている。 

 浩志はなるべく静かに扉を開けた。しかし、静まりかえった教室には十分に大きな音が響く。

 音に驚いて少女が顔をあげた。その顔に、浩志の瞳が見開かれる。そこに居たのは、昨日、中庭に佇んでいたあの少女だった。

「あっ……。え~っと、俺は、そのアレだ。……プリント……そう、プリントを置きに来ただけだ」

 少し前まで考えを巡らせていた相手に出会った驚きで、浩志は聞かれもしないのに言い訳めいた事を口にしながら教室へ足を踏み入れる。

 少女は浩志の言い訳など気にも止めず、視線を自分の手元へ戻し作業を再開していた。 机の上には色とりどりの折り紙が広げられている。 机の端にはその折り紙で造られたと思われる何かと、小さく輝くものが置いてあった。 浩志には、その小さな輝きがまるで自分に向かって放たれているような気がした。

 彼はその輝きに誘われるように少女の席に近づき、それをそっと手に取ってみた。 おもちゃの指輪だった。プラスチックのリングに透明の宝石に似せたものが付けられたそれは、中学女子が身につけるには些か子供っぽい感じがする。いつの間にか光を失い、ただの安っぽいおもちゃとなった手の中のそれを、浩志は不思議な気持ちでじっと見つめていた。 

「……なに?」 

 少女の前に立ちはだかるような形になっていた浩志は、突然の少女からの問いかけに驚き、思わず手を固く握る。

「えっ?」 
「何か用?」 
「いや、あの……。プリントを置きに……」
「それはさっき聞いた」
「あ~、そうか。……そうだな。悪い。邪魔した」

 彼は抱えていたプリントの山を無造作に教卓に置くと、どこかぎこちない足どりで教室を出て行った。
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