スターチスを届けて

田古みゆう

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3.2月16日

2月16日 p.1

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  さらに翌日。

 浩志の手の中には指輪があった。 昨日、少女の机に置かれていたおもちゃの指輪である。 

 少女に声をかけられたあの時、不意をつかれた浩志は指輪を握りしめたまま教室を出てしまった。

 帰宅しようと自分の荷物を取りに戻ったところで、自分が指輪を持って来てしまったことに気がついた。 浩志は急いで少女のもとへと戻ったが、一年二組の教室に少女の姿はなく指輪を返しそびれてしまったのだった。 

 朝一番で指輪を返そうと遅刻もせずに登校した浩志は、すぐに少女の教室へと向かったのだが、目当ての人物の姿は見当たらない。

 きっとまだ登校していないのだろうと、浩志はしばらくの間少女を待ってみた。 しかし、そこは後輩の教室の前。見慣れぬ生徒である浩志に対して向けられる周囲からの好奇な視線に程なくして耐えられなくなった彼は、少女を待つことを諦めそそくさとその場をあとにした。 

 少女の担任である小石川に指輪を託そうかとも考えたが、少女のことをどう説明したらよいのかわからなかった。 それ以上に、女子生徒のことを教師に問うことが、浩志にはなんだかとても気恥ずかしく思えて行動に移せなかった。 

 浩志は休み時間になる度に指輪を手の中でもてあそびながら、少女を再び見つけだす方法をあれやこれやと一日中思案していた。 

 そして今また、どうしたものかと教室の窓に身体を預けながら、浩志は指輪を太陽の光にかざすようにして眺めていた。 指輪を眺めたところでこれといった案も浮かばず渋い顔をする彼を覗き込むようにして、河合優が声をかけてきた。 

「なぁにそれ?」 

 優の問い掛けに、浩志は指輪をズボンのポケットへさっと滑り込ませながらぶっきらぼうに答えた。 

「別に」

 しかし、優は浩志の手の中にあったものをしっかりと確認していた。 

「ねぇねぇ、それって指輪じゃない? なんでそんなもの持ってるのよ?」 
「……預かってるんだよ」
「誰から?」 
「……」
「ねぇ、誰から?」 
「うるさいなぁ……誰だっていいだろ。お前の知らない奴だよ!」 

 指輪を持っていたことの気恥ずかしさと、いつにもない優のしつこい追求に、浩志は思わず窓の外へと顔を向ける。 

 窓から見える景色は、二日前と変わらない。 茶色い土が剥き出しになったままの寒々とした中庭の花壇。そして、先日と同じようにあの少女の姿がそこにはあった。 

 今日も少女は、殺風景な花壇をじっと見つめている。 

(見つけた!) 

 浩志は弾かれたように窓辺を離れ、廊下へと飛び出した。 
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