スターチスを届けて

田古みゆう

文字の大きさ
21 / 113
7.3月14日

3月14日 p.1

しおりを挟む
 翌日、浩志は一日中花壇を見ていたが、その場所でせつなの姿を捉えることはなかった。彼は授業が終了し校舎に人気がなくなるまで、いつものように窓際の席から花壇を見下ろしていたが、やがてガタリと席を立つと教室を後にした。そして、一年二組の教室へとやって来ると、教室の前扉からそっと室内を覗き見る。

 教室内には小さな影が一つポツンと座っていた。それは、浩志が今日一日探し求めていた少女の姿だった。机の上には、初めて言葉を交わしたあの日のように色とりどりの折り紙が広がっている。 机の端にはその折り紙で造られたと思われる何かと、小さく輝くものが相変わらず置いてあった。 

 以前感じたように、その小さな輝きがまるで自分に向かって放たれているように感じられた浩志は、此度もその輝きに誘われるように教室の扉をガラリと開けて少女の席へと近づいていった。無心でおもちゃの指輪に手を伸ばし、不思議な面持ちで指輪を見つめる浩志の鼓膜を乾いた声が震わす。

「何?」
「えっ?」

 彼はその声でふと我に返ると、目をパチパチとさせ少女の姿を視界に捉えた。

「それ、また持って行かないでよ」

 せつなは、浩志のことなどどうでもいいという風に突き放すような言葉を発する。そして、少しの間休めていた手作業を再開した。

「ああ。ごめん。何故だか、コイツに呼ばれてるような気になっちまうんだよな……」

 浩志はそう言いながら、手の中の小さな指輪をそっと机に置いた。そして、せつなの前の席の椅子を引くと、せつなのほうへ体を向けてストンと腰を下ろす。

「お前さ、コレ何のために作ってるんだ?」
「……」

 浩志が手にしたのは、折り紙で作られた一輪の花だった。茎の部分は折り紙をストローのように細く棒状に丸められており、花弁の部分は立体的に織り込まれたパーツが五つ集まって花弁を成しているようだった。下手ではないが上手くもなく、子供の手遊びの域を出ていないように彼には見えた。

「なぁ。お前、コレどうするんだ?」
「……せつなは、お前って名前じゃないっ!」

 せつなの冷たい視線にハッとした浩志は頭に手をやり、やってしまったという顔になる。

「あ~悪い悪い。俺、口が悪くてさ……つい……。せつなだよな。……アレ? 何せつなだっけ?」
「……蒼井」

 少女は浩志には視線を向けずにポツリと答える。

「蒼井せつなね! バッチリ覚えたっ! でも、もしまた俺がお前って言っても怒らないでくれ。悪気はないんだ。頼むよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...