スターチスを届けて

田古みゆう

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7.3月14日

3月14日 p.2

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 浩志は手をパンと打ち合わせ、少女に向かって頭を下げる。そんな彼にせつなはチラリと視線を投げかけただけで、作業の手を止めることはなかった。彼もそんな素っ気無い態度にも幾分慣れてきたのか、少女の無反応さに心を折られる事もなく自由気ままに会話を続ける。

「なぁ、せつな。知ってるか? 花壇の花咲いたんだぜ」

 彼の言葉に少女はそれまで休むことなく動かしていた手を止め、訝しむように眉根を寄せて浩志の顔を見た。反応があったことに幾分嬉しさを感じながら、浩志はニヤリと自信満々の笑みを覗かせる。そんな浩志に向かって、少女は相変わらず乾いた言葉を投げた。

「咲いてなんかない。せつな、毎日見てるもん」
「本当だって! 俺、昨日、この目でちゃんと見たんだ。せつなにも早く見てもらいたかったのに、昨日、花壇に来なかっただろ?」
「昨日は……新月だったから……」
「新月? 何だそれ? 早く帰って、塾にでも行く日だったのか?」

 浩志の言葉に少女はフルフルと頭を振った。その仕草は、何故だか力なく見え、どことなく寂しさが漂っている。

「昨日は……昨日は無理だったけど、咲いてない事は知ってるもん!」

 俯き少し声を震わせるせつなは、机の上に載せていた両手を強く握り込んでいて、まるで悔しさを耐えているようだった。浩志は少女が反応をしてくれたことに初めは喜びを感じたが、その態度に次第に緊迫感を覚えた。せつなの心を宥めようと優しく語り掛けようと努める。しかし気持ちに反し、少し弱腰な声が出た。

「ホントだって」

 そんな彼に向かって、少女は白けたように問う。

「じゃあ、どんな花だった?」
「いや、花は見てない。でも、土が盛り上がってたんだ」
「土?」

 彼の言葉の意味がわからなかったのか、少女は俯き気味だった視線を彼に合わせ首を傾げた。せつなの視線を捉えると浩志はしっかりと見つめ返し、力強く肯く。

「そう。土がこんもりと」

 彼は手で小さな山を表現した。少女はその手をじっと見つめつつ眉を顰めると、ボソリと口を開く。

「それって、花が咲いたんじゃなくて、もうすぐ芽が出るところじゃ?」
「あ゛っ」

 少女の指摘に浩志は口をあんぐりと開ける。ようやく彼は自分の間違いに気がついたようだった。

「そうだ。……花は咲いてない」

 彼は一瞬肩を落としたが、それでもすぐに力強い視線をせつなに向けた。

「でも、芽は出てるんだ! つまり、あの花壇にもうすぐ花が咲くってことだろ。やったじゃないか!」
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