スターチスを届けて

田古みゆう

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7.3月14日

3月14日 p.3

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 浩志は花壇の花になど全く興味はなかったが、小さな少女の背中を毎日のように探し求めるうちに、いつしか、少女の危惧を共有しているかのような気持ちになっていたのである。しかし、せつなは浩志の喜色を孕んだ声に難色を示すように眉を顰めるばかりだった。

「今、芽が出ても、きっと間に合わない」

 小さな声が少女の口からポロリとこぼれ落ちる。それはとても小さく、昼間の喧騒の中なら誰にも聞かれない言葉だったかもしれない。しかし、今はそんな小さな声もハッキリと彼の耳に届いてしまう。

「間に合わないって、何にだよ?」

 浩志は不思議そうにせつなを見やる。そんな彼の視線を避けるようにせつなは顔を逸らし押し黙った。少女から反応が返ってこなくなり手持ち無沙汰になった彼は、手近にあった折り紙を棒状に丸めた物を何気なく手に取り指先でクルクルと弄び始めた。教室は、まるで誰もいないかのような静寂に包まれる。

 しばらくすると、せつなは浩志の手から折り紙の棒を取り上げた。手作業を再開させつつ、静かに口を開く。

「お姉ちゃんが、もうすぐ結婚するの」
「ふ~ん。結婚? 随分と歳の離れた姉ちゃんがいるんだな」

 暇つぶしに弄んでいたオモチャを取り上げられた彼は、机に頬杖を突く。せつなの小さな声が彼の耳元近くで聞こえた。

「だから、お花を送りたかったの」
「あそこの花か?」
「そう。でも、間に合いそうにないから作ることにしたの」
「花屋で買うんじゃダメなのか?」

 浩志は至極当然のように少女に問いかけたが、その問いに少女はフルフルと頭を振るだけだった。彼にはまだ結婚を祝うような相手もいないし、ましてや、誰かに花を送ろうと思ったこともないので、何故花屋がダメなのかさっぱりわからなかった。だが、何かこだわりがあるのだろうと思い深く考えることはしなかった。

「花を送れないから花を作るってことは、まぁ良いとして。一体どれくらい作るんだ?」
「たくさん」
「たくさんって……具体的に何本とか決めてないのか?」

 彼の質問に、少女は手作業を止めずにフルフルと頭を振る。

「姉ちゃんにあげるのって、今作ってるやつだろ? 結構面倒臭そうだけど、間に合うのか?」

 少女は再び頭を振る。

 浩志はため息を吐くと、手近にあった棒状の物をもう一度手に取った。じっくりと眺める。やがて、紙の束から緑色の折り紙を取り出すと器用にクルクルと丸め始めた。彼の行動に驚いたせつなは手を止め、彼の手元を注視する。
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