スターチスを届けて

田古みゆう

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12.3月19日 (3)

12.3月19日 (3) p.5

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 せつなは寂しそうな影をその幼い顔に落として、昔語りを静かに続ける。

「中学生になったら、この制服を着て毎日学校に通うんだって思ってた。せつなはね、体が弱くて小学校にはあまり通えなかったんだ。だから、ともだちもあまりいなくて……。でも、手術をして元気になったら中学校に通えるようになるって、お医者さんに言われたの。だから、がんばって手術をして、もうすぐ退院だったの。そんな時、お姉ちゃんが学校の花壇に種まきをするって聞いて、どうしてもせつなも一緒にやりたいってお願いしたんだ。少しでも早く学校に行ってみたかったから」

 せつなはそこで言葉を切った。その隙を突いて浩志が口を開く。

「手術、したんだろ? もうすぐ退院だったんだろ? それがどうして?」
「それは……。せつなが……せつなが悪いの」

 せつなは目を伏せ、悔しそうに唇を噛む。

「お医者さんは条件付きで外出を許可してくれた。でも、土いじりはダメだと言われたの。まだ免疫力が弱いせつなには、土の中のバイキンは良くないからって。それなのに、せつなはお医者さんとの約束を破ってしまったの。だって、せっかく学校に来たのに見ているだけなんてつまらないから。十分に気を付ければ大丈夫だと思ってた」

 花壇の間を風が抜けていく。それは、ぬくぬくとした春先の暖かくて包み込むような風ではなく、まるで冬に戻ってしまったかのような鋭く刺す冷たい風だった。浩志と優はぶるりと体を震わせる。せつなだけはそんな風など気にしないとでも言わんばかりに淡々と話し続ける。

「花壇の手入れは正人くんに教わりながらしたの。俊ちゃんは園芸部じゃなかったけど、あの日はせつなたちに付き合ってくれたんだ。お姉ちゃんは始め、せつなが土を触る事を許さなかったんだよ。でも、絶対怪我をするような事はしない。無理もしないからって無理矢理お姉ちゃんにお願いして、作業をする事を渋々許してもらったの」

 せつなは昔を懐かしむように少し遠い目をしている。小石川からその時の写真を見せられていた浩志と優には、その時の光景が目に浮かぶようだった。

「土を掘り起こしたり、種を撒いたり。今までしたことがなかったから、もう楽しくて。夢中でやった。服は所々汚れたけど、怪我をする事もなく無事に作業を終えることができたの。その時に、新聞部の人が校内新聞のネタを探しているから、写真を撮らせてほしいと来たんだ。その時の写真が、二人が見たやつだよ」
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