スターチスを届けて

田古みゆう

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12.3月19日 (3)

12.3月19日 (3) p.6

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 浩志と優は、せつなの話に無言で頷いた。

「特に怪我をする事も体調が悪くなる事もなくて、最後はみんなで楽しく笑って病院へ戻ったの。同級生より一足早く中学生を体験したみたいで、その日のせつなは少し興奮してた。それが良くなかったの。みんなが帰った後で、せつなは熱を出したの。そして……」

 せつなは後悔と悔しさを噛み殺すように唇を噛み締めた。

「元々、他の人よりも抵抗力が弱かったんだけど、その熱が原因でさらに抵抗力を弱めてしまったの。どこにも怪我なんてしなかった。だから、ちょっと油断していたんだ。まさか、空気中の微生物が原因で死ぬことになるなんて……」

 息を呑む浩志と優に向けて少女は寂しそうな笑顔を見せる。しかし、次第にその顔を歪ませ声を震わせ始めた。

「病気を甘く見てた。自分の病弱さを分かっていなかった。完全にせつな自身が悪いの」

 せつなは涙の粒をいくつもいくつも頬に伝わせながら、悔しそうに言葉を紡ぐ。

「せっかくお花が咲いてもお姉ちゃんと一緒に見ることができなかった。中学校へ行けなかった。制服が着られなかった。それは、全部せつなが悪いの」

 次から次へと溢れ出す涙を手の甲で拭いながら一生懸命に話すせつなの声が、浩志と優の鼓膜を震わせる。優はせつなの声と涙に耐えられなくなったのか、瞳を潤ませもらい泣きをしていた。浩志は泣くまいと顔を歪ませ、必死に涙に耐えている。まだ経験の浅い二人には、悔し涙を止める言葉など持ち合わせておらず、ただ黙って、せつなの声に耳を傾けることしか出来なかった。せつなは胸の内を全て吐き出すかの如く、話し続ける。

「せつなは熱に浮かされながら、ずっと願っていたの。新しい制服を着て、学校に行きたいって。お姉ちゃんとお花を見たいって。すごくすごく思ったの」

 せつなが言葉を切る。涙の溜まった瞳のままで、困ったようにはにかんだ。

「あまりにも強く願ったからかな? 気がついたら、制服を着てここに居たの。……それからずっとここに居るの。せつなは一人でずっと……」

 せつなの言葉を拾い、ようやく浩志が口を開いた。

「それからって……? もしかして、十五年前からずっとか?」
「分からない。でも、多分そう。せつなには、もう何年とかそういう時間経過はわからないの。ただ分かるのは、アレからずっと独りぼっちだったってこと。誰にもせつなの事は見えなかったから」
「じゃあ、どうして私たちにはせつなさんのことが見えるの?」
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