スターチスを届けて

田古みゆう

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13.3月20日

13.3月20日 p.2

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 春休みは、課題なんて苦行は課されない唯一のんびりダラダラ過ごせる時なのだ。それなのに今日はそんな過ごし方は許されないらしい。

 優の顔やせつなのことが頭を掠める。浩志はどこかそわそわとして、とても漫画を読む気分にはなれなかった。チラリと部屋の隅へ目をやると、まるで抜け殻のごとく浩志が抜け出した時の形を保ったままのベッドが主を誘っているような気がした。いつもならそんな誘惑になんなく屈する彼だったが、今日はそういう訳にはいかない。

 浩志はベッドから視線を外すと、制服の上着とほとんど何も入っていないリュックを掴み、部屋を出た。優はゆっくりでいいと言っていたが、手持ち無沙汰で家にいるよりはさっさと学校へ行ってしまおうと考えた浩志は、日に日に暖かさが増してくる空気の中、ゆっくりと学校へ向かった。

 優の部活が終わるよりも早く学校へ到着してしまった浩志の足は、迷うことなく中庭を目指す。校舎に挟まれながらもしっかりと太陽の日を浴びて明るく照り返す中庭のいつもの花壇の前には、そこが定位置であるかのように少女の姿があった。

「居ないかと思った」

 不意打ちのような浩志の声に、せつなは驚きもせず振り返る。

「いつも見かけるのは夕方近くだったから、そのくらいの時間じゃないと会えないかと思ってた」
「せつなは、いつだってここにいるよ」

 淡々と答えるせつなに、浩志は数日前の事を思い出し意地悪く少女の顔を覗き込みながら言う。

「そうなのか? あれ? でも、待ってても会えなかった日があったぞ?」
「ああ。あの時は新月だったからね。いつもそうなの。月のない新月の日は、何故だか実体化できないんだ。何かの力が働いてるのかな? なんかさ、月って神秘的だと思わない?」

 そんな事を言いながらせつなは空を見上げた。今は、太陽の光を隠れ蓑のようにして隠れている月を見やり、クスリと笑う。昨日の友情宣言以降、せつなはそれまでと違い饒舌だった。軽口を言ったつもりだったのに、それを楽しげにかわすせつなに、思わず浩志にも笑みが溢れる。

「せつなってさ、ホントはそんなにしゃべる奴だったのな」

 浩志の言葉に、少女はハッとしたように空に投げていた視線を彼へと向ける。

「ごめん。せつな、しゃべりすぎだった? うるさかった?」
「いや、そういう事じゃない。ただ、今までよりも良くしゃべるなと思っただけだから。悪い。気にするな」

 浩志の遠慮のない物言いに、少女は少し顔を曇らせる。
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