スターチスを届けて

田古みゆう

文字の大きさ
63 / 113
13.3月20日

13.3月20日 p.8

しおりを挟む
「そうなのか?」

 浩志は驚いたように目を見開く。そんな彼に対して、彼女は残念そうに一度首を振る。

「たとえばの話よ。でも例えば、おうちに帰ってお母さんの作ったグラタンが食べたかったと思い続けているせつなさんがいたとしたら、せつなさんのココロノカケラはどこにどういう状態で現れると思う?」
「そりゃあ家だろ。しかも、キッチンだな。きっと料理している母ちゃんにべったりだ」

 浩志は冗談めかして答える。その答えにせつなは思わず優の腕の中で顔をあげて、プウっとかわいらしくむくれて見せた。そんなせつなに優は安心したように笑顔を向けてから話を続ける。

「きっとそうね。そのときはたぶん、学校に行きたいだとか花の咲くところが見たいなんて思いはどこにもないんじゃないかな。ただひたすらにお母さんのグラタンのことを思ってると思うの。強く思うってそういうことじゃない?」

 優の言葉に浩志は感心したように大きく頷いた。

「確かにそうだな。ここにいるせつなは学校と花と制服、これを強く思っているせつなだもんな。せつなの口からグラタンなんて単語聞いたことないし」
「まぁ、それはあくまでも例えだけどね」

 浩志の答えに優は苦笑いを浮かべる。それから気を取り直したように真顔になると話を続けた。

「だからね、せつなさんがお母さんの事をこれまで思っていなかったのは忘れていたとかそういう事じゃなくて、せつなさんを形作っているもの、学校や花や制服やそれに関連する思いがより強く表面に出ていただけ」

 優は真顔のまませつなを見据えキッパリと言い切る。

「でも、お母さんの事がせつなさんの中に全くないかというとそれは違って、お花を見たいと思うせつなさんの中にも、やっぱり、お母さんという要素はちゃんとあると思う。さっきは、成瀬の言葉をきっかけにお母さんの事が意識の表面上へ引っ張り上げられたんじゃないのかな」

 少女は顔を上げて涙の止まった瞳で優の真顔を受け止めていた。

「そう、なのかな」

 せつなは小首を傾げつつ、自分の中の思いと向き合おうとするかのように、中空を見つめぼんやりとする。そんなせつなと優の顔を交互に見比べつつ、浩志は感心したように口を開いた。

「お前すごいな。なんでそんなこと知ってるんだよ?」
「知ってる訳じゃないよ。ただそんな気がするだけ」

 優は困ったように肩を竦め、また真顔になる。

「それでね。私は、せつなさんの力になりたいと思ってるんだけど」
「え?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...