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番外編 きみに、心ほどかれ(4)
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気づかわしげな視線を感じながらも、何も言うことができずに黙っていると、やがて彼女が口を開いた。
「私、今日初めてScorpioのライブに来たんです。……すごく感動しました。みんな、キラキラしてて」
弾むような口調は、彼女の興奮をそのまま表していた。Scorpioのことを語る彼女はとても楽しそうだった。彼女が話すたびに辺りに優しい空気が満ちていくのがわかる。
だけど、俺はそんな空気には触れたくなかったし、一緒に浮かれる気にもなれなかった。俺の隣で彼女がScorpioのことを褒めるたび、胸の奥底から黒いモヤがまた少しずつ湧き上がってくるのを感じた。
やめてくれ。あいつらの話は聞きたくないんだ。
そんな俺の心情など知る由もない彼女は、無邪気な様子で話を続ける。どうやら蓮のファンらしい。ひたすらに蓮のかっこよさを語り続ける。やがて、俺は我慢できずに口を開いていた。
「やめてくれ! 俺は、あいつらみたいにはなれないんだ!」
俺の中の嫉妬が、また黒く燃え上がる。そんな俺の言葉に彼女は一瞬驚いたような顔をした後、すぐに優しい表情になった。そしてこう言ったのだ。
「努力は裏切らないらしいですよ」
その声があまりに優しかったからだろうか。それとも、彼女があまりにも平然としていたからだろうか。俺の口から毒気の抜かれた間抜けな声が漏れた。
「は?」
眉を顰める俺に、彼女はにっこり笑う。
「『なれない』って言うことは、裏を返せば『なりたい』ってことでしょ? 蓮が言っていたんです。『努力は裏切らない』って。蓮みたいになりたいのなら、努力し続ければいいんですよ」
彼女の言葉に俺は何も言えなかった。正論すぎて何も言い返せなかった。彼女はそんな俺の反応など気にする素振りもなく、蓮の話題へと戻っていく。
俺はもう、何を言えばいいのかわからなくて、彼女の話をただ聞くことしか出来なかった。彼女は飽きることなく蓮のことだけを口にする。だけど不思議と嫌な気はしなかった。
彼女が話す蓮は、俺の知る蓮とは違った。別人の話を聞いているようだった。あいつは、ファンにはそう見えているのかと思うと、可笑しくさえあった。
彼女に「俺はきみが心酔する蓮の知り合いなんだぞ」とか、「本当の蓮はそんな奴じゃないぞ」とか、言ってやりたい気になった。けれど結局何も言えないまま、彼女の話に耳を傾け続けた。
「あっ! そうだ」
彼女はそう言って、鞄からおもむろに飴を取り出した。
「私、今日初めてScorpioのライブに来たんです。……すごく感動しました。みんな、キラキラしてて」
弾むような口調は、彼女の興奮をそのまま表していた。Scorpioのことを語る彼女はとても楽しそうだった。彼女が話すたびに辺りに優しい空気が満ちていくのがわかる。
だけど、俺はそんな空気には触れたくなかったし、一緒に浮かれる気にもなれなかった。俺の隣で彼女がScorpioのことを褒めるたび、胸の奥底から黒いモヤがまた少しずつ湧き上がってくるのを感じた。
やめてくれ。あいつらの話は聞きたくないんだ。
そんな俺の心情など知る由もない彼女は、無邪気な様子で話を続ける。どうやら蓮のファンらしい。ひたすらに蓮のかっこよさを語り続ける。やがて、俺は我慢できずに口を開いていた。
「やめてくれ! 俺は、あいつらみたいにはなれないんだ!」
俺の中の嫉妬が、また黒く燃え上がる。そんな俺の言葉に彼女は一瞬驚いたような顔をした後、すぐに優しい表情になった。そしてこう言ったのだ。
「努力は裏切らないらしいですよ」
その声があまりに優しかったからだろうか。それとも、彼女があまりにも平然としていたからだろうか。俺の口から毒気の抜かれた間抜けな声が漏れた。
「は?」
眉を顰める俺に、彼女はにっこり笑う。
「『なれない』って言うことは、裏を返せば『なりたい』ってことでしょ? 蓮が言っていたんです。『努力は裏切らない』って。蓮みたいになりたいのなら、努力し続ければいいんですよ」
彼女の言葉に俺は何も言えなかった。正論すぎて何も言い返せなかった。彼女はそんな俺の反応など気にする素振りもなく、蓮の話題へと戻っていく。
俺はもう、何を言えばいいのかわからなくて、彼女の話をただ聞くことしか出来なかった。彼女は飽きることなく蓮のことだけを口にする。だけど不思議と嫌な気はしなかった。
彼女が話す蓮は、俺の知る蓮とは違った。別人の話を聞いているようだった。あいつは、ファンにはそう見えているのかと思うと、可笑しくさえあった。
彼女に「俺はきみが心酔する蓮の知り合いなんだぞ」とか、「本当の蓮はそんな奴じゃないぞ」とか、言ってやりたい気になった。けれど結局何も言えないまま、彼女の話に耳を傾け続けた。
「あっ! そうだ」
彼女はそう言って、鞄からおもむろに飴を取り出した。
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