推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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番外編 きみに、心ほどかれ(6)

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 だから、あの日きみを見かけた瞬間、胸がざわついた。

 あの時の子だって。

 きみは傍目に見ても肩を落としているのがわかった。ふらふらとした足取りも危なっかしい。そんなきみの様子にいてもたってもいられなくて、思わず声をかけていた。

 怪訝そうなきみの顔を見て、しまったと思った。俺は何をやってんだ? と。

 名前も知らないような男に急に話しかけられたら、警戒するに決まってる。俺はその場を取り繕うのに必死だった。あのまま、きみを帰したくなかった。

 後から思い返してみると、怪しさ満点だったと思う。でも今にして思えば、あの時俺は既にきみに恋をしていたんだと思う。名前も何も知らないきみに。きみについて知っていることは、蓮が好きだということだけだった。だからもっと知りたいと、もっと話したいと思った。

 相変わらずきみの話は、蓮のことばかり。いつだって俺の前には蓮が立ちはだかる。あいつの存在感は、ホントに困りものだ。だけど、蓮の存在が俺ときみとの繋がりを生んだのは間違いない。ムカつくけど、こればっかりは仕方がない。甘んじて受け入れるよ。

 俺は僻むんじゃなくて、努力をする。これから先、きみの世界に俺という存在を刻む努力を。努力が実ったときこそ、俺は蓮という壁を越えられる。

 俺がきみに恋をしたのは、当然のことだったんだと思う。だってきみは、卑屈な思いに雁字搦めになっていた俺の心をほどいてくれた人だから。俺に道を示してくれた人だから。惹かれるなというほうが無理な話である。

 あの日から今日までずっと、俺の中できみは特別な存在。今はまだ言えないけれど、いつか必ず俺の気持ちを伝えたい。そして、君の隣で、胸を張って笑いたい。

 きみにあの時の話をするのは、望む未来を掴み取ってから。それまでは、あの日のことは俺の胸の中にだけしまっておくよ。

 きみと出会えたこの奇跡を、運命だと言えるその日まで、俺は前に進み続ける。




全編、完結しました☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
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