クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
117 / 155

去り行く背中を追いかける(4)

しおりを挟む
 私はシロ先輩の背中にそっと手を回した。どれくらいの間そうしていたのだろう。不意に、耳元でシロ先輩が囁いた。

「クロ、俺、勘違いしてもいいか?」

 その声に、私はゆっくりと瞼を開ける。見上げると、シロ先輩の顔はとても近くにあった。シロ先輩が真っ直ぐに私を見下ろしている。その瞳の奥にある熱に気がついて、ドクンと心臓が跳ねた。

 シロ先輩の言葉の意味を理解した途端、顔がカァッと赤くなる。きっと今の私は茹でダコみたいになっているに違いない。恥ずかしくて居ても立ってもいられず、私はギュッと強く目を閉じる。

 すると、唇に柔らかい感触が触れた。シロ先輩の唇だと理解するのにそう時間はかからなかった。それはすぐに離れてしまった。私は無意識にそれを追いかけて、今度は自分からキスをする。チュッとリップ音をさせて顔を離すと、シロ先輩は驚いたように目を大きく開いた。

 私は、シロ先輩の目を見て、はっきりと告げる。

「好き」

 シロ先輩は、一瞬息を飲むと、何かを言いかけて口を閉ざした。そして、もう一度シロ先輩の方から口づけてくる。今度はなかなか離れていかない。むしろ、どんどん深みを増していって、呼吸の仕方を忘れてしまいそうだ。

 息苦しくなって薄く口を開くと、そこからヌルリと熱い舌が入り込んできた。歯列をなぞるように動き回るそれに翻弄されて、頭がくらくらとしてくる。先ほどとは比べものにならない程深いキスに、私の思考は甘く溶けていく。

 息が続かない。苦しさに思わず身じろぐと、シロ先輩がハッとしたように顔を離した。それから、バツが悪そうな顔で俯いた。

 そんなシロ先輩の様子を見た私は、クスッと小さく笑ってしまった。だって、シロ先輩があまりにも可愛かったから。

 そんな私に気づいたのか、シロ先輩は拗ねたような顔のまま、ムニッと私の頬をつねってきた。痛い。でも、全然嫌じゃない。

 いつの間にか、涙は完全に乾いていた。

 私が笑うのをやめると、シロ先輩は再び抱きしめてくれた。優しく包み込むような抱擁に、心の底から安堵する。やっぱり、この人の側が一番落ち着く。

 私はシロ先輩の胸に頭を預けながら、ぽつりと呟いた。

「幸せすぎて怖いなぁ」

 それは、とても小さな呟きだったけれど、シロ先輩はちゃんと拾ってくれたらしい。私の髪を撫でながら、シロ先輩は優しく言う。

「それは、俺のセリフだ」

 その言葉を聞いた私は嬉しくなって、シロ先輩の胸板にグリグリとおでこを押し付けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...