クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
118 / 155

去り行く背中を追いかける(5)

しおりを挟む
 シロ先輩が、私をぎゅっと抱き締める。私達はお互いの存在を確かめ合うかのように、しばらくの間そのままでいた。

 やがて、どちらからともなく身体を離す。シロ先輩は、いつもよりも優しい表情で微笑んでいた。私も、ニヘラと笑い返す。

 シロ先輩の手が私の頬に触れる。再び距離が近づくことを期待して目を閉じる。しかし、予想に反して、シロ先輩の指は私の頬をムニっとつまんだだけだった。予想外のことに、パチッと目を開けると、シロ先輩が悪戯っぽそうな笑顔を浮かべていた。

 何だか悔しくなって、私はプクッと頬を膨らませる。シロ先輩はそれを見ると、可笑しそうに笑って言った。

「何を期待してたんだ?」

 私は、さらにフグのようにぷっくりと頬を膨らませた。シロ先輩は、しばらくその様子を見て笑っていたが、そのうちに、ふっと真顔になった。どうしたのかと思って首を傾げていると、シロ先輩は私をじっと見つめながら言った。

「俺の勘違いじゃないんだな?」

 その質問に、私はコクリとうなずく。すると、シロ先輩は満足そうに目を細めた。そして、また真剣な顔に戻る。

 今度は何を言われるのだろうとドキドキしていると、シロ先輩は少し照れたように視線を落とした後、意を決したように口を開いた。

「いつからだ? その……、いつから、その、好き、とか……」

 シロ先輩にしては珍しく歯切れの悪い物言いである。私は、シロ先輩の言わんとしていることを察して、少しだけ気恥ずかしくなった。

 いつから好きかなんて、そんなことは私にも分からない。シロ先輩のことを意識し始めたきっかけは萌乃の言葉だったけれど、今となっては、それがきっかけだったということすら自信がない。もしかしたら、私は、ずっと前からシロ先輩のことが好きだったのかもしれない。でも、自分の気持ちを認めることが怖くて、ずっと気がつかないふりをしていたのかもしれない。

 そんなことを考えているうちに、私は、何と答えるべきなのか分からなくなってしまった。黙り込んでしまった私を見て、シロ先輩が不安そうに眉を下げる。私は慌てて口を開いた。

「いつからかはよく分かりません。でも、この気持ちは多分勘違いなんかじゃありません」
「……多分ってなんだよ」

 私の答えに、シロ先輩は不満そうに口を尖らせた。私は苦笑いをして答える。

「だって、仕方ないじゃないですか。自覚したのは最近なんですから」

 私の開き直ったような答えに、シロ先輩も苦笑いを浮かべる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...