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第56話 意外な素性
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セピア色の写真を見た上原は静かに驚く。
「本当にそっくり……」
「そうだろう。初めてあんたに会った時、さすがに驚いたよ。やはり親子だね」
古賀は遠い目をして笑う。
写真を返した上原は尋ねた。
「母は今、どこにいるんですか」
「あんたを外に捨てた後、戻ってきて死んだよ。外で生き続ける道もあったんだが……不安だったんだろう」
「不安?」
「朽津間ビルでの生活に慣れた人間が、外の世界でやっているわけがない。そういう先入観さ。別に間違っちゃいない認識だがね。命惜しさに逃げた奴らも、だいたいがここへ戻ってくる」
古賀は唇を僅かに噛んで言う。
腕を組んだ工藤が、何度も頷きながら言葉を続けた。
「魚が陸では生きていけないように……環境ってのは大事なんだよなぁ」
「そういうあんたは月に何度か外で遊んでるじゃないか」
「パチンコと競馬はやめられないもんでね。あと酒……漫画の新刊も外せねえし、美味いメシも……」
工藤は指を折って欲望を数える。
呆れて古賀は嘆息しつつ、懐からネックレスを取り出した。
ハート形を半分にしたものだった。
「母親の遺品だ。持っときな」
「ありがとうございます……これ、ペアネックレスですよね」
「……そうだよ。片割れはあんたの父親が持ってる」
古賀の言葉を聞いた瞬間、上原は目を見開く。
彼女は恐る恐る訊いた。
「父は生きていますか」
「ああ、元気さ。朽津間ビルの管理者としてね」
「管理者……?」
「そのままの意味さ。このビルの支配し、地獄のような混沌を生み出す元凶だね。最上階ですべて監視しているそうだよ」
母親の死、そして父親の正体を知った上原は黙り込む。
やがて彼女は一つの事実に辿り着いた。
「私を最上階に連れて行く理由って、まさか……」
「父親の代わりに、あんたを次の管理者にするためだね」
「ど、どうして私なんですか」
「あんたには、母を捨てた父に復讐する権利……そして、混沌を引き継ぐ責務がある」
古賀が確固たる口調で告げる。
一方で工藤は気楽な様子で補足した。
「まあ、嫌なら断ってくれてもいいぜ。その時は責任もっておいらが外まで連れ出そう」
「――工藤。あんた余計なこと言うんじゃないよ」
「いきなり復讐だとか責務だとか、結構な無茶ぶりだろ? この子にだって拒む権利はある」
「…………」
言い返された古賀は不機嫌そうに工藤を睨みつける。
工藤は口笛を吹いて肩をすくめてみせた。
上原は床を見つめたまま固まる。
驚きや疑念、悲しみに困惑……様々な感情が彼女の中で絶えず渦巻いていた。
数分ほど逡巡した後、上原は決意した顔で口を開く。
「私は……」
彼女が答えを出す寸前、出入り口の扉が開く。
そこから現れたのは、セーターを着た皺だらけの老婆だった。
骨ばった左右の手には、赤黒く錆びた刀と匕首が握られていた。
「本当にそっくり……」
「そうだろう。初めてあんたに会った時、さすがに驚いたよ。やはり親子だね」
古賀は遠い目をして笑う。
写真を返した上原は尋ねた。
「母は今、どこにいるんですか」
「あんたを外に捨てた後、戻ってきて死んだよ。外で生き続ける道もあったんだが……不安だったんだろう」
「不安?」
「朽津間ビルでの生活に慣れた人間が、外の世界でやっているわけがない。そういう先入観さ。別に間違っちゃいない認識だがね。命惜しさに逃げた奴らも、だいたいがここへ戻ってくる」
古賀は唇を僅かに噛んで言う。
腕を組んだ工藤が、何度も頷きながら言葉を続けた。
「魚が陸では生きていけないように……環境ってのは大事なんだよなぁ」
「そういうあんたは月に何度か外で遊んでるじゃないか」
「パチンコと競馬はやめられないもんでね。あと酒……漫画の新刊も外せねえし、美味いメシも……」
工藤は指を折って欲望を数える。
呆れて古賀は嘆息しつつ、懐からネックレスを取り出した。
ハート形を半分にしたものだった。
「母親の遺品だ。持っときな」
「ありがとうございます……これ、ペアネックレスですよね」
「……そうだよ。片割れはあんたの父親が持ってる」
古賀の言葉を聞いた瞬間、上原は目を見開く。
彼女は恐る恐る訊いた。
「父は生きていますか」
「ああ、元気さ。朽津間ビルの管理者としてね」
「管理者……?」
「そのままの意味さ。このビルの支配し、地獄のような混沌を生み出す元凶だね。最上階ですべて監視しているそうだよ」
母親の死、そして父親の正体を知った上原は黙り込む。
やがて彼女は一つの事実に辿り着いた。
「私を最上階に連れて行く理由って、まさか……」
「父親の代わりに、あんたを次の管理者にするためだね」
「ど、どうして私なんですか」
「あんたには、母を捨てた父に復讐する権利……そして、混沌を引き継ぐ責務がある」
古賀が確固たる口調で告げる。
一方で工藤は気楽な様子で補足した。
「まあ、嫌なら断ってくれてもいいぜ。その時は責任もっておいらが外まで連れ出そう」
「――工藤。あんた余計なこと言うんじゃないよ」
「いきなり復讐だとか責務だとか、結構な無茶ぶりだろ? この子にだって拒む権利はある」
「…………」
言い返された古賀は不機嫌そうに工藤を睨みつける。
工藤は口笛を吹いて肩をすくめてみせた。
上原は床を見つめたまま固まる。
驚きや疑念、悲しみに困惑……様々な感情が彼女の中で絶えず渦巻いていた。
数分ほど逡巡した後、上原は決意した顔で口を開く。
「私は……」
彼女が答えを出す寸前、出入り口の扉が開く。
そこから現れたのは、セーターを着た皺だらけの老婆だった。
骨ばった左右の手には、赤黒く錆びた刀と匕首が握られていた。
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