朽津間ビル25階3号室

結城絡繰

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第92話 残酷な要求

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 沢田は大きく息を吐いて脱力する。

「よく分からんが助かったな。松本の野郎……何があったんだろうな。何はともあれ、脱出するなら今のうちだ」

「それは困ります」

 響き渡る一発の銃声。
 沢田は自身の腹部に赤い染みを認める。
 染みはじわじわと広がり、続けて痛みも強まってきた。
 傷口を押さえた沢田は唸る。

「て、てめぇ……ッ」

 拳銃を構えているのはコレクターだった。
 彼は澄まし顔で沢田に歩み寄る。

「松本さんはもう助けに来ませんよ。痩せ我慢していましたが、かなり無理をしていらっしゃったようですから」

 コレクターが沢田を突き飛ばす。
 よろめいた沢田は、崩れた壁からビルの外へ倒れた。
 彼はなんとか縁に掴まって落下は免れるも、その指をコレクターが踏み付ける。

「粘らないでくださいよ」

「何してんだ、この野郎……!」

「これも必要な行為なのですよ。ご理解ください」

「畜生、てめぇはいつか絶対に殺――」

 会話の途中、コレクターが沢田の指をまとめて踏み折る。
 沢田は叫び声を上げて落下していった。

 突然の事態に呆然としていた上原が、血相を変えて壁際まで走る。

「先生っ!」

 落下した沢田が、外壁の凹凸にぶつかりながら落ちていく。
 飛び散る鮮血を目撃し、上原はショックで固まってしまった。

「ああ……そんな……」

「動かないでくださいね」

 上原の後頭部にコレクターが銃口を当てる。
 彼は片手で携帯電話を操作し、誰かと話し始めた。

「はい……ええ、それで大丈夫です……細かい部分は葛城さんにお任せします。生きていれば問題ないです」

 通話を終えたコレクターは、銃を構えたまま上原に説明する。

「このビルの医者……朽津間クリニックに連絡しました。沢田さんはまず助かるでしょう」

「ど、どうしてこんなことを……」

「あなたに管理者の業務を全うしていただくためです」

 コレクターは穏やかに答える。
 まるで世間話を楽しんでいるような姿が、却って彼の狂気を際立たせていた。

「上原さん。あなたが朽津間ビルの管理を断れば、沢田さんの治療を止めてもらいます。選択してください」

「そんなの、決まってるじゃないですか……!」

「ええ、知っています。だからご自身の口でお答えください」

 要求を受けた上原は涙を流す。
 迷いなどなかった。
 最初から選択肢など存在しなかったのだ。
 上原は黙って頷くしかなかった。
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