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短編(1話完結)
守り猫
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(少しですが地震の表現がございます)
うちの家系には、代々、「守り猫」というものがいるらしい。
何でも大昔、化け猫の総大将を貧乏なご先祖様が自分の生死すら顧みず、ごく僅かな私財を擲って助けたらしく、化け猫の総大将はその礼に未来永劫一族を守ると言ったらしい。
そんな昔話が本当かは知らない。
だが、うちの家系には必ず「守り猫」なるモノがいる。
目に見える猫じゃない。
正直、誰も見た事がない。
ただ、声を聞く事がある。
ある時、どこからか猫の鳴き声が聞こえる。
野良猫が入り込んだのかと探していると、ぶっ倒れているその家の家長を見つけたのだそうだ。
大慌てで医者に運んで事無きを得たが、発見が遅ければ危うかったらしい。
またある時は、夜道を一人歩いていると背後から「ニャー」と言う声がする。
しかし振り向いても何もいない。
おかしいなと思いまた歩き出すと「ミャー」と聞こえる。
何度もそれを繰り返し、薄気味悪くなったその人は走って帰ったそうだ。
家につくと、無事で良かった良かったと家の者たちが安心する。
何事かと聞いてみたら、どうも隣町に通り魔が出て、背後から斬りつけてくる事件が起きていたようだった。
しかもまだ犯人が捕まっておらず、こっちに来ていたらと心配していた様だった。
その人は通り魔は出なかったが、何度も猫の鳴き声を聞いて、怖くなって走って帰ってきた事を話した。
そんな最中に外が騒がしくなり出てみれば、通り魔が出たとの事だった。
それはさっきまでその人が歩いていた道だった。
家族のものは顔を見合わせた。
幸い襲われた近所の人もあわやというところで突然、犯人が逃げ出して軽い怪我で済んだらしい。
後日、犯人は出頭してきて捕まった。
何でも最後の犯行の後からずっと見えない猫に追われていて、怖くなって自首してきたという話だった。
またある夜、家族が寝静まっていると、物凄い猫の叫び声が耳元で聞こえて全員が飛び起きた。
あまりの声に皆怯えて部屋を飛び出し、顔を見合わせた。
しかしどこからか猫の唸り声は聞こえ続け、しまいには暴れているのかあちこちで物が倒れたり音を立てたりし始める。
恐ろしくなった家族は何も持たずに家を飛び出した。
するとその後すぐ大地震が来た。
庭で固まっていた家族は難を逃れた。
家は倒壊しなかったものの、家の中はめちゃくちゃで、あのまま寝ていたら……と言っていたそうだ。
そんな感じで、うちの家系には「守り猫」がいる。
残念ながら「招き猫」ではないので、富に見舞われ大金持ちになったりとかはしない。
たまにそうやって不思議な事があり、「守り猫」の話題が上がるのだ。
本家なんて言うほどのものもなく、ごく普通にそれなりの親戚がいる普通の家。
多分これからもそんな感じだろうと思う。
「最近はめっきり「守り猫」の話も聞かなくなったなぁ。」
「まぁ、随分と長く守られてたし、それなりに親戚もいる訳だし、大猫様もそこまで面倒みきれないさ。」
そんな話が親戚同士で集まった時に出るようにもなっていた。
そんな集まりの裏、出かけて留守になっていたある家の中。
ガラス戸を割って侵入した泥棒が金目の物を物色し始めていた。
「ニャー。」
背後からそんな声がする。
情報にはなかったが、この家は猫を飼っているのだなと気にしなかった。
「ニャー。」
また背後で声がする。
引き出しやらを開けているので、おやつがもらえると思っているのかもしれない。
ちらりと振り返るが、猫はいなかった。
飽きてどこかに行ってしまったのだろうと作業に戻った。
「ニャー。」
そんな泥棒の耳元で、それは聞こえた。
瞬間的にゾワッとしたものが全身をかけ巡った。
反射的に自分の耳を触った。
真横で……耳元で……殆ど距離が無い場所からその声は聞こえた。
恐る恐る声のした方を見る。
だが、そこには何もいない。
気配すらない。
「ニャー。」
反対の真横でまた声がした。
バッと振り向くが当然、何もいない。
ダラダラと冷や汗が吹き出し、固まった。
「……シャーッ!!」
頭の真後ろから、猫が威嚇する時に出す声が響いた。
それは本当に頭スレスレに引っ付いたところで出された様な声だった。
泥棒は弾かれたように窓を開け、外に飛び出した。
盗もうと思っていたものどころか、持ってきた工具さえその場に残し逃げ出した。
「……ンニャーオアオーン…………ッ」
逃げ出しても、背後ピッタリから不機嫌なうなり声が響き続けている。
一応振り返ってみたが何もいない。
背中や頭の周りを触ってみたが何もいない。
「……シャーッッ!!」
ダメ押しのように威嚇の声が大音量で響いた。
泥棒は走り続けた。
周りから奇妙に思われようとそれどころではないのだ。
帰ってみれば空き巣に入られていた家族は大慌てで警察に連絡した。
しかし取られているものもなければ、泥棒が持ってきたであろうものなども多く残されており、程なくして犯人は捕まった。
捕まった犯人はボロボロで、「猫に追われているんだ……」と涙ながらに語ったらしい。
うちの家系には「守り猫」がいる。
誰も見たことはないけれど、お金持ちになったりはしないけれど……。
うちの家系には、化け猫の総大将が派遣してくれる頼もしい「守り猫」が一家に1匹いるらしい。
うちの家系には、代々、「守り猫」というものがいるらしい。
何でも大昔、化け猫の総大将を貧乏なご先祖様が自分の生死すら顧みず、ごく僅かな私財を擲って助けたらしく、化け猫の総大将はその礼に未来永劫一族を守ると言ったらしい。
そんな昔話が本当かは知らない。
だが、うちの家系には必ず「守り猫」なるモノがいる。
目に見える猫じゃない。
正直、誰も見た事がない。
ただ、声を聞く事がある。
ある時、どこからか猫の鳴き声が聞こえる。
野良猫が入り込んだのかと探していると、ぶっ倒れているその家の家長を見つけたのだそうだ。
大慌てで医者に運んで事無きを得たが、発見が遅ければ危うかったらしい。
またある時は、夜道を一人歩いていると背後から「ニャー」と言う声がする。
しかし振り向いても何もいない。
おかしいなと思いまた歩き出すと「ミャー」と聞こえる。
何度もそれを繰り返し、薄気味悪くなったその人は走って帰ったそうだ。
家につくと、無事で良かった良かったと家の者たちが安心する。
何事かと聞いてみたら、どうも隣町に通り魔が出て、背後から斬りつけてくる事件が起きていたようだった。
しかもまだ犯人が捕まっておらず、こっちに来ていたらと心配していた様だった。
その人は通り魔は出なかったが、何度も猫の鳴き声を聞いて、怖くなって走って帰ってきた事を話した。
そんな最中に外が騒がしくなり出てみれば、通り魔が出たとの事だった。
それはさっきまでその人が歩いていた道だった。
家族のものは顔を見合わせた。
幸い襲われた近所の人もあわやというところで突然、犯人が逃げ出して軽い怪我で済んだらしい。
後日、犯人は出頭してきて捕まった。
何でも最後の犯行の後からずっと見えない猫に追われていて、怖くなって自首してきたという話だった。
またある夜、家族が寝静まっていると、物凄い猫の叫び声が耳元で聞こえて全員が飛び起きた。
あまりの声に皆怯えて部屋を飛び出し、顔を見合わせた。
しかしどこからか猫の唸り声は聞こえ続け、しまいには暴れているのかあちこちで物が倒れたり音を立てたりし始める。
恐ろしくなった家族は何も持たずに家を飛び出した。
するとその後すぐ大地震が来た。
庭で固まっていた家族は難を逃れた。
家は倒壊しなかったものの、家の中はめちゃくちゃで、あのまま寝ていたら……と言っていたそうだ。
そんな感じで、うちの家系には「守り猫」がいる。
残念ながら「招き猫」ではないので、富に見舞われ大金持ちになったりとかはしない。
たまにそうやって不思議な事があり、「守り猫」の話題が上がるのだ。
本家なんて言うほどのものもなく、ごく普通にそれなりの親戚がいる普通の家。
多分これからもそんな感じだろうと思う。
「最近はめっきり「守り猫」の話も聞かなくなったなぁ。」
「まぁ、随分と長く守られてたし、それなりに親戚もいる訳だし、大猫様もそこまで面倒みきれないさ。」
そんな話が親戚同士で集まった時に出るようにもなっていた。
そんな集まりの裏、出かけて留守になっていたある家の中。
ガラス戸を割って侵入した泥棒が金目の物を物色し始めていた。
「ニャー。」
背後からそんな声がする。
情報にはなかったが、この家は猫を飼っているのだなと気にしなかった。
「ニャー。」
また背後で声がする。
引き出しやらを開けているので、おやつがもらえると思っているのかもしれない。
ちらりと振り返るが、猫はいなかった。
飽きてどこかに行ってしまったのだろうと作業に戻った。
「ニャー。」
そんな泥棒の耳元で、それは聞こえた。
瞬間的にゾワッとしたものが全身をかけ巡った。
反射的に自分の耳を触った。
真横で……耳元で……殆ど距離が無い場所からその声は聞こえた。
恐る恐る声のした方を見る。
だが、そこには何もいない。
気配すらない。
「ニャー。」
反対の真横でまた声がした。
バッと振り向くが当然、何もいない。
ダラダラと冷や汗が吹き出し、固まった。
「……シャーッ!!」
頭の真後ろから、猫が威嚇する時に出す声が響いた。
それは本当に頭スレスレに引っ付いたところで出された様な声だった。
泥棒は弾かれたように窓を開け、外に飛び出した。
盗もうと思っていたものどころか、持ってきた工具さえその場に残し逃げ出した。
「……ンニャーオアオーン…………ッ」
逃げ出しても、背後ピッタリから不機嫌なうなり声が響き続けている。
一応振り返ってみたが何もいない。
背中や頭の周りを触ってみたが何もいない。
「……シャーッッ!!」
ダメ押しのように威嚇の声が大音量で響いた。
泥棒は走り続けた。
周りから奇妙に思われようとそれどころではないのだ。
帰ってみれば空き巣に入られていた家族は大慌てで警察に連絡した。
しかし取られているものもなければ、泥棒が持ってきたであろうものなども多く残されており、程なくして犯人は捕まった。
捕まった犯人はボロボロで、「猫に追われているんだ……」と涙ながらに語ったらしい。
うちの家系には「守り猫」がいる。
誰も見たことはないけれど、お金持ちになったりはしないけれど……。
うちの家系には、化け猫の総大将が派遣してくれる頼もしい「守り猫」が一家に1匹いるらしい。
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