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書捨て小話
夢見る古代魚
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年の瀬。
気を使う会社の飲み会を後にした同期3人らしい男が3人、バーのカウンターでうだうだしている。
季節のイベントに浮足立った店内。
流れるジャズもそんな恋人達を演出するものが多い。
時期が時期の為恋人連れの多い中、普段と変わらず男3人で大した会話もなく飲んでいる彼ら。
そんな3人をマスターは気にするでもなくグラスを磨いていた。
「……なぁ、明日って何の日か知ってるか?」
唐突に一人が言った。
それを他の二人はどうでも良さそうに見つめる。
「明日……22日か。」
「そ。」
「誕生日とか寒い事は言わないだろうな??」
「俺は夏男だよん。誕生日は……」
「聞いてねぇ、言わんでいい。」
「酷い!!」
酔っ払い達は何を話しているのかよくわからないまま会話を続ける。
「22日だろ??改正民法公布記念日だな。」
「は??ジェネリック医薬品の日だろ?!」
努めて平然と作業をしていたマスターは、思わずズッコケそうになった。
明日といえばどう考えてもこれだろうと言う答えがあったからだ。
「違~う!!」
そこに質問を始めた彼が憤慨したように言った。
良かった、あれはボケだったのだろう。
ほっと胸を撫で下ろし、氷のカットに取り掛かった。
「明日はぁ~!!シーラカンスの日に決まってるだろうがぁ~っ!!」
その声に、マスターはアイスピックで手をぶっ刺しそうになった。
冷静さを取り戻すため、一旦、氷削りから離れ、カウンターの別の客に「何かお作りしますか?」と営業をかけた。
注文を受け、カクテルを作り始める。
平常心、平常心。
そう自分に言い聞かせる。
「は??シーラカンスの日?!」
しかし彼らの会話は嫌でも耳に入る。
もう本当はその前でじっくりこの酔っぱらい達の話を聞いてしまいたい衝動すらある。
「そうよ!シーラカンスが初めて捕獲されたとされる日だ!!」
「あ~、それ、知ってるわ。」
「凄いニュースになったんだよなぁ~。」
「でもよ、あれって地元ではたまに変な魚が昔から網にかかる事があったってヤツだろ?」
「でも!!正確に生きたシーラカンスと認定されたモノが捉えられたと学術的に証明されたのが明日!22日なんだよ!!」
熱く語る一人に対し、他の二人はふ~んとばかりに相槌を打っている。
シーラカンスの日……それは知らなかった……。
ではなく、何故、彼らはあえてあの日を言わずに会話を続けているのかと心がざわつく。
いかんいかん、平常心、平常心……。
「シーラカンスって、古代魚だよな。」
「そう!!ロマンだろ?!」
「いや、肺魚もアロワナもチョウザメも古代魚だし。」
「あ、キャビア食べよ。マスター、注文いいですか?!」
別の客にカクテルを出すと彼らから注文が入った。
穏やかに笑って注文を受け、それを作り始める。
「アロワナとか普通に水槽にいるもんな?」
「ていうか、アロワナって自然界だと飛ぶんだぜ?!」
「飛ぶ?!」
「そ、虫めがけて水中からジャンプすんの。めっちゃ飛ぶんよ!!」
アロワナ談義もいいが、シーラカンスはどうした?と心の中でツッコみながら、マスターは静かにキャビアを彼らに出した。
「そういや山の廃校でチョウザメの養殖やってるって話はどうなったんだろう??」
「さぁ??」
「ニュースも適当だよなぁ~。その後とかよくわからん。」
話が脈絡なくバンバン飛ぶ。
アロワナもびっくりだ。
その後、彼らはまたシーラカンスの話に戻り、そこから鳥のホバリングの話と昆虫の話をして、何がどうなって満足したのかわからなかったが、にこやかに会計を頼んできた。
マスターはずっと心の中に引っかかっていた事を解消する為に、彼らに小さな柑橘類をサービスだと言って渡した。
「……これは……柚子、ですか??」
「はい。皆様、日々お疲れでしょう。明日は冬至ですので、ゆっくりお風呂に浸かられて、疲れを癒やしてください。」
そう言って微笑むと、彼らは顔を見合わせた。
「明日、冬至だって……忘れてたな。」
「パンプキンの日だよな??」
「違ぇよ、一番、日照時間が短い日だっての。」
何故、改正民法公布記念日だのジェネリック医薬品の日だの、シーラカンスの日だの知っていて、冬至を忘れるのだろうか……。
そんなツッコミを心でしながら、笑顔で酔っぱらい達を見送る。
3人寄れば文殊の知恵とは言うけれど……。
「酔っぱらいが3人寄れば意味不明……。」
思わずそんな事を呟いたマスターだった。
(シーラカンスの日は20日でした。すみません。)
気を使う会社の飲み会を後にした同期3人らしい男が3人、バーのカウンターでうだうだしている。
季節のイベントに浮足立った店内。
流れるジャズもそんな恋人達を演出するものが多い。
時期が時期の為恋人連れの多い中、普段と変わらず男3人で大した会話もなく飲んでいる彼ら。
そんな3人をマスターは気にするでもなくグラスを磨いていた。
「……なぁ、明日って何の日か知ってるか?」
唐突に一人が言った。
それを他の二人はどうでも良さそうに見つめる。
「明日……22日か。」
「そ。」
「誕生日とか寒い事は言わないだろうな??」
「俺は夏男だよん。誕生日は……」
「聞いてねぇ、言わんでいい。」
「酷い!!」
酔っ払い達は何を話しているのかよくわからないまま会話を続ける。
「22日だろ??改正民法公布記念日だな。」
「は??ジェネリック医薬品の日だろ?!」
努めて平然と作業をしていたマスターは、思わずズッコケそうになった。
明日といえばどう考えてもこれだろうと言う答えがあったからだ。
「違~う!!」
そこに質問を始めた彼が憤慨したように言った。
良かった、あれはボケだったのだろう。
ほっと胸を撫で下ろし、氷のカットに取り掛かった。
「明日はぁ~!!シーラカンスの日に決まってるだろうがぁ~っ!!」
その声に、マスターはアイスピックで手をぶっ刺しそうになった。
冷静さを取り戻すため、一旦、氷削りから離れ、カウンターの別の客に「何かお作りしますか?」と営業をかけた。
注文を受け、カクテルを作り始める。
平常心、平常心。
そう自分に言い聞かせる。
「は??シーラカンスの日?!」
しかし彼らの会話は嫌でも耳に入る。
もう本当はその前でじっくりこの酔っぱらい達の話を聞いてしまいたい衝動すらある。
「そうよ!シーラカンスが初めて捕獲されたとされる日だ!!」
「あ~、それ、知ってるわ。」
「凄いニュースになったんだよなぁ~。」
「でもよ、あれって地元ではたまに変な魚が昔から網にかかる事があったってヤツだろ?」
「でも!!正確に生きたシーラカンスと認定されたモノが捉えられたと学術的に証明されたのが明日!22日なんだよ!!」
熱く語る一人に対し、他の二人はふ~んとばかりに相槌を打っている。
シーラカンスの日……それは知らなかった……。
ではなく、何故、彼らはあえてあの日を言わずに会話を続けているのかと心がざわつく。
いかんいかん、平常心、平常心……。
「シーラカンスって、古代魚だよな。」
「そう!!ロマンだろ?!」
「いや、肺魚もアロワナもチョウザメも古代魚だし。」
「あ、キャビア食べよ。マスター、注文いいですか?!」
別の客にカクテルを出すと彼らから注文が入った。
穏やかに笑って注文を受け、それを作り始める。
「アロワナとか普通に水槽にいるもんな?」
「ていうか、アロワナって自然界だと飛ぶんだぜ?!」
「飛ぶ?!」
「そ、虫めがけて水中からジャンプすんの。めっちゃ飛ぶんよ!!」
アロワナ談義もいいが、シーラカンスはどうした?と心の中でツッコみながら、マスターは静かにキャビアを彼らに出した。
「そういや山の廃校でチョウザメの養殖やってるって話はどうなったんだろう??」
「さぁ??」
「ニュースも適当だよなぁ~。その後とかよくわからん。」
話が脈絡なくバンバン飛ぶ。
アロワナもびっくりだ。
その後、彼らはまたシーラカンスの話に戻り、そこから鳥のホバリングの話と昆虫の話をして、何がどうなって満足したのかわからなかったが、にこやかに会計を頼んできた。
マスターはずっと心の中に引っかかっていた事を解消する為に、彼らに小さな柑橘類をサービスだと言って渡した。
「……これは……柚子、ですか??」
「はい。皆様、日々お疲れでしょう。明日は冬至ですので、ゆっくりお風呂に浸かられて、疲れを癒やしてください。」
そう言って微笑むと、彼らは顔を見合わせた。
「明日、冬至だって……忘れてたな。」
「パンプキンの日だよな??」
「違ぇよ、一番、日照時間が短い日だっての。」
何故、改正民法公布記念日だのジェネリック医薬品の日だの、シーラカンスの日だの知っていて、冬至を忘れるのだろうか……。
そんなツッコミを心でしながら、笑顔で酔っぱらい達を見送る。
3人寄れば文殊の知恵とは言うけれど……。
「酔っぱらいが3人寄れば意味不明……。」
思わずそんな事を呟いたマスターだった。
(シーラカンスの日は20日でした。すみません。)
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