1 / 73
書捨て小話
夢見る古代魚
しおりを挟む
年の瀬。
気を使う会社の飲み会を後にした同期3人らしい男が3人、バーのカウンターでうだうだしている。
季節のイベントに浮足立った店内。
流れるジャズもそんな恋人達を演出するものが多い。
時期が時期の為恋人連れの多い中、普段と変わらず男3人で大した会話もなく飲んでいる彼ら。
そんな3人をマスターは気にするでもなくグラスを磨いていた。
「……なぁ、明日って何の日か知ってるか?」
唐突に一人が言った。
それを他の二人はどうでも良さそうに見つめる。
「明日……22日か。」
「そ。」
「誕生日とか寒い事は言わないだろうな??」
「俺は夏男だよん。誕生日は……」
「聞いてねぇ、言わんでいい。」
「酷い!!」
酔っ払い達は何を話しているのかよくわからないまま会話を続ける。
「22日だろ??改正民法公布記念日だな。」
「は??ジェネリック医薬品の日だろ?!」
努めて平然と作業をしていたマスターは、思わずズッコケそうになった。
明日といえばどう考えてもこれだろうと言う答えがあったからだ。
「違~う!!」
そこに質問を始めた彼が憤慨したように言った。
良かった、あれはボケだったのだろう。
ほっと胸を撫で下ろし、氷のカットに取り掛かった。
「明日はぁ~!!シーラカンスの日に決まってるだろうがぁ~っ!!」
その声に、マスターはアイスピックで手をぶっ刺しそうになった。
冷静さを取り戻すため、一旦、氷削りから離れ、カウンターの別の客に「何かお作りしますか?」と営業をかけた。
注文を受け、カクテルを作り始める。
平常心、平常心。
そう自分に言い聞かせる。
「は??シーラカンスの日?!」
しかし彼らの会話は嫌でも耳に入る。
もう本当はその前でじっくりこの酔っぱらい達の話を聞いてしまいたい衝動すらある。
「そうよ!シーラカンスが初めて捕獲されたとされる日だ!!」
「あ~、それ、知ってるわ。」
「凄いニュースになったんだよなぁ~。」
「でもよ、あれって地元ではたまに変な魚が昔から網にかかる事があったってヤツだろ?」
「でも!!正確に生きたシーラカンスと認定されたモノが捉えられたと学術的に証明されたのが明日!22日なんだよ!!」
熱く語る一人に対し、他の二人はふ~んとばかりに相槌を打っている。
シーラカンスの日……それは知らなかった……。
ではなく、何故、彼らはあえてあの日を言わずに会話を続けているのかと心がざわつく。
いかんいかん、平常心、平常心……。
「シーラカンスって、古代魚だよな。」
「そう!!ロマンだろ?!」
「いや、肺魚もアロワナもチョウザメも古代魚だし。」
「あ、キャビア食べよ。マスター、注文いいですか?!」
別の客にカクテルを出すと彼らから注文が入った。
穏やかに笑って注文を受け、それを作り始める。
「アロワナとか普通に水槽にいるもんな?」
「ていうか、アロワナって自然界だと飛ぶんだぜ?!」
「飛ぶ?!」
「そ、虫めがけて水中からジャンプすんの。めっちゃ飛ぶんよ!!」
アロワナ談義もいいが、シーラカンスはどうした?と心の中でツッコみながら、マスターは静かにキャビアを彼らに出した。
「そういや山の廃校でチョウザメの養殖やってるって話はどうなったんだろう??」
「さぁ??」
「ニュースも適当だよなぁ~。その後とかよくわからん。」
話が脈絡なくバンバン飛ぶ。
アロワナもびっくりだ。
その後、彼らはまたシーラカンスの話に戻り、そこから鳥のホバリングの話と昆虫の話をして、何がどうなって満足したのかわからなかったが、にこやかに会計を頼んできた。
マスターはずっと心の中に引っかかっていた事を解消する為に、彼らに小さな柑橘類をサービスだと言って渡した。
「……これは……柚子、ですか??」
「はい。皆様、日々お疲れでしょう。明日は冬至ですので、ゆっくりお風呂に浸かられて、疲れを癒やしてください。」
そう言って微笑むと、彼らは顔を見合わせた。
「明日、冬至だって……忘れてたな。」
「パンプキンの日だよな??」
「違ぇよ、一番、日照時間が短い日だっての。」
何故、改正民法公布記念日だのジェネリック医薬品の日だの、シーラカンスの日だの知っていて、冬至を忘れるのだろうか……。
そんなツッコミを心でしながら、笑顔で酔っぱらい達を見送る。
3人寄れば文殊の知恵とは言うけれど……。
「酔っぱらいが3人寄れば意味不明……。」
思わずそんな事を呟いたマスターだった。
(シーラカンスの日は20日でした。すみません。)
気を使う会社の飲み会を後にした同期3人らしい男が3人、バーのカウンターでうだうだしている。
季節のイベントに浮足立った店内。
流れるジャズもそんな恋人達を演出するものが多い。
時期が時期の為恋人連れの多い中、普段と変わらず男3人で大した会話もなく飲んでいる彼ら。
そんな3人をマスターは気にするでもなくグラスを磨いていた。
「……なぁ、明日って何の日か知ってるか?」
唐突に一人が言った。
それを他の二人はどうでも良さそうに見つめる。
「明日……22日か。」
「そ。」
「誕生日とか寒い事は言わないだろうな??」
「俺は夏男だよん。誕生日は……」
「聞いてねぇ、言わんでいい。」
「酷い!!」
酔っ払い達は何を話しているのかよくわからないまま会話を続ける。
「22日だろ??改正民法公布記念日だな。」
「は??ジェネリック医薬品の日だろ?!」
努めて平然と作業をしていたマスターは、思わずズッコケそうになった。
明日といえばどう考えてもこれだろうと言う答えがあったからだ。
「違~う!!」
そこに質問を始めた彼が憤慨したように言った。
良かった、あれはボケだったのだろう。
ほっと胸を撫で下ろし、氷のカットに取り掛かった。
「明日はぁ~!!シーラカンスの日に決まってるだろうがぁ~っ!!」
その声に、マスターはアイスピックで手をぶっ刺しそうになった。
冷静さを取り戻すため、一旦、氷削りから離れ、カウンターの別の客に「何かお作りしますか?」と営業をかけた。
注文を受け、カクテルを作り始める。
平常心、平常心。
そう自分に言い聞かせる。
「は??シーラカンスの日?!」
しかし彼らの会話は嫌でも耳に入る。
もう本当はその前でじっくりこの酔っぱらい達の話を聞いてしまいたい衝動すらある。
「そうよ!シーラカンスが初めて捕獲されたとされる日だ!!」
「あ~、それ、知ってるわ。」
「凄いニュースになったんだよなぁ~。」
「でもよ、あれって地元ではたまに変な魚が昔から網にかかる事があったってヤツだろ?」
「でも!!正確に生きたシーラカンスと認定されたモノが捉えられたと学術的に証明されたのが明日!22日なんだよ!!」
熱く語る一人に対し、他の二人はふ~んとばかりに相槌を打っている。
シーラカンスの日……それは知らなかった……。
ではなく、何故、彼らはあえてあの日を言わずに会話を続けているのかと心がざわつく。
いかんいかん、平常心、平常心……。
「シーラカンスって、古代魚だよな。」
「そう!!ロマンだろ?!」
「いや、肺魚もアロワナもチョウザメも古代魚だし。」
「あ、キャビア食べよ。マスター、注文いいですか?!」
別の客にカクテルを出すと彼らから注文が入った。
穏やかに笑って注文を受け、それを作り始める。
「アロワナとか普通に水槽にいるもんな?」
「ていうか、アロワナって自然界だと飛ぶんだぜ?!」
「飛ぶ?!」
「そ、虫めがけて水中からジャンプすんの。めっちゃ飛ぶんよ!!」
アロワナ談義もいいが、シーラカンスはどうした?と心の中でツッコみながら、マスターは静かにキャビアを彼らに出した。
「そういや山の廃校でチョウザメの養殖やってるって話はどうなったんだろう??」
「さぁ??」
「ニュースも適当だよなぁ~。その後とかよくわからん。」
話が脈絡なくバンバン飛ぶ。
アロワナもびっくりだ。
その後、彼らはまたシーラカンスの話に戻り、そこから鳥のホバリングの話と昆虫の話をして、何がどうなって満足したのかわからなかったが、にこやかに会計を頼んできた。
マスターはずっと心の中に引っかかっていた事を解消する為に、彼らに小さな柑橘類をサービスだと言って渡した。
「……これは……柚子、ですか??」
「はい。皆様、日々お疲れでしょう。明日は冬至ですので、ゆっくりお風呂に浸かられて、疲れを癒やしてください。」
そう言って微笑むと、彼らは顔を見合わせた。
「明日、冬至だって……忘れてたな。」
「パンプキンの日だよな??」
「違ぇよ、一番、日照時間が短い日だっての。」
何故、改正民法公布記念日だのジェネリック医薬品の日だの、シーラカンスの日だの知っていて、冬至を忘れるのだろうか……。
そんなツッコミを心でしながら、笑顔で酔っぱらい達を見送る。
3人寄れば文殊の知恵とは言うけれど……。
「酔っぱらいが3人寄れば意味不明……。」
思わずそんな事を呟いたマスターだった。
(シーラカンスの日は20日でした。すみません。)
22
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる