2 / 73
書捨て小話
地獄の鬼とコンプライアンス
しおりを挟む
最近、地獄でもコンプライアンスがうるさく言われる様になった。
やれ、拷問は3時間に一度休憩を与えろだとか、地獄の釜を男女で分けろとか、服装も男なのだから褌でいいなどと言わずジェンダーに配慮しろとか……。
現世に配慮するコンプライアンスを無視する事もできず、責苦を行う鬼達の心に湧き上がる「俺達って何の為にこれやってんの??」と言う疑問を声に出して言う事もできず、戸惑いながらもそれに従っている状態だった。
いやもう、何が正しくて何が間違っているのやら……。
そんな中、ある死界の関所が妙案を打ち立てて話題になった。
それは主に自殺者を扱う門。
とにかくだ。
現世で何が起きているのかは知らないが、自殺者の関所は常に人が殺到している。
それは年を追うごとに倍増していった。
元々、生物というのは生きる為に生まれるものだ。
例え悪事に手を染めようとも、生きようとする強い執着を持っているはずだった。
だから自殺者の関所はさほど大きくないのだ。
しかし、近年、人間にはその執着がない。
若い働き盛りから子どもといった、生きるのに一番いい時期であるはずの人間が、毎日毎日、わんかさ死界の門に押し寄せる。
そうなると小さな関所では間に合わない。
けれど大昔からの決まり事として、現世のバランスが崩れるので、自殺者の門はこれ以上大きくしてはならないと決められていた。
しかし、自殺者はわんさか押し寄せる。
これではいくら働いても仕事が回らない。
そこにコンプライアンスなんて面倒な事まで入ってきたので、機械的に放牧されていた家畜をしまうように自殺者達をさばく事もできない上、求められたら丁寧に話を聞くようにと言う有様だ。
これに困った自殺者の関所の鬼達。
それをとても変わった方法で状況を改善させたらしい。
そもそも自殺者と言うのは死界としてもあまり受け入れたくはない存在だ。
現世で自殺を試みるもあまり成功しないのはその為だ。
だから関所は小さく作られている。
何しろ自殺者は基本、書類手続きか簡易裁判で、そのまま地獄に直行と言うのが昔からの習わしだ。
とはいえ地獄も人があふれかえっている上、コンプライアンスのせいで大混乱に陥っているのだ。
そう、実のところを言えば、自殺者にはできればそのまま現世にお帰り頂きたいと言うのが現状だった。
だから上も、関所の鬼達が何を訴えても渋い顔しかせず、何の対策も打ち出せなかったのだ。
そんな中、ある日、自殺者の関所がリニューアルした。
まるで常夏の観光名所のように明るく飾り立てられ、
「ようこそ!!」とデカデカと歓迎のメッセージがポップにかけられていた。
さすがの自殺者たちもこれには引いた。
ここを通らなければ死ぬ事ができないので自殺者の関所に来るしかないのだが、絶望の果に命を絶とうとしているのにこの華やかさは何なのかと……。
そこには鬼達が明るく笑顔で自殺者を出迎えた。
ウクレレをかき鳴らし、明るく元気に挨拶をしている。
「さあさあ皆様!よくお越しになりました!!色々、大変でしたね!!たくさん苦労なされて……。ささやかですが我々が最期のひと時を楽しく演出させて頂きます!!」
「さぁ!!皆様もご一緒に!!」
そして鬼達は、明るく元気に歌って踊る。
「鬼のパンツは いいパンツ
つよいぞ つよいぞ
トラの毛皮で できている
つよいぞ つよいぞ
5年はいても やぶれない
つよいぞ つよいぞ
10年はいても やぶれない
つよいぞ つよいぞ
はこう はこう 鬼のパンツ
はこう はこう 鬼のパンツ
あなたも あなたも あなたも あなたも
みんなではこう 鬼のパンツ」
めちゃくちゃ明るく歌いながら、自分たちのパンツを指差したり、おどけたりして踊っている。
あっけにとられる自殺者達に、鬼達はさらに畳み掛ける。
「さあさあ!皆様もご一緒に!!」
そう言って歌の輪に入れたり、「どうぞ!鬼のパンツです!!記念にどうぞ!!」とパンツを配りだしたり……。
やがて自殺者の中には勢いに押され、一緒に歌い踊り、大笑いを始める者が現れる。
しかし、自殺者とは自ら命を断つほど硬い意思がある。
しかしそれも鬼達はよく知っていた。
「さて!!一番大きな声で歌われた方から優先して受付にご案内いたします!!もちろん!!ここで存分に歌って踊ってお帰りになって頂いても構いません!!」
そう言われると、歌わざる負えないのかと渋々輪に加わりだす。
ヤケになって歌う者、ボソボソと歌う者。
やがて大きな祭りのようにその輪は広がっていく。
「鬼のパンツは いいパンツ
つよいぞ つよいぞ
トラの毛皮で できている
つよいぞ つよいぞ
5年はいても やぶれない
つよいぞ つよいぞ
10年はいても やぶれない
つよいぞ つよいぞ
はこう はこう 鬼のパンツ
はこう はこう 鬼のパンツ
あなたも あなたも あなたも あなたも
みんなではこう 鬼のパンツ……」
自殺者達は次第に数を減らしていく。
大声で歌って笑って、ふっと現世に帰る者。
あまりのバカらしさに去っていくもの。
理由は何であれ、鬼達は死界の関所に押し寄せる自殺者達の数を減らし、通関する人数の大幅ダウンに成功したという……。
やれ、拷問は3時間に一度休憩を与えろだとか、地獄の釜を男女で分けろとか、服装も男なのだから褌でいいなどと言わずジェンダーに配慮しろとか……。
現世に配慮するコンプライアンスを無視する事もできず、責苦を行う鬼達の心に湧き上がる「俺達って何の為にこれやってんの??」と言う疑問を声に出して言う事もできず、戸惑いながらもそれに従っている状態だった。
いやもう、何が正しくて何が間違っているのやら……。
そんな中、ある死界の関所が妙案を打ち立てて話題になった。
それは主に自殺者を扱う門。
とにかくだ。
現世で何が起きているのかは知らないが、自殺者の関所は常に人が殺到している。
それは年を追うごとに倍増していった。
元々、生物というのは生きる為に生まれるものだ。
例え悪事に手を染めようとも、生きようとする強い執着を持っているはずだった。
だから自殺者の関所はさほど大きくないのだ。
しかし、近年、人間にはその執着がない。
若い働き盛りから子どもといった、生きるのに一番いい時期であるはずの人間が、毎日毎日、わんかさ死界の門に押し寄せる。
そうなると小さな関所では間に合わない。
けれど大昔からの決まり事として、現世のバランスが崩れるので、自殺者の門はこれ以上大きくしてはならないと決められていた。
しかし、自殺者はわんさか押し寄せる。
これではいくら働いても仕事が回らない。
そこにコンプライアンスなんて面倒な事まで入ってきたので、機械的に放牧されていた家畜をしまうように自殺者達をさばく事もできない上、求められたら丁寧に話を聞くようにと言う有様だ。
これに困った自殺者の関所の鬼達。
それをとても変わった方法で状況を改善させたらしい。
そもそも自殺者と言うのは死界としてもあまり受け入れたくはない存在だ。
現世で自殺を試みるもあまり成功しないのはその為だ。
だから関所は小さく作られている。
何しろ自殺者は基本、書類手続きか簡易裁判で、そのまま地獄に直行と言うのが昔からの習わしだ。
とはいえ地獄も人があふれかえっている上、コンプライアンスのせいで大混乱に陥っているのだ。
そう、実のところを言えば、自殺者にはできればそのまま現世にお帰り頂きたいと言うのが現状だった。
だから上も、関所の鬼達が何を訴えても渋い顔しかせず、何の対策も打ち出せなかったのだ。
そんな中、ある日、自殺者の関所がリニューアルした。
まるで常夏の観光名所のように明るく飾り立てられ、
「ようこそ!!」とデカデカと歓迎のメッセージがポップにかけられていた。
さすがの自殺者たちもこれには引いた。
ここを通らなければ死ぬ事ができないので自殺者の関所に来るしかないのだが、絶望の果に命を絶とうとしているのにこの華やかさは何なのかと……。
そこには鬼達が明るく笑顔で自殺者を出迎えた。
ウクレレをかき鳴らし、明るく元気に挨拶をしている。
「さあさあ皆様!よくお越しになりました!!色々、大変でしたね!!たくさん苦労なされて……。ささやかですが我々が最期のひと時を楽しく演出させて頂きます!!」
「さぁ!!皆様もご一緒に!!」
そして鬼達は、明るく元気に歌って踊る。
「鬼のパンツは いいパンツ
つよいぞ つよいぞ
トラの毛皮で できている
つよいぞ つよいぞ
5年はいても やぶれない
つよいぞ つよいぞ
10年はいても やぶれない
つよいぞ つよいぞ
はこう はこう 鬼のパンツ
はこう はこう 鬼のパンツ
あなたも あなたも あなたも あなたも
みんなではこう 鬼のパンツ」
めちゃくちゃ明るく歌いながら、自分たちのパンツを指差したり、おどけたりして踊っている。
あっけにとられる自殺者達に、鬼達はさらに畳み掛ける。
「さあさあ!皆様もご一緒に!!」
そう言って歌の輪に入れたり、「どうぞ!鬼のパンツです!!記念にどうぞ!!」とパンツを配りだしたり……。
やがて自殺者の中には勢いに押され、一緒に歌い踊り、大笑いを始める者が現れる。
しかし、自殺者とは自ら命を断つほど硬い意思がある。
しかしそれも鬼達はよく知っていた。
「さて!!一番大きな声で歌われた方から優先して受付にご案内いたします!!もちろん!!ここで存分に歌って踊ってお帰りになって頂いても構いません!!」
そう言われると、歌わざる負えないのかと渋々輪に加わりだす。
ヤケになって歌う者、ボソボソと歌う者。
やがて大きな祭りのようにその輪は広がっていく。
「鬼のパンツは いいパンツ
つよいぞ つよいぞ
トラの毛皮で できている
つよいぞ つよいぞ
5年はいても やぶれない
つよいぞ つよいぞ
10年はいても やぶれない
つよいぞ つよいぞ
はこう はこう 鬼のパンツ
はこう はこう 鬼のパンツ
あなたも あなたも あなたも あなたも
みんなではこう 鬼のパンツ……」
自殺者達は次第に数を減らしていく。
大声で歌って笑って、ふっと現世に帰る者。
あまりのバカらしさに去っていくもの。
理由は何であれ、鬼達は死界の関所に押し寄せる自殺者達の数を減らし、通関する人数の大幅ダウンに成功したという……。
11
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる