猫と話をさせてくれ

ねぎ(ポン酢)

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第一話

ロープと猫缶⑥

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 歩く度、カサカサ音がする。

レジ袋の擦れる乾いた音は、何故か妙に心地好かった。
そう言えば、赤ちゃんが泣いたら、カサカサやると泣き止むと、何かで見た気がする。

人の生活の便利さを求めて作られた、ある種の究極の人工物である使い捨てのビニール袋と、何一つ無駄なものを持たない生まれたての赤ん坊が繋がるって何だか深いなぁと変なことを考えた。

そして立ち止まり、草むらを見つめる。


「猫~。居ないのか~?」


中に入り込んで良いのか解らず、とりあえず声をかける。


「お望みのモンプーランだぞ~。」


猫の餌など買ったことのない俺は結局、高級猫缶として頭にこびりついていたモンプーランを買った。

3個セットで特売されていたからではけしてない。
(ちゃんとモンプーランは高い猫缶の一種類だったし。)


「モンプーランとか、お前、意外と古いな。」


いきなり背後から声がした。
振り向いたら、猫だった。


「何だよ、買ってきてやったのに、古いって。」

「高級猫缶と言えばモンプーランってのは、少し昔のCMの刷り込みが入ってるって事だからな。」

「モンプーランじゃダメなのかよ。」

「いや、猫缶に詳しくない奴なら、モンプーランでいい。当たり外れがないからな。」


猫はそう言うと、俺の横を通ってするりと草むらに入っていった。

背丈の高い草に隠れ、姿が見えなくなる。


「おい、何、ぼさっとしてるんだ?ついてこい。」


草むらのどこかから、声だけが聞こえる。

俺は慌てて、気持ち程度に仕切られてるしましまのロープをまたいで、草むらに入った。


「お、お邪魔します。」


何となく、断りを入れる。

近くの草が、カサカサ、さらさら動いている。
俺はその動きについて、中に進んでいった。

少し進むと、高い草のない、小さな広場のようなところに出た。
かさりと音を立て、俺の横の草むらから猫が顔を出した。

猫は一度、大きく延びをすると、上機嫌に俺を見上げた。


「さぁ!早くモンプーランを出せ!!」

「わかってるよ。」


テンションが上がったのか、ぐるぐるうねうねと落ち着きなく動き回る猫に、また引っ掛かれてはたまらないと、俺はしゃがみこんで、買った猫缶を取り出した。


「お!いいね!いいね!!期限限定だった、秋鮭缶!!もう一度食べたいと思ってたんだよ!!後はチキンと~♪おおぉ~!!ゴールド缶か!!」

「よく解らないけど、気に入ってもらえて良かったよ。」

「いや~見る目が無さそうだから心配したが、なかなかやるじゃねえか!!」

「それは誉めてるのか?」

「ったりまえだろ!!」

「そうかそうか。良かったな。」


俺はそう言うと、残りの袋を手に立ち上がった。

袋はまだ重そうにかさりと音を立てていた。


「おい。」

「何だよ?約束の猫缶はやったぞ?」

「はぁ?!てめえ!猫を馬鹿にしてんのか!?」

「何だよ?何が気に入らないんだよ?」

「俺は食わせろって言ったんだ!猫が猫缶、どうやって開けんだよ!!」



またも、機嫌悪そうに唸り出した猫に、俺は慌てて、缶を開けようとした。


「馬鹿か!てめえは!!」

「痛ってー!何すんだ!バカ猫!!」


缶に伸ばした手に、容赦ない猫パンチが飛ぶ。


「缶から直接食わす気か!!舌切るだろうが!!」

「はぁ?!どうしろって言うんだよ?!」

「普通、器まで用意すんだろうが!このど阿呆!!」

「知らねぇよ!そんなこと言ってなかっただろ!!」

「だったら今すぐ買ってこい!いいか?!プラスチックは駄目だ!陶器の茶碗を買ってこい!!」

「何だよ!わがままな奴だな!!」


何故か言い合いになり、怒った猫はふうっと体を膨らませた。

流石は猫又と言うのか、大きく開かれた目と口に、かなり迫力がある。
結構怖い。


「いいから、噛みつかれたくなかったら、さっさと買ってこい!!」


刺々した口の中を見せつけながらそう言われ、俺は渋々、茶碗を買いにホームセンターに戻ることになった。
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