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chapter2 キング&ルーク 初等部一年生編 ①
しおりを挟む良家の子ども達が数多く通うとはいえ、一般家庭の子もやはり半数以上は占めるこの高宮東奥学園だが、行事ごとに派手であると有名らしい。
確かにおめでたい入学式とはいっても、花々が彩られたアーチをくぐっての登校に一瞬唖然としてしまった。
入学式に父は保護者として参列してくれたが、義務と社交を兼ねていたのだろう。保護者として子ども達を見にきているはずの親達が、父に真っ先に挨拶にくるのがなんともまあおかしかった。
仕事上で付き合いがある家。父の部下。父に媚を売りたい人達などなど。
ここは父の仕事場だろうかと一瞬疑ってしまいそうになっても仕方がなかった。
そんな父に負けず劣らずの人がいたのは少し驚きではあったが。
紫陽宮財閥家当主・紫陽宮宣彰。
藤ノ百合財閥と同列に肩を並べる存在で、当主の宣彰は若くして父親の地盤を引き継いだが、その手腕と斬新な発想で色々な成功を収めているらしい。
そして、千早が教えてくれた『チェトランガ』の攻略対象であり、メインヒーローの紫陽宮奏多の父親。
高等部で王キングと呼ばれることになる彼とは初等部からの知り合いらしい。
それでどうしてゲームの中で自分と仲が悪いのかと千早に尋ねてみたが、性格の不一致というなんともしょうもない答えが返ってきた。
華やかで快活な奏多と凛として物静かな夏葵とはソリが合わないようなのだが。
はたして現実もそうなのだろうか?
入学して一週間が過ぎようとしていたが、奏多とはクラスも違うし、これといって接点もないので今のところ一度も会ってはいない。
廊下で女子達が騒いでいるのを教室で聞いたことはあるが、見に行きたいとも思わなかった。
それよりも多分、いま問題があるとすれば目の前で優雅に作り笑いを浮かべている、この少女ではないだろうか。
学食で食事を終えて、時間も余っているし読書でもしようかと思い栞を挟んだ本を開いた瞬間に、その声は頭上から響いてきた。
「あら、藤ノ百合様。ごきげんよう。お食事はもうすまされましたの?」
顔を上げれば、そこには入学式から再三自分に話しかけてくる少女がいた。
「黒澤先輩、ごきげんよう。はい、もうすんだところです」
手入れの行き届いた肩まである鈍い金髪の髪に、琥珀の瞳。
初等部三年生で扇を持つ手は慣れていて、手に馴染んでいるように見える。
黒澤コンチェルンご令嬢・黒澤花蓮。
奏多とは従兄妹にあたる間柄だ。
入学式からなにをしたわけでもないのに、なにかにつけては絡んでくる花蓮が正直にいって夏葵は好きになれなかった。
自分の都合を考えずに話しかけてくるのを、先輩で目上の人間という理由で折り合いをつけているが、関わり合いにはなりたくないのが本音だ。
「まあ、まだでしたらお誘いしようと思っておりましたのよ。いつもお一人でしょう?」
休憩時間が半分も過ぎているのにお誘いもなにもないものだ。
それに一人でいるのは苦じゃないし、花蓮のように取り巻きをぞろぞろと連れて歩いている方が夏葵には苦になる。
「お優しいお言葉ありがとうございます。ぜひまたの機会に」
花蓮がきた直後に席から立ち上がっていた夏葵は礼をとって、話はこれまで! にしたかったのだが、相手はどうやら終わりにはしてくれないらしい。
「ええ、またの機会に。そういえば話は変わりますけれど、藤ノ百合様の妹様はご一緒に入学されてはおりませんの? 確か双子とお聞きしていたのですけれど」
「……父達との離婚より前から別々の学園に通うことは決められておりましたから」
元々勉強が不得手だった夏李は別の私立に通う予定だった。
今頃は自分のことなど忘れて楽しんでいるのだろう。
自分はこんなにも夏李を思い返すのに。
今まで淀みなく答えていた夏葵が初めて言い淀んだのを見逃さなかったのか、花蓮は畳み掛けるように話しかけてくる。
「わたしくにも妹がおりますのよ。まだ3歳ですけれど、とても可愛らしくて。藤ノ百合様の妹様はどんな方ですの?」
「私とは正反対です。よく周りからそう言われておりました」
「では明るくて社交的な方かしら」
それは自分が暗くて社交的でないと言いたいのだろうか。
まあ実際そうなので否定しないが。
花蓮の後ろにいる取り巻き達がクスクスと嫌な笑いをするのを見ながら、早くこの退屈な時間が終わらないかなと思っていた。
相手にするのもバカらしくなってくる。
「そうですね。とても明るいです」
話を終わらせたいが、雑な扱いもできずに困っていると、不意によく通る声が廊下から食堂に届いてきた。
「藤ノ百合さん、いる?」
声がした途端に女生徒達の悲鳴。
いる? と質問しながらも誰の返答も待たずに食堂に現れたのは登場の予想をしていなかった人物達だった。
いやに眩しくて、背中に花をしょっている紫陽宮奏多。
そして、初等部一年生にしては大柄の神津龍之介。
紫陽宮家の分家の神津家は使用人の筆頭頭を務めていて、この龍之介は奏多の右腕的存在。
そして高等部では城ルークの名で奏多の傍にいる攻略対象者の一人。
千早曰く、攻略対象にあるまじき不良のような顔と体格。けれど、そこがいいのだと。
前世で千早は「くまさん」と渾名をつけていたのだとか。
くまというよりは……ライオン?
ぼんやりと場違いなことを考えているうちに事態は進んでいた。
「か、奏多さん、どうしてこちらに? 藤ノ百合様になにかご用事でも?」
「花蓮姉さん、こんにちは。はい、藤ノ百合さんに用事がありまして。藤ノ百合さん、いいかな?」
いきなり話を振られて、ぎこちなく頷けば、じゃあといきなり手を握られた。
ギャーという淑女があげてはならない声が食堂に木霊する。
花蓮は口をぱくぱくさせて金魚みたいにしているが、なにも言葉が出てこないらしい。
「ゆっくり話せるところにいこうか。龍之介、行くぞ」
そのまま強制的に連行させられた自分は、紫陽宮家が個人で貸し切っている個室のサロンに連れて行かれた。
扉を閉めると同時に、奏多は盛大に溜め息を零した。
「花蓮姉さん、どうやったら諦めてくれるんだろう? 龍之介どうしたらいいと思う?」
「わからん。それよりもまずは藤ノ百合さんに説明するべきだろう」
「おっとそうだった! ごめんね、いきなり連れてきて! 花蓮姉さんになにもされなかった?」
展開について行けていない自分に説明をしてくれようとしている奏多と龍之介を見ながら。
「キラキラとライオン……」
「は?」
異口同音で二人が声を上げて、ようやく我に返ることができた。
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