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chapter2 キング&ルーク 初等部一年生編 ⑦
しおりを挟む初めて会わされた少年となにを話せばいいのかわからずに、先に歩く理人の後を追い続ける。
背丈は自分よりも少しだけ低く、けれど歩く速さは夏葵よりも速い。
駆け足気味になっていると、こちらを振り返った理人が少し遅れてついて来ている夏葵に首をかしげる。
「理人さん? と呼んでよろしいですか? 理人さん、女性と一緒に歩いていて先に歩くのは男の方としていかがなものでしょう? 気遣いができない方は女性から嫌われますよ」
キョトンと可愛らしい顔をした後、そうなんだ! という顔をして慌てて頭をさげてきた。
「ごめんなさい! いけないことだったんですね! 気をつけるようにします!」
天使みたいな可憐な容貌からは想像できない元気な声で返されて、夏葵はちょっとだけ驚いたものの、すぐに笑顔を浮かべた。
「いいえ。私も軽々しく注意をしてしまいました。申し訳ありません。ですが、今のことは覚えておかれていた方がいいかと思います。おモテになる殿方には重要な条件ですよ」
将来絶対に美少年になる理人には必須だろうと思って言ったことだったが「モテる」という言葉に、顔を曇らせる。
「理人さん? どうかされましたか?」
「……女の子は苦手です。大人の女性も。……女の子はいつも僕の隣にきたがって争うし、大人の女性はしつこく頭とか頬とか触ってきます」
「それは……」
なんと言っていいのかわからずに夏葵は困ってしまう。
こんなに可愛いのだから女の子からは放っておかれないだろうとは思ってはいたけれど。
奏多はそつなく女の子をあしらっていたから気にもとめなかったが、あれがおかしいのかと夏葵は納得する。
「そういう方々ばかりではないですけれど、理人さんの周りにいるのはそういう方々ばかりですものね。どういったらいいのでしょうか……。理人さん、私も異性ですけれど私は平気ですか?」
「……はい。夏葵さんは僕をそういった目で見ていないとすぐにわかりました」
「では私のような者もいるとだけ思っていてください。世の女の子や女性がすべてそうではありませんから」
「ほんとう、ですか?」
「お約束、というのはおかしいのでしょうか? それでも大丈夫と言いきれます」
「……はい!」
嬉しそうに頷いて満面の笑顔を理人が夏葵にむけた瞬間、数秒ののち、夏葵はあさっての方向へ首を思いっきりひねった。
「夏葵さん?」
「……なんでもありません。お気になさらず」
むけられた笑顔は頬が上気して潤んだ瞳、子犬を思わせる人なっつこさで。
これが可愛いすぎる! というものか!
破壊力がありすぎて、夏葵はぷるぷると肩を震わせて息を整えようとする。
そんな夏葵を不思議がりながらも理人は夏葵の手をとって歩き出す。
「行きましょう! 夏葵さん!」
「え、ええ」
愛くるしい笑顔に負けないようにと夏葵は気合をこめた。
ホテルの庭園は広く、和室用の部屋もあるためか情緒ある日本のたたずまいだ。
大きな池には鯉がいて、ホテルに滞在するお客のためか鯉の餌も置いてあり、それを理人と一緒に池に投げ入れる。
たちまちよってくる鯉に理人は興奮していて、そんな様子も可愛らしくて微笑ましくなってくる。
「そういえば夏葵さんはもう学園には通われているんですか?」
「ええ。高宮東奥学園初等部一年です。え、ということは理人さんはまだですか?」
「はい。僕は来年からです。じゃあ夏葵さんは一つ年上ですね。夏葵さんではなくて、夏葵お姉さんと呼んでもいいですか?」
「お姉さん」
そんな風に呼んでくれる相手がいることを思い出して、夏葵は思わず鯉に餌をやっていた手を止めてしまった。
ただしくは一卵性だから姉も妹もないのだけれど。
「だめ、ですか?」
不安げに夏葵を見上げてくる理人に我に返って、首を振った。
「いいえ。大丈夫ですよ。姉と呼ばれたことがなかったので、驚いてしまっただけです」
「ありがとうございます! 夏葵お姉さん!」
破壊力100%の笑顔つきで抱きつかれて、抱き締め返したい衝動を起こしそうになる。
それは淑女教育を受けている手前絶対にできないが、忍耐の我慢というものを初めて味わう経験だった。
可愛すぎる!
「り、理人さんはどちらの学園に通われるご予定なんですか?」
「僕は涼御河すずみかわ学園です」
話しをふったおかげが離れてくれた理人に安堵しながらも、涼御河学園のことを思い出していた。
「理人さんは優秀なんですね。涼御河はとても勉強ができる方が入られるところでしょう?」
涼御河学園は勉学に力を入れている学園で、歴史も古く高宮東奥学園と同じく名家の子息と子女達が多く通っているところだ。
高宮東奥学園とは違い、中等部に上がる時、高等部に上がる時に必ず試験があり、この試験で一定の数字がとれなければ上には上がれない。
学園とはいってもエスカレーターではないので、毎回試験に挑まなければいけないので大変なのだ。
そんな学園に初等部と言っても入れる理人はかなり勉強ができるのだろう。
「そんなことありません。高宮東奥もすごく難しいところだと聞いています。夏葵お姉さんのほうがすごいです」
「ありがとうございます。でも、理人さんもすごいんですよ」
「理人!」
楽しく会話していると、不意に理人が呼ばれ、理人と同じように振り向くと、そこには過去一度しか会った事のない掬子伯母様の息子夫婦である孝彰と撫子がいた。
「お父様! お母様!」
「お久しぶりです。おじ様、おば様」
「久しぶりだね、夏葵ちゃん。二人の帰りがあんまり遅いから迎えにきたよ」
「久しぶりね、夏葵さん。理人、夏葵さんのエスコートをお養母かあ様から任されているのに、時間を忘れてはいけませんわ」
「ごめんなさい……」
「おば様、私も時間を忘れていましたから理人さんと同じです。とても楽しくて時間を見るのを怠ってしまいました」
「楽しかったのは僕もです! それに僕がおばあ様から任されたんですから気にするべきでした。夏葵お姉さん、ごめんなさい」
頭を下げてくる理人を制そうとして、高らかな笑い声に手が止まった。
「理人はずいぶん夏葵ちゃんに懐いたみたいだね。珍しいこともあるものだ」
「まあ、理人だって男の子なんですから可愛い夏葵さんにときめいてしまったのよね」
「お母様、夏葵お姉さんは可愛いではなくて、綺麗な人です。お母様がお話してくださった昔話の天女様みたいです」
あまりにも大袈裟な理人に夏葵は笑ってしまう。
「理人さん、とても嬉しいですが、天女様のように私は綺麗ではありませんから」
「いいえ! 天女様です! 夏葵お姉さんはご自分をわかっていないんです!」
天使のような理人に言われるのは悪い気はしないが、やはりちょっと大袈裟だ。
理人の言い分に笑う孝彰と撫子を見ながら、これが普通の家族なのだろうと思ってしまう。
そんな気持ちを隠すように夏葵は曖昧な笑顔でごまかした。
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