悪役令嬢こと私は、ヒロインの娘です。

了本 羊

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chapter4 お見合い!? 初等部三年生編 ②

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色々と気持ちが一杯一杯だったのか、ガーネットは落ち着いてすぐに夏葵の傍らで眠ってしまった。
もしかしたら、ここ数日間あまり寝つけなかったのかもしれない。
 男性使用人に客室のベッドまで運んでもらい下がらせると、夏葵はガーネットを起こさないように注意しながら椅子を持ってきて、ガーネットが眠るベッドの横に座る。

 知らず知らずのうちに深い溜め息が零れていた。
 毎日毎日、夏李のことは思い出すのに、乙女ゲームのことはいつもすっかりと頭から消え去ってしまう。
 以前もこんなことを考えたことがあるような気がする。

でも、私は忘れていておかしいだろうか? と自問自答してしまう時がある。
この『チェトランガ』の乙女ゲーム自体知らないし、情報は千早から聞くのみだ。
それも現実感があまりないまま情報として消化しているが、現実味が感じられないことのほうが多々だ。
 夏葵にとって現実はこの世界。
 乙女ゲームなどではなく、この現実が今いる場所なのだ。


――やっぱりあたしはヒロインなのね!


 脳裏に夏李の言葉がよみがえってくる。
 悪役になる気なんて毛頭ない。
 夏李のことを憎めずに葛藤する心を、自分を、愚かしいと思う夏葵に、夏李にたいして嫌がらせをするなんて幼稚でアホらしいことを考える余裕すらない。

でも、きっと夏李はゲームの世界だと思って生きているのだろう。
 昔そうだったように、今もきっと。

じゃあ、私という存在は夏李にとって、前世の母にとってなんだったのだろう?
 答えはすぐに記憶の底から投げつけられた。


――あんたなんかいらない!


 「っ……!」
 頭痛と気持ち悪さに叫び出しそうになって、ガーネットが隣で寝ていることを思い出し声を殺す。
 醜い人だった。
なのに、まだ求めている。
 掬子伯母様が言っていた諦められる時は一体いつ来てくれるのだろうか。

 頭を抱えて数分か数十分か、扉から小さくコンコンという音がして夏葵は抗いがたい未練から、我に返った。
 立ち上がって扉を音をあまりたてないように開けると、そこには千早が立っていた。
 「菜々月様はもうお休みになられましたか?」
 声をひそめて話す千早に頷いて、そっと後ろを振り返ると、規則正しく寝息をたてているガーネットが見えてほっと安心する。
そのまま千早と共に客室から、そっと出て廊下を歩く。
 千早が寝ているかもしれないだろうガーネットがいる客室に、わざわざ訪れる理由は一つだけだろうとわかっていた。
 「お父様はご自分のお部屋ですか?」
 「はい。夏葵様がお話にくることをわかっていらっしゃので、部屋で待つと伝えてほしいと伝言を預かりました」
 「では、なるべく早く済ませないといけませんね。いつもの夕食の時間よりだいぶ過ぎてしまっていますから、料理長の河端さんにも申し訳ありませんし」
なにより長い話を父親は望んでなどいないだろう。
 部屋について扉をノックすると「入れ」と無機質な声が聞こえてくる。
 「失礼いたします」
 許可を得て入れば、室内には父の他にもう一人、父の秘書をしている財前ざいぜんわたるもいた。
 夏葵を見て目を細め、優しく微笑んでくれる。
 「夏葵お嬢様、お邪魔をしております」
40代前半の財前は普段父の片腕として働いている時が嘘のように、プライベートでは気さくに接してくれる。仕事中を見たことがあるが、父と似ていて無愛想な顔面をしていたが、仕事が終わると人が変わったようになる財前を夏葵は大人の見本として好いていた。
 仕事に私情は持ち込まない。
だからこその鉄仮面。
けれど、プライベートはまったく別。
 結婚するのであれば、財前のように私生活では優しい相手としたい。
 「財前さん、遅くまでお疲れ様です。父がいつもご迷惑をおかけいたします」
 「無茶な要求は多いけれど、今のところ迷惑はこうむってないから安心していいよ」
 「財前、無駄口を叩いていないで早く部屋から出ろ。わたしは夏葵と話がある。ああ、先に食堂に言っているといい。これからの仕事のことで話したいこともある」
 「今日は何時まで付き合わされることやら。じゃあ夏葵ちゃん、僕は出ておくよ」
こうやってたまに財前が藤ノ百合家で食事をすることも多く、その時は心底感謝してもしきれない。
 父との会話など食事中は皆無に等しい。だから仕事のことでもなんでも二人が話している間は沈黙に息苦しさを感じなくてもすむ。
それが本当にありがたい。
 千早とともに出て行く財前を見送り、夏葵は行哉に向き直る。
 「お時間をいただいて申し訳ありません、お父様。千早さんから伺っているかとは思いますが、数日の間だけざくろさんをこの家に泊めたいのです。お許しいただけないでしょうか」
 面倒事を持ちこむなと苦言を言われるだろうと予想して下げた頭は、
 「別にかまわん」
 「へ……?」
あっさり許可してくれた行哉の言葉に驚いて顔を上げていた。
 「なんだ? 許してほしかったのだろう?」
 「そうですが……こんなに簡単にお父様が許してくれるとは思っておりませんでしたから」
 「その代わり、条件がある」
 「条件ですか?」
 「ああ。夏葵、五月のゴールデンウィークにわたしのお見合いがある。それについてこい」
 「お見合い!?」
あまりにも淡々と言うので聞き逃しそうになった。
 「大きな声を出すな。品がないぞ」
 「申し訳ありません。ですが」
 驚かないほうが無理だ! と言いたかったが、その前に声を遮られる。
 「相手は洪流菫さんだ。わたしの相手はな」




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