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chapter4 お見合い!? 初等部三年生編 ①
しおりを挟む三年生へと進級して2日が過ぎた。
二年ごとにクラス替えがあるので、ガーネットと同じクラスになれればいいなという期待と奏多と同じクラスじゃありませんように! という切望が今回は後者だけ叶った。
次は五年生の時にしかないから、卒業まで変わらない。
できれば次こそガーネットと一緒のクラスになれればいいと思いながら、夏葵には気がかりなことが数日前からあった。
春休みもガーネットと連絡を取り合っていたが、電話越しから聞こえる声はなんだか元気がないようで、新学期が始まって会ったガーネットは心ここにあらずという感じだった。
なにかあったのかと尋ねても「大丈夫」という返事しか返ってこない。
夏葵も色々心に負担がかかったとしてもガーネットには心配をかけたくなくてなにも言わないかもしれない。実際に言っていないことが山ほどある。
でも、大切な友人のことはやはり気になってしまう。
高宮東奥学園は土日が休みになっているので、夏葵は土曜日の朝から習い事を詰め込んでいる。
珍しく先生に注意をうけた夏葵は、やはりガーネットのことが気になり過ぎていたらしい。
ガーネットに月曜日には、なにがあっても聞きだそうと決意を固めて帰路についた。
みっちり習い事を詰め込んでいるせいで、土曜日はいつも夕方ぐらいの時間帯に帰ることが多い。
連れ添ってくれている千早が玄関の扉をひいてくれた時に、いつもならすまして出迎えの挨拶をする藤ノ百合家の執事である宮路が少し慌てた様子で小走りで近づいてきた。
「お帰りなさいませ。夏葵様」
「ただいま戻りました。どうかしましたか?」
「はい。夏葵様にお客様がいらっしゃっております」
「お客様?」
宮路が慌てるということは、もしかして奏多では!? と一瞬だけ危惧したが、続けられた名前に夏葵はいつもの礼儀正しさなど忘れて応接室に走り出していた。
「ざくろさん!?」
走ったせいで上ずった声が出てしまう。
恥ずかしいと思うよりも先に応接室のソファに腰掛けながら、真っ赤に腫れた目をしているガーネットを見て駆け寄っていた。
「どうしたんですか!? なにかあったんですか!?」
「……夏葵ちゃん……」
目元に雫が滲んで、思いっきりガーネットは夏葵に抱きついてきた。
その瞬間に嗚咽が口から洩れて、すぐにそれは大きな泣き声に変わった。
時折「お母様が」「兄様」という言葉だけは聞こえたが、正確になんと言っているのかは泣き崩れていてわからないまま、夏葵はガーネットが落ち着くまで抱きしめ返していた。
しばらく経って落ち着きを取り戻して泣き止んだガーネットは全てを話してくれた。
ここ一ヶ月の間、両親の仲が非常によくなかったこと。
大声でケンカを繰り返して、ついに母親が凛夜を連れて実家に帰ってしまったこと。
そのせいで祖母の具合が悪化したことを。
ガーネットの背をさすりながら、夏葵は千早を見た。
それだけで夏葵がなにを思っているのかわかったのか、神妙な面持ちで頷く。
前に千早が教えてくれたこと。
隠し攻略キャラクターである凛夜は大学進学前に両親が離婚していると。
凛夜は今年高校二年生。
乙女ゲーム通りのシナリオが進んでいるのだ。
夏葵はガーネットの背中をさする手を止めずに、片方の手をぎゅっと握る。
甘く見ていたと己の考えの甘さを悔やんでいた。
奏多や龍之介とゲームとは違う関係性になり、悪役という夏葵自身が夏李を憎んでいないこともあって、きっとゲームの登場人物がいても、それはあくまで千早が言っていたゲームだと高をくくっていた。
そのしっぺ返しが罰のように降ってきたような、今の現状はゲームのシナリオ通りになりつつある。
例えそれが攻略対象の一人の過去の一部分だとしても、友達のガーネットを悲しませる要因である以上見過ごしていいはずがない。
なのに、どうだろう。
ガーネットを支えようと決めていたのに、ガーネットの悩みがそのことだなんて今の今まで思い至ることもなかった。
知っていたのに。
怠慢だとしかいいようがない。
「……夏葵ちゃん……ごめんね……」
「大丈夫です。それにとても気になっていましたので、話していただけて嬉しかったです。頼っていただいたことも、とても嬉しいです」
安心させようと微笑めば笑い返してくれるが、すぐに応接室にある時計に目をやり、悲しい顔をする。
時刻はすでに夜七時過ぎ。
さすがに菜々月家がガーネットを心配しているころだろう。
「……帰りたくない……」
その一言で、夏葵の決意はすぐに決まった。
「千早さん、ざくろさんの家に連絡をしてもらえませんか? 数日、私の家でざくろさんを泊めたいと思います。と」
「夏葵様……」
驚く千早とガーネットに構わずに言葉を続ける。
「お父様には私からお話します。今日のお帰りはいつ頃でしょうか?」
「深夜になると伺っております。まずは私からお話をしておきます。行哉様がお帰りになられたら、夏葵様がすぐにお話できるようにしておきます。菜々月家もご心配なく」
「ありがとうございます。千早さん」
「いいえ。これも夏葵様の専属メイドの仕事です」
任せておいてくださいという表情で応接室を退室していった千早の足音が遠ざかると、夏葵はガーネットに極力明るい声を出した。
「これで数日、藤ノ百合家に滞在できます。ざくろさんは大丈夫ですか?」
「いいの? 夏葵ちゃん」
「かまいません。友達が困っているのを放っておく非常な人間にはなりたくありませんから」
「……夏葵ちゃんはそんな人にはならない」
しっかりと聞こえる声はいつものざくろの声で、夏葵はほっと胸を撫で下ろした。
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