【原版】猛毒の子守唄

了本 羊

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終章~猛毒は受け継がれる~

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ゆっくりと物思いに耽っていた目を開け、軽く頭を振って執務を再開しようとするアトリアの目に、花瓶に活けられた雪薔薇が映った。
あの後、バズは正式にヒイシとロウヒの専属侍女となり、日々生き生きと仕事に励んでいる。
ヒイシとロウヒは身の回りのことは大抵己自身で出来るので、バズの補佐をする形での侍女二人、合計で三人しか付けていない。
 人件費がかからない妻だと本当に思う。
と同時に、バズを手に入れることを願っている幼馴染のサイの顔が浮かび、忍び笑いが漏れる。
 初めてバズを見た時は、サイの好みをそのまま体現したかのような少女に内心驚いていたものだ。
 難関は自分の妻であるヒイシがサイの思念を見通し、バズと接近させないようにしていることだ。
 是非とも頑張ってもらいたいと多大に意地悪を含んだ心持ちで思う。





 「ヒイシ様、ロウヒ様。お疲れならば寝室でお休みになられては如何でしょう?」
サンルーフのソファでボーっとし、うたた寝を繰り返すヒイシとロウヒに侍女服姿のバズが遠慮がちに声をかけてくる。
 「……大丈夫。此処に居たほうが気分が紛れるし……」
ヒイシとロウヒの嘘偽りのない本音である。
あの日以降、仕事に追われていない限り、朝まで抱きつぶされることが常となり、ヒイシとロウヒは夢うつつな状態がよくある。
アトリアとミスラは生気に溢れて仕事に赴くのだから、それだけはほとほと感心してしまう。
バズの思念から「お二人は陛下と閣下にとても愛されておいでなのだ」という恥じらいにも似た微笑ましいものが伝わってくるが、誤解をときたくて堪らない。
 勿論本当のことなど教えるつもりはないが。





どれぐらい眠っていたのか、ヒイシが目を覚ますと、サンルーフには隣で眠っていたロウヒもバズも居なくなっている。
 不思議に思い、ソファから立ち上がって辺りを見回そうとし、ギョッとした。
ヒイシの目の前に、十歳前後の少女が立って、ヒイシをジーっと観察でもするかのように見ている。
 髪は見事なまでの青で、瞳はすべてを見通すかのような水晶の透明さをしている。
 「あ、貴方は……」
ヒイシが何か言おうとすると、少女はニッコリと満面の笑みを浮かべた。





ガバッ、と起き上がったヒイシに、ロウヒとバズは驚いた表情をしてヒイシを覗き込む。
 「ヒイシ様、どうかなさいましたか?」
 「え……あ……夢……?」
つい先程まで少女が居た場所には誰も居ない。
 夢を見ていた。とはすぐに理解したが、それにしても……少女の面影がハッキリと脳内と目の奥に焼き付いている。



この後一年後、ヒイシとロウヒは同時期に懐妊が発表され、同じ年に双子の男女を産み落とすことになる。
ヒイシとアルリアの子どもである息子のウトナ・カール・バールベリトは母親の色彩と異能を受け継ぎ、後に歴史書に名を残す大賢王として語り継がれることとなる。
 娘のカペラ・ヒルズ・バールベリトは父親の色彩と才を受け継ぎ、歴代史上最高の才女として名を残す。ミスラとロウヒの子どもである息子のアルデバラン・レイター・バールベリトは母親の色彩と父親の才覚を受け継ぎ、歴史書に名を残す策士の宰相として名を残すこととなる。
 娘のリゲル・マリエッタ・バールベリトは父親の色彩と母親の歌の才能を受け継ぎ、後世で憧れられるほどの歌姫として名を残す。
ウトナとリゲル、アルデバランとカペラは後に結婚し、ジルベスタン王国を盤石のものとするが、孫が生まれても、ヒイシが夢で見た少女は現れることはなく、完全な夢であったと思うと同時に、一抹の不安をヒイシは生涯心の奥に燻らせて生きたという。

ロウヒだけに語ったことだが「自身の異能とアトリアの猛毒を併せ持った瞳をしている少女」だったという。





この数百年後の後、ヒイシが見た夢の少女が繁栄と発展を遂げた世界に生まれ落ちることなど、まだ誰も知らない。





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