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プロローグ 壊れた贈り物は再び目を覚ます
第1話
しおりを挟む『翠という名前はね、自然化から生み出された宝石のように輝いて生きてほしい、という意味からつけたのよ』
両親が事故で亡くなり、亡くなった父の姉夫妻が私を引き取ってくれた。
何時までも泣いて塞ぎ込んでいる私に根気よく接してくれて、私は心を開くことが出来た。
その時に、両親が私の名前を名付けた意味を知った。
大切にしていこうと思えた。心から。
けれど・・・・・・、二年も経たない内に、私は『命運』という名の理不尽なものに奪われてしまうこととなる。
「・・・っ」
ベッドの上で微睡みから目を覚ました翠は、時計を確認する。
魔法草の水盆の壁掛け時計は、いつも翠が目覚めるよりも三十分は早い時間を指し示している。
昔の夢をみたせいだろうか・・・、と翠は一人ごちてベッドの上をモゾモゾと蓑虫のように動き回る。
動き回っていても睡魔はもう飛んでいて、眠れそうにもない。
翠はベッドから起き上がるとクローゼットから服を取り出し、モゾモゾと着替え始める。
階段を下りていくと、とてもお腹のすく匂いが家の中に漂っている。
翠の足音に、台所で朝食を作っていた女性が振り返った。
「あら、スイ。今日は早いわね」
頷きながら微笑むと、翠は最早家族と断言出来る女性、クインティの隣に立ち、野菜を水で洗い始める。
ふと、キョロキョロと辺りを見回し始めた翠に、クインティは笑いながらフライパンで卵を焼く。
「シュレーなら夜明け前に仕事に行ったわ。港沿いの町で盗賊騒ぎがあってね」
なるほど、と翠は頷く。
朝食がスッカリ出来上がった頃、クインティとシュレーの子ども達が起き出してくる。
「母様、姉様、おはよう~・・・」
次子のエルンが一番早く起きるのは、日常風景である。
「おはよう、早く顔を洗って、歯を磨いてらっしゃい」
頷いて洗面台へと歩いていくエルンと入れ替わりに、長子のカイバが寝ぼけ眼でテーブル椅子に腰掛ける。
「カイバ兄様、お行儀が悪いですわ!」
そんなカイバに苦言を呈するのは、三子のホウである。
ホウの声と被さって泣き声が響く。
「あらあら」
クインティが急いでそちらに向かい、翠が残りの朝食準備をする。
その頃にはエルンも目を覚ましてテーブルに着き、カイバも渋々顔を洗って歯を磨いて着席している。
クインティが今だに愚図っている四子のジャネーを腕に抱き、幼子専用の椅子に座らせて、
「いただきます」
の合掌だ。
「姉様、今日も王宮に行くの?」
朝食を食べつつ、十歳の次子で長女、エルンが翠に話しかける。
クインティも王宮で王子の乳母をしていることから、翠は王宮に隣接している子どもが自由に勉学に励める学び舎で勉強を教えることがあった。
そんな母を支えようと、エルンはとても優しいしっかり者の女の子に成長しつつある。
翠が頷くと、ホウが目を輝かせて身を乗り出す勢いでキラキラした目を翠に向ける。
「でしたら、わたくしも行きたいです! 姉様の歌が聞けるのですもの!」
七歳になる三子で次女のホウは、いつも大人ぶる傾向にあるが、歳相応の好きなことや憧れにいつも興味津々な純粋な子である。
「カイバ兄様は今日も訓練ですか?」
「ああ。午後からは王子の視察に同行する。早く父様のように大きな仕事を任されるようになりたいしな」
「王子の護衛も大切なお役目よ!」
エルンの言葉にカイバが答えると、すかさず母親のクインティがカイバの額を指で弾く。
「ってぇ~・・・」
長子で長男のカイバは十二歳になり、近衛騎士団長である父親のシュレーにスパルタの訓練を日々受けている。
だらけ癖もあるが、将来の見通しをキチンと持っている。
「ね~しゃま、ね~しゃま」
不意に翠の服の腕部分を、四子で次男のジャネーが引っ張る。
「どうしたの?」
という意味を込めて首を傾げる翠に、ジャネーは齧り欠けのソーセージを刺したフォークを置き、ニコニコ顔だ。
「ボクもいく~」
三歳で甘え上手な末っ子であるが、とても家族思いの良い子である。
美貌を誇る両親の良いところを全て引き継いで生まれてきたため、その可愛さは誰もが認めるものだ。
翠以外の家族は皆美男美女であるため、
「麗しのシグルズル家」
と呼ばれている。
クインティとシュレーと翠の三人はその噂を知った時、笑い出さないのに胆力をとても有した。
翠達の暮らすプロセルピナはとても小さな小さな国で、老齢の女王が即位して国を纏めているが、国民は貴族、庶民に関係なく仲が良くて距離が近い。
身分に一切の隔たりがない世界中でも稀有な国家でもあった。
聡明な女王の元、息子の王太子殿下が王として即位する頃には、小国でも立派に大国と渡り合える国に変貌しているだろう、とは他国の見解である。
その王太子殿下は既に妃を迎え、今年で九歳になる王子もいる。
シュレー・シグルズルは近衛騎士団長を務め、妻のクインティは王子の乳母として王宮に勤めている。
翠は家事や畑仕事がない時は、子ども達の学び舎で勉学の息抜きのための歌を歌う仕事をしている。
翠の歌は国内では知らぬ者がいないほど有名だ。
今現在も、子ども達は年齢、性別問わず、翠の歌に聞き惚れている。
翠の歌は特殊で、身振り手振りを交えて歌うのだが、それが更に翠の歌を引き立たせている。
そんな時間は、教師の一人が慌てて室内に入ってきたことにより止まってしまう。
普段はとても落ち着いていて穏やかな男性教師の姿に、子ども達だけではなく、側にいた他の教師達も困惑の表情を浮かべている。
「た、たい、大変、だ・・・ッ」
水を飲まされてようやく落ち着いてきた男性教師の言葉は、場を騒然とさせるのに充分な威力を持っていた。
「レ、レン・マーフィー様が、事故で重篤状態に・・・ッ!」
翠が座っていた椅子が勢いをつけて立ち上がったことにより、不快な音を立てて倒れた。
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