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プロローグ 壊れた贈り物は再び目を覚ます
第3話
しおりを挟むとても温かい場所で寝転んでいた翠は、唐突に目が覚めた。
夢をみていたのだろう。
どんな夢だったかは思い出せないが、とても幸せで・・・悲しい夢だったような気がする。
取り敢えず首を動かしてみると、翠が眠っている場所が家ではないことに気付く。
きっと、あの倒れた後に発見されて運ばれたのだろう。
明らかに上質で大きなベッドに、室内の装飾も豪勢だ。おそらく王宮の一室だ。
起き上がろうとした翠であったが、手すら上手く上がらないことに気付いて驚いた。
どれほど眠り込んでしまっていたのだろうか?
誰か来ないか、とも思ったが、誰も訪れる気配がない。
こんな時、声が出せたら楽なのに、と思ってしまう。
諦めて眠ってしまおうか・・・。
そう考えていた直後、室内に水の入った桶とタオルを持った侍女が入ってきた。
幸い、とばかりに、目覚めていることを伝えるために腕が上がる位置まで動かして、手を振る。
「スイ様ッ! お目覚めになられたのですね?!」
様?
疑問に思いはしたが、了承の意味を込めて軽く頷く。
侍女は水の入った桶を近くのテーブルに置くと、脱兎の如く元来た道を戻っていった。
大声のオマケつきで。
「誰か~~~! スイ様がお目覚めになられました~~~~!! シュレー様とクインティ様、陛下方にご連絡を~~~~~ッ!!!」
そこからが翠にとっては大変だった。
まず先に翠の元に来たのは、余命を告げられていたレンで、翠は自分の祈りが届いたことに安堵したが、大声で怒鳴り怒られ、散々泣かれてしまった。
そして、レンの言葉から、翠は自分が五ヶ月もの間、昏睡状態に陥っていたことを聞き、愕然とした。
どうりで身体の筋力が衰えているはずである。
次いで王宮医師である方が到着し、診察をしている最中、仕事着のシュレーとクインティが息を荒げて現れ、クインティには抱き付いて泣き出され、シュレーからはレンの倍以上の雷を落とされてしまった。
女王陛下が来て、安堵を滲ませた表情を見たまでが限界だった。
何ヶ月も眠り込んでいた余波だったのだろう。
再び翠は眠り込み、翌日の昼過ぎまで目覚めなかった。
目覚めると、カイバ、エルン、ホウ、ジャネーが翠を取り囲んでいて、エルンとホウ、ジャネーには抱き付かれて延々と泣かれ、カイバは怒りながらも、時折目元を腕で拭っていた。
ようやく落ち着いて今後の方針が医師とシュレー、クインティの間で定まった頃、女王が王太子夫妻とレンを連れて翠の泊まっている部屋へと訪れた。
子ども達を抜きにして、シュレーとクインティも話し合いに参加していた。
あの夜、命の灯火が消えかけていたレンの容体が急に回復し、国中が歓喜に満ち溢れた。
だが、目覚めたレンがまだまだ万全ではない身体をおしてどこかに行こうとするので、たくさんの人で止めると、レンは、
「スイに・・・。スイにどうしても会いたいの」
と懇願したらしい。
そのことを伝え聞いたシュレーは嫌な予感がし、クインティに翠の様子を見て来てくれるようにと頼んだ。クインティが自宅に急いで帰ってみても、翠の姿はどこにも見当たらない。
クインティは混乱し、王宮に取って返して、翠の事情を知っている女王に訳を話した。
そこから翠の探索が開始され、森の奥の寂れた教会で意識を失って倒れ込んでいるのが発見された、という次第なのである。
「それにしても陛下、わたしや王太子様達には、スイがベアートゥスであることを教えていただいても宜しかったのでは?」
レンの言葉に王太子夫妻が頷いている。
レンは生死の境を彷徨っている時、翠の声を聞き、存在をとても身近に感じたのだと言う。
ベアートゥス同士は、そういった不思議な繋がりを持っているので、すぐにレンは翠の隠された事情に気付いたらしい。
レンの言葉に穏やかな表情を常に浮かべている老齢の女王陛下はコロコロと笑う。
「あら、話せることだったら、私は何の憂いもなく息子達にもレンにも話していますよ。ねえ、シュレー、クインティ?」
女王の言葉に、シュレーとクインティはとても複雑そうな表情を浮かべている。
「そうそう。近々、ドルドーナ国の国王と王妃が、秘密の「お話」に来られるから、そのつもりでね」
「はあ?!」
女王の言葉に、息子である王太子が素っ頓狂な声を上げてしまう。
隣に座っている王太子妃も口元に手をあてて、目を大きく見開いている。
が、シュレーとクインティは違った。
「陛下、それはお二方だけですか?」
「勿論よ。私の昔からの親友夫妻が、内心で許していると思う?」
シュレーの真剣な言葉に、女王はにこやかな声で応じる。
「ドルドーナ国が何故・・・? あッ・・・!」
呆然としていたレンは何事かに気付いたように翠と女王、シュレーやクインティを順に見比べた。
レンの途惑いを多分に含んだ視線に、苦笑しつつも首を動かすことで、肯定の意味を翠は伝える。
それから約一週間後、世界最大の大国であるドルドーナ国の国王と王妃が最小限の護衛と従者を引き連れて、王宮へとやって来た。
翠は筋力を戻すためにリハビリ運動をしているが、まだ上手く身体を動かせないので、車椅子で女王の会談室にレンと入室していた。
ドルドーナ国の国王は優しげな雰囲気を持ちながらも存在感が強く、王妃は史上最高の賢妃と称えられる存在であり、若い頃の美しさを残しつつ、厳しいキツメの顔立ちは、威厳に満ちていた。
護衛に駆り出されているプロセルピナの騎士達が生唾を呑み込んで緊張しているのも、致しかたのないことなのだろう。
部屋に入室した国王と王妃は、まずは女王と挨拶を交わした。
小国と大国の違いはあれど、良き君主として国を栄えさせているのはどちらも同じで、幼い頃からの幼馴染のような間柄なのだとか。
次に、王妃は翠のほうへ振り向き、その表情を和らげた。
「一年ぶりですね、スイ」
その言葉に返事をするように、翠は首を縦に動かして微笑む。
実は、翠はドルドーナ国の王妃とは、女王を交えて秘密裏にお茶会などをしている間柄である。
王妃が忙しい合間を縫うため、数年ぶりというのも珍しいことではない。
「スイの隣にいるのが、レン・マーフィーですね」
「は、初めまして! お目にかかれて光栄です、ドルドーナ王妃陛下」
普段の様子からは想像出来ないほど、レンも緊張から貴族令嬢然としている。
「随分と久しぶりだね、スイ」
柔らかく声をかけてくれたのは、ドルドーナ国王。
ドルドーナ国を出てから十数年は経つというのに、王妃から伝え聞いている通り、物腰の穏やかな、けれど決して侮られることのない隙のなさは変わりがない。
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