【改稿中】молитва~マリートヴァ~

了本 羊

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第1章 それは痛みを呼び覚ます過去

第9話

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「スイ?」


アエネアに顔を不思議そうに覗き込まれ、思考から戻った翠は、アエネアの顔を直視してしまい、顔を湯沸しのように沸騰させ、アワアワと立ち上がった。


 「な、何でもないです! ど、どうかしましたか?!」
 「料理長がスイの作ったお菓子を参考に、新しいお菓子をまた開発したみたいなんだ。一緒にどうかと思って」


どうかと思って、と訊いてはいても、翠にはやることがないので、チラリと遠くにいる王太子妃を見る。
 王太子妃は心得た、というような笑顔で頷いている。
アエネアも王太子妃の合図を見ていて、ニッコリ微笑んで、翠に手を差し出す。


 「許可は下りたようだから、一緒に行こうか。異界の姫君?」
 「翠でいいです・・・・・・」


 翠の手よりも何倍も大きくて男らしい骨格のある手に引かれて、翠は歩き始める。
 流石に「姫」と呼ばれるのには恥ずかしさが付き纏う。
そんな台詞をサラリと口に出来るアエネアが凄いのだろうけれど。








 王族しか入れない庭園には、小さなテーブルとイスが置かれ、テーブル横にはお菓子やお茶などが運び込まれたワゴンが置かれている。
サザリがテーブルに置いていくお菓子に、翠は目をキラキラさせる。


 「わあ! 可愛いプチケーキ!」
 「スイが紙に書いたお菓子なんかを参考にしたそうだよ」


この世界の生活に慣れた頃、翠は食に関することにちょっとだけ不満を持っていた。
 衣食住が保障されているのに、贅沢だとは思うのだが、食文化が栄える地球の日本人としては、到底納得出来ないことがあるのだ。
クインティやサザリを伴って何度か訪れた王宮の厨房で、この世界の調理法などを見た時、あまりの元の世界とのレベルの違いに驚くしかなかった。



 確かに王宮の料理は美味しい。
でも、揚げ物や和食といった食事はなく、洋食系統。
チョコレートなどのお菓子があって嬉しかったが、甘さ控えめ、といったものはなく、翠の大好きなアイスもない。
 暑い季節はもっぱらフルーツなどを使ったゼリー等。



 勉強や王族と身の回りのお世話をしてくれる侍女や護衛の騎士以外との対人関係のストレスを翠はここでぶつけた。
まずはどんな食材がこの世界にあるのかを王妃や王太子妃に訊き、日本で使われている食材で、


 「こういった物がないか?」


と尋ねて取り寄せてもらう。
 中には食材として扱われていない物も多数あった。
 次に、翠が取り掛かったのは調味料作りである。
ソースや香辛料などはあるが、和食に使われる醤油やみりん、味噌などといった物はない。



ここで翠は伯父に感謝した。
 伯父は在宅仕事をしながらの主夫で、とりわけ料理には拘りを持ち、お手製の香辛料やソースや味噌など、多岐に渡って作っていた。
 翠は学校から帰ると、伯父の手伝いを申し出て、家事や炊事などをこなしながら、伯父の料理作りを見ていたのだ。








 和食の調味料を作る上で一番の要は麹こうじである。
 麹は米、麦、大豆などの穀物にコウジカビ(別名「麹菌きくきん」)などの食品発酵に有効なカビを中心にした微生物を繁殖させたものである。他の材料が集まっても、麹がなければ意味がない。
 味噌、醤油、酢、漬物、焼酎、泡盛、日本酒、発酵食品などは、麹を使って作られる。
 発酵食品はこの世界でも広く流通しているため、麹を手に入れることには何の障害もなかった。
まあ、麹がなければ、パンもヨーグルトも紅茶も製造出来ないわけだから、これは世界を跨いで有難いことだ。



 早速調味料作りに取り掛かった翠は、冷却や保温などの時間の掛かる作業はガラスグサでスピード短縮した。
 魔法草をガラス玉に閉じ込めた物で、食品を保存、保温する箱(云わば冷蔵庫)などの役割等々をしてくれる。
たくさんの食品を扱う商店や、王宮などでは、水晶玉に魔法草を入れた物を使用しているが、長持ちする用なのでとても高価な代物だ。
みりん、酢、味噌、醤油を作り、日本酒なども生産しておく。
こちらの世界のアルコールはワインやカクテルばかりで、日本に馴染みのあるお酒はない。
みりんを作るためにも日本酒は欠かせない。



 次に翠が作り始めたのは、マヨネーズ、ケチャップ、タバスコ、カレー粉、マスタード等。
それが終われば、いよいよ食事作りに取り掛かれる。翠は日頃のストレスを思う存分発露した。



トンカツ、エビフライ、アジフライ、から揚げ、竜田揚げ、スコッチエッグ、天ぷら、春巻き、フライドポテト、チキンカツ、揚げ練り製品(練り製品も手作り)、コロッケ。
 和食は様々な食材の炊き込みご飯、おにぎり、赤飯、ちらし寿司、稲荷寿司、手打ちのうどん、蕎麦、漬物、味噌を使った料理、照り焼き、蒸し物、和え物、煮物。手作りで豆腐も作った。
 物足りなかったので、餃子や肉まん、焼売、カレーなども作ったのは余談である。



 料理長を筆頭にした味見の元、絶大なお墨付きを貰い、その日の王宮の食事は翠が作った料理で彩られ、お世話になっている王族や王宮勤めの人達に翠は惜しみなく褒められ、王宮内から、その料理や食材は貴族、庶民と流通していった。
 食材の買い占め合戦などが起きた時は流石に怖くなったが、早々に規制が制度され、厳しく取り締まられるようになっていた。
 国王と王妃は、事前にこうなることを察知出来ていたのだろう。





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