【改稿中】молитва~マリートヴァ~

了本 羊

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第1章 それは痛みを呼び覚ます過去

第10話

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改めて、翠は国王と王妃にお礼の品を作ろうと、お菓子作りを始めた。


 翠の大好きなアイスを筆頭に、この世界では珍しい庶民的なお菓子や見た目も鮮やかなお菓子。
サッパリ系統の和菓子などもたくさん製作した。
 和菓子は見た目がものをいう時があるので、厳しく伯父から教わっていた。
 大人になってから振り返ってみると、まだ七歳そこらの子どもにあんなに厳しく教えることではなかったように思うのだが、最早笑い話にしかならないだろう。



そこから翠の作ったお菓子も流通し、ドルドーナ国は料理人や商人が常に行き交う国として以前よりも栄え始めた。
それに応じて国王や王妃、王太子、王太子妃、アエネアの仕事は増えてしまい、翠は悪いことをしてしまった気分がして落ち込んでいたが、


 「国が栄えるのは王族として喜ばしいことだから」


と皆に口にされ、元気を取り戻した。
 翠がこの世界にやって来てから一年半の月日が流れていた。



 翠はちょくちょく厨房に顔を出すことで、料理人達とも知り合い、可愛がられた。
 料理長は勉強魂逞しい人で、いつも翠の元の世界の料理の話を聞きたがり、聞いている間はずっとメモを取り、それを参考に、色々と新作の料理やお菓子を作ることが完全に趣味となりつつあった。
アエネアとは対面の椅子に座り、プチケーキを口に運んだ翠は、口の中に広がる幸せに破顔した。


 「美味しいです!」
 「本当だ。料理長は今日も健在だね」


 同じように一口ケーキを食べたアエネアも、口元を綻ばせる。
こういった和やかな空気に包まれると、翠もアエネアに対して挙動不審にならずに話すことが出来た。


 「スイのお陰で、今のドルドーナ国は繁栄の道への守りが強固になっている。感謝が尽きないよ」
 「そ、そんなことはないです! 私のほうこそ、良くしてもらっているのだから、何か返すことが出来たのならば嬉しいです・・・」


 耳まで真っ赤になりながらも何とか言葉を紡ぐ翠の頭を、アエネアが優しく撫でる。
そんな微笑ましい光景を、サザリが温かな目で見つめていた。










その日、翠はアエネアと一緒に、図書館にいた。
この頃になると、翠は貴族や自分に良い感情を抱いていない者達と鉢合わせをしない王宮での道順を覚え、察知能力も敏感になっていた。
 厨房や図書館には護衛付きで出歩いてもいいことになったし、少しずつ翠は閉じ籠もった殻を破ろうとし始めていた。



 今日は図書館で本を読もう、と思っていたところに、仕事で本を探していたアエネアと遭遇した。
 翠の護衛に付いている騎士はシュレーの部下で、ニコニコしながら翠から距離を取ってアエネアと翠を見ていた。
アエネアの護衛の騎士は、アエネアの幼馴染でもある貴族の三男坊で、タイム・アージという、アエネアと比べることは出来ないが、翠の世界でも滅多にお目にかかれない美形である。
アエネアと共に翠を可愛がってくれるが、何故か翠とアエネアを二人っきりにさせることが多く、翠は困惑ばかりしている。
 実は翠がアエネアに幼いながらに恋をしていることは、翠と親しい者には既に周知の事実となっており、温かい目で見られていることに当人はまったく気付いていなかった。


 「スイは物語や図鑑が好きですね」
 「は、はい! 物心が付いた頃から、好きで読んでました!」


 翠はアエネアに対する感情が今もって何なのかわからずにいた。
それを周囲は鈍い、と揶揄することはなかったのは、幼い翠の身に起こった人生すべてを塗り替えてしまう出来事の余波だろうと誰もがわかっていたからに他ならない。
 翠は異世界の人間に恋をする、という発想は物語の中だけだと無意識に思っている節があった。


 「ああ、そうだ」


アエネアは何か思い出したかのように、胸元から小さな箱を取り出した。
 翠が不思議そうに見ている姿に微笑み、箱を翠の前で開けた。


 「わあ・・・! 綺麗ですね~!」


 箱の中に入ったいたのは、リボンの形をした水晶に、様々な花々を閉じ込めたバレッタとペンダント、指輪の三点揃いのアクセサリーだった。
 女の子らしく目を輝かせる翠を優しい眼差しで見つめ、アエネアはその箱を翠のほうへと差し出した。


 「私から、スイへの贈り物」
 「え?!」


 翠は驚いて、箱とアエネアを見比べ、慌てて首を振る。


 「こんな高価そうなもの、受け取れません!! 第一、贈り物を貰う理由がないですし!」
 「今までのことを兼ねたお礼だよ。スイの知識を元に作ったアクセサリーなんだ。だから世界中でスイしか持たない物。兄上と義姉上も了承されているよ」
 「ええ~~・・・」


 途惑う翠の手に、アエネアは力強く箱を握らせる。


 「受け取ってくれなければ、私が困るよ」


そうまで言われてしまうと、受け取る以外の選択肢などない。
オズオズと箱を受け取った翠を満面の笑みでアエネアが見つめ、そのアエネアの様子が、更に翠を真っ赤にさせる。


 「そうだ。ちょっと今、付けてみてくれるかな?」
 「あ、はい」


 翠は箱からアクセサリーを取り出そうとするが、その前にアエネアの手が動き、ネックレスを翠の後ろに回って付け、翠の手を取って指輪をはめ、髪にバレッタを止める。
あっという間の出来事であった。


 「うん、似合ってる。スイは髪は伸ばさないのかい?」
 「えっと・・・・・・、私は似合わないので・・・」
 「そんなことはないよ。翠は寧ろ、髪が長いほうが似合うんじゃないかな?」


 翠の髪に止められたバレッタに手を触れて、アエネアが微笑む。


 「そ、そうでしょうか・・・?」
 「うん」


アエネアが触れたバレッタに自分の手を添えて、翠は恥ずかしそうに俯く。
その時、翠の中で、何かがストン、と胸に落ちた。




・・・・・・ああ、私・・・・・・、アエネア様のことが・・・好き・・・・・・、なんだ・・・・・・。




 翠が自身の初恋を自覚した瞬間であった。
しかし、そんな束の間の幸せな空気は、飛び込んできたタイムの部下によって壊された。


 「アエネア殿下ッ! タイム様!!」


いつもならば礼儀正しいタイムの部下の慌て振りに、アエネアだけでなく、翠も思わず椅子から立ち上がってしまう。


 「どうした?」


タイムの言葉に、部下は息を整えながらも、叫ぶように報告を告げた。


 「た、たった今ッ! リョンロート国が前触れもなしに戦を仕掛けてきたとの報告が砦から・・・ッ!!」


その叫びにも似た報告に、その場の全員の表情が強張る。
 翠も、突然の事態に先程の幸せな一時のことも忘れて呆然としていた。





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