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1章
招かれしゲスト
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ふと気がつくと、いつの間にか先ほどの景色とは違う空間に立ちつくしていた。
「あれ……?ここは…さっきの場所じゃ、ない?」
当たりを見回すと、クルクルと回るメリーゴーランドのアトラクションが目に入る。
パステルピンクや優しいミントグリーン。いかにも遊園地らしい、ファンシーなユニコーンが、オルゴールのようなゼンマイ仕掛けの機械音を響かせながら、ゆっくりと動いていた。
そのユニコーンを、体を揺らしながら眺めている小さな男の子が、私に気付いて小走りで駆け寄ってきた。瞳は期待でいっぱいに光っている。
「おれ以外にも、ゲストがいたんだね!?きみ、どこから来たの?おれ、なんかよく分かんないんだけど、ヘンな招待状を貰って、気づいたらここにいたんだよね!」
警戒心ゼロの、屈託のない笑顔。
状況が飲み込めないままの私に、彼は矢継ぎ早に話しかけてくる。
「わたしも、同じだよ。よく分からないうちに、ここにたどり着いて、気付いたら子どもの姿になって……て、あ、あれ?」
大人の姿に戻っていたはずなのに、ふと気付けばまた子どもの姿に戻っていた。
しかも今度は、子どもの頃に憧れて、それでも買って貰えることはなかった“魔法使いの少女の衣装”を身にまとっていた。
「ふうん?子どもの姿って、キミ、子どもじゃん!あ、その服、知ってる!魔法使いの女の子が戦うアニメのアレでしょ!?」
男の子は嬉しそうに笑う。この訳の分からない状況を、ただただ楽しんでいるようだった。
彼はくるりとメリーゴーランドを指差した。
「ねえ、あっちもすごいんだよ!さっきまで木馬だったのに、おれが“欲しかったやつ”思い出したら、急に恐竜に変わったんだ!すっげぇリアルでさ!」
「恐竜に……?」
「うん!ほら、あそこ!」
男の子が指差した先には、本当にいた。
ピクリと尾を揺らす小さなティラノサウルス。
アトラクションの作り物にしては妙に生々しく、ブン、と尻尾を大きく振り回しながら風を切るその姿は、今にもこちらへ向かってきそうな迫力をもっていた。
思わず息を飲んだその時、男の子が首をかしげた。
「キミにもあるでしょ?“昔、欲しかったもの”とか、“ずっと見たかった景色”とかさ。思い出したら、ここ、すぐ変わるよ?」
その言葉に胸がちくりと痛む。
――欲しかったもの。
――買ってもらえなかったもの。
私は自分の姿をもう一度見下ろす。
小さな身体。
キラキラした憧れのコンパクトが付いた、フリルが花びらのように重なる魔法少女の服。
憧れて、憧れて……でも親に「あんたには似合わないから」と笑われて諦めたもの。
“似合わない子”だったから、欲しいなんて言えなかった。
欲しがることすら、許されなかった。
大人になっても、その感覚はずっと胸の奥に残ったままだった。
その記憶が針のように、じわりと胸の奥に広がる。
「……これも、わたしが思い出したから、なのかな」
ぽつりと呟いた瞬間、足元に柔らかな光が走った。
影が揺らめき、スカートの裾がふわりと広がる。
まるで子どもの頃描いた“空想の舞台”に立っているような感覚がして、胸が締めつけられた。
男の子は目を輝かせた。
「でしょ!?ここってさ、なんか“心が描いた夢”がそのまま出てくる場所なんだと思う!だっておれ……ずっと恐竜に会ってみたかったんだ」
「恐竜に?」
「うん。おれ、小さい時すぐ病院に運ばれてたから、外で遊べなかったんだ。恐竜図鑑ばっか読んでて……本物に会いたいってずっと思ってた。そしたら……ほら!」
明るく弾む声。
けれど、その奥にはかすかな寂しさがあった。
――この子も、“何か”抱えてここに来たんだ。
ふと、遠くの空に影がよぎる。
巨大な観覧車だ。
まるで心臓のように、ゆっくりと脈打つ金色の光。
「ねぇ、キミ。あれ、さっき乗った?」
「うん……わたしは、ちょっとだけ。ひとつ、思い出したよ」
「そっか……」
男の子は数秒だけ黙った後、ぽつりと尋ねた。
「ねえ……“許す”って、なんだろうね?」
その言葉は、この場所では異様に重く響いた。
「わたしも……まだ分からない。でも、きっと――」
言いかけたその時、メリーゴーランドのオルゴールがひときわ高く鳴り響いた。
風がざわめき、地面が淡く光り始める。
まるで次の“舞台”が整ったかのように。
男の子は私の手をぎゅっと掴んだ。
「行こ!なんか、次のエリア、開いたっぽいよ!」
その無邪気さに胸がざわつく。
――この遊園地は、わたし達の“後悔”を掘り起こす場所。
そして、“忘れたかった記憶”は、まだ終わらない。
私はその手を握り返し、息を小さく飲んだ。
「……うん、行こっか」
次にどんな“思い出”が現れるのか、それはまだ誰にも分からなかった。
「あれ……?ここは…さっきの場所じゃ、ない?」
当たりを見回すと、クルクルと回るメリーゴーランドのアトラクションが目に入る。
パステルピンクや優しいミントグリーン。いかにも遊園地らしい、ファンシーなユニコーンが、オルゴールのようなゼンマイ仕掛けの機械音を響かせながら、ゆっくりと動いていた。
そのユニコーンを、体を揺らしながら眺めている小さな男の子が、私に気付いて小走りで駆け寄ってきた。瞳は期待でいっぱいに光っている。
「おれ以外にも、ゲストがいたんだね!?きみ、どこから来たの?おれ、なんかよく分かんないんだけど、ヘンな招待状を貰って、気づいたらここにいたんだよね!」
警戒心ゼロの、屈託のない笑顔。
状況が飲み込めないままの私に、彼は矢継ぎ早に話しかけてくる。
「わたしも、同じだよ。よく分からないうちに、ここにたどり着いて、気付いたら子どもの姿になって……て、あ、あれ?」
大人の姿に戻っていたはずなのに、ふと気付けばまた子どもの姿に戻っていた。
しかも今度は、子どもの頃に憧れて、それでも買って貰えることはなかった“魔法使いの少女の衣装”を身にまとっていた。
「ふうん?子どもの姿って、キミ、子どもじゃん!あ、その服、知ってる!魔法使いの女の子が戦うアニメのアレでしょ!?」
男の子は嬉しそうに笑う。この訳の分からない状況を、ただただ楽しんでいるようだった。
彼はくるりとメリーゴーランドを指差した。
「ねえ、あっちもすごいんだよ!さっきまで木馬だったのに、おれが“欲しかったやつ”思い出したら、急に恐竜に変わったんだ!すっげぇリアルでさ!」
「恐竜に……?」
「うん!ほら、あそこ!」
男の子が指差した先には、本当にいた。
ピクリと尾を揺らす小さなティラノサウルス。
アトラクションの作り物にしては妙に生々しく、ブン、と尻尾を大きく振り回しながら風を切るその姿は、今にもこちらへ向かってきそうな迫力をもっていた。
思わず息を飲んだその時、男の子が首をかしげた。
「キミにもあるでしょ?“昔、欲しかったもの”とか、“ずっと見たかった景色”とかさ。思い出したら、ここ、すぐ変わるよ?」
その言葉に胸がちくりと痛む。
――欲しかったもの。
――買ってもらえなかったもの。
私は自分の姿をもう一度見下ろす。
小さな身体。
キラキラした憧れのコンパクトが付いた、フリルが花びらのように重なる魔法少女の服。
憧れて、憧れて……でも親に「あんたには似合わないから」と笑われて諦めたもの。
“似合わない子”だったから、欲しいなんて言えなかった。
欲しがることすら、許されなかった。
大人になっても、その感覚はずっと胸の奥に残ったままだった。
その記憶が針のように、じわりと胸の奥に広がる。
「……これも、わたしが思い出したから、なのかな」
ぽつりと呟いた瞬間、足元に柔らかな光が走った。
影が揺らめき、スカートの裾がふわりと広がる。
まるで子どもの頃描いた“空想の舞台”に立っているような感覚がして、胸が締めつけられた。
男の子は目を輝かせた。
「でしょ!?ここってさ、なんか“心が描いた夢”がそのまま出てくる場所なんだと思う!だっておれ……ずっと恐竜に会ってみたかったんだ」
「恐竜に?」
「うん。おれ、小さい時すぐ病院に運ばれてたから、外で遊べなかったんだ。恐竜図鑑ばっか読んでて……本物に会いたいってずっと思ってた。そしたら……ほら!」
明るく弾む声。
けれど、その奥にはかすかな寂しさがあった。
――この子も、“何か”抱えてここに来たんだ。
ふと、遠くの空に影がよぎる。
巨大な観覧車だ。
まるで心臓のように、ゆっくりと脈打つ金色の光。
「ねぇ、キミ。あれ、さっき乗った?」
「うん……わたしは、ちょっとだけ。ひとつ、思い出したよ」
「そっか……」
男の子は数秒だけ黙った後、ぽつりと尋ねた。
「ねえ……“許す”って、なんだろうね?」
その言葉は、この場所では異様に重く響いた。
「わたしも……まだ分からない。でも、きっと――」
言いかけたその時、メリーゴーランドのオルゴールがひときわ高く鳴り響いた。
風がざわめき、地面が淡く光り始める。
まるで次の“舞台”が整ったかのように。
男の子は私の手をぎゅっと掴んだ。
「行こ!なんか、次のエリア、開いたっぽいよ!」
その無邪気さに胸がざわつく。
――この遊園地は、わたし達の“後悔”を掘り起こす場所。
そして、“忘れたかった記憶”は、まだ終わらない。
私はその手を握り返し、息を小さく飲んだ。
「……うん、行こっか」
次にどんな“思い出”が現れるのか、それはまだ誰にも分からなかった。
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