アルファランドより、恩赦を込めて。

逢真まみ

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1章

やすらぎのヤミーヤミーエリア

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ゆっくりと開いたエリアに、私と男の子は手を繋いだまま恐る恐る足を踏み入れた。

そこには、ポップで可愛らしいハートや、丸みのある天使の羽が生えた風船が、ふわりふわりと宙を上下に漂っていた。
淡いピンクと柔らかなミルク色の光が溶け合うようにゆらゆらと揺れ、見ているだけで頬が少し緩んでしまう。

辺りを見回すと、そこはいわゆる“フードエリア”のようだった。

色とりどりのきらびやかなスイーツハウスが並び、屋台のようなカウンターには、見たことのないお菓子がどっさりと積まれている。

ピンクをベースにした虹色の粒がきらきら光るわたあめ。
星型に、ちょこんとうさぎのキャラクターが乗ったマカロン。
ねこの顔の形をかたどった、鮮やかな黄色のキャラメルポップコーン。

それらは子どもだけでなく、大人の私ですら心が躍るほどの見た目をしていた。

「うわぁ……いい匂い!なんか、お腹すいてきちゃうね!」

男の子は大きな瞳をめいっぱい開き、きらきらと輝かせている。
その姿は、まるでそこかしこを漂う風船のように軽やかで、ふわふわと跳ねながら駆け出していく。

その無邪気な背中を見て、私は思わず笑ってしまった。

(さっきまで不安だったのに……何だか、気が抜けちゃった)

甘いキャラメルの香りが、このエリアに寄り添うように空気へと溶け込み、
心地の良い優しいメロディが遠くから流れてきた。
胸の奥が、ほんのりと温かくなる。

「ここって……もしかして、ちょっとひとやすみできる、休憩エリア?」

呟いたその瞬間。
目の前のスイーツハウスの看板が“パッ”と光り、ゆっくりと言葉が浮かび上がった。

【YummyYummy Area — 心を満たすひととき —】

(心を……満たす?)

胸の奥が、ちくん、と小さく痛む。

甘い匂い、優しい色、柔らかな光。
“満たされる”という言葉が、どこか遠い世界のもののように感じられた。

『ハッピーハッピーストロベリーキャンディー♪
 カリリと噛めば~しあわせ広がる~♪』

甘い歌声が聞こえ、そちらへ振り返ると――
さわり心地が良さそうなビビッドピンクのうさぎのキャラクターが、売り子のようにこちらを見て微笑んでいた。

『そこのお嬢さん、おつれのボクと、美味しいおいしいキャンディーはいかが~?』

うさぎのキャラクターは、大きな瞳をぱちくりさせ、ふっくらした頬をにっこりとゆるませながら、手に持ったバスケットを差し出してきた。

バスケットの中には、小さな小瓶がひとつ。
その小瓶には天使の羽がちょこんと付いており、まるでキャンディーを守るように寄り添っている。
瓶の中には、オーロラのように光る包み紙にくるまれたキャンディーが一粒だけ入っていた。

男の子が目を輝かせる。

「すっげー!?ゲームのアイテムみたいじゃん!キラキラだ!これ、食べていいやつ!?」

『もちろん~♪
 このエリアのキャンディーは、み~んなをしあわせにするキャンディーなんだよ!』

うさぎの声は妙に耳に心地よく、
まるで耳元で優しく囁かれているような、甘くとろける音色のようだった。

「……しあわせに、する?」

私が呟くと、
うさぎはペコリと長い耳をだるんと垂らしてお辞儀をし、私にキャンディーを差し出してきた。

「で、でもこれ、お金は……?」

ここでようやく、私はランド内でお金が使えるのかという疑問に気付いた。
この不思議な空間では、普通の通貨が使えないのかもしれない。

『しんぱいご無用だよ~♪
 エリア内のものはお嬢さんがもってる招待状でぜんぶ買えちゃうよ~。
 フリーパスチケットの、とくべつ優待券だよ~☆』

招待状……? あれで全部……?

考えているうちに、いつのまにか私の招待状はうさぎの手に渡っていた。

「なんで……!?いつの間に……!」

『こまかいことは、気にしない~☆
 さあどうぞ~♪ ボクの分もあげようね~?
 招待状、みせてね~♪』

私が何かを言うより早く、
うさぎが飴の入った小瓶をズイッと目の前に押しつけてきた。

瓶に触れた瞬間、ふわっと天使の羽が指をくすぐり、
じんわりと温かさが指先へ広がっていく。

――それはまるで、優しい人肌みたいに。

疑問はあれこれと浮かぶのに、
それと同時に、どこか心がふわりと軽くなる感覚もあった。

男の子が私の横で、今か今かと自分の順番を待ち遠しそうにしながら、ワクワクと跳ねている。

『はい、次はボクのばんね~♪ はい、どうぞ~☆』

うさぎが男の子の招待状を確認し、
すぐに別の小瓶を渡した。

「あれ……、わたしのと、招待状の種類が違う……?」

『さあ召しあがれ♪
 ……美味しいしあわせ、かみしめて☆』

エリアの中を、ひゅう、と風が吹き抜けた。

私はそっと小瓶の中の包みを開き、
色とりどりの光を閉じ込めた飴玉を見つめる。

(……食べても、いいのかな)

胸の奥が、また少しだけ――
きゅっと痛んだ。
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