アルファランドより、恩赦を込めて。

逢真まみ

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2章

ぐるぐる迷わせノ森

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次のエリアに向けて男の子と歩いていると、
遠くに、ふわりと深い影がゆらゆらと“揺蕩う”ように揺れているのが見えてきた。

それは近づくほどに濃く、重く、
やがて――“鬱蒼とした森”だと分かった。

エリア名を示す、色とりどりの花と蔦が絡まったアーチには、

《あべこべテンダーエリア》

と、大きく書かれている。

「“あべこべ”……?」

何がどう“あべこべ”なのだろう。
そんな疑問と不安が胸をくすぐったとき、
隣の男の子が看板を見て大騒ぎした。

「あべこべテンダーエリア、だって!
 おれ、森のダンジョンってきらーい!
 RPGだとぐるぐる同じ景色ばっかで、
 ぜったい迷わせてくるやつじゃん!」

元気よく叫ぶ声に、私は思わずくすりと笑った。

「それ分かる。私も小さいころ、
 森のマップだけは覚えられなかったな……」

「でしょ!?ぜったい罠あるよ!
 でも……宝箱とかもあるかな!?」

男の子の“RPGあるある”がツボに入り、
さっきまでの緊張が少しだけほぐれていく。

けれど――
視線を森へ戻した瞬間、背中にぞくりと冷たいものが走った。

森の入口には奇妙な看板が、
これでもかと立てられていた。

THERE?
Hear?
WHERE?
HERE?
NO HERE?
TURN? RETURN?

文字はどれもいびつに歪み、
方向を示す矢印もバラバラで、
ひとつとして同じ向きを指していない。

「……なにこれ。英語……のはずなのに、ちょっと怖い」

「おれ、“NO HERE?”が怖いんだけど!?
 なんで“ここじゃない”って否定すんの!?
 ならどこ行けばいいの!?
 やなタイプの森のダンジョンだ~~!」

彼の抗議が妙に正論で、笑ってしまった。
……けれど、喉の奥がひゅっとすぼまる。

(方向看板……のはずなのに……
 “どこにも行けない”って言ってるみたい)

本当に、ここに一歩踏み入れたら――
出口がなくなる。
そんな直感が、背骨を冷たく撫でた。

そしてもうひとつ、
もっとイヤな違和感が胸を刺す。

(――あれ?)

看板は多いのに、ひとつだけ書かれていない言葉があった。

“WELCOME”。

今までどのエリアにもあった、
ありきたりで、定番のあの言葉だけが
どこにも存在しなかった。

(歓迎……されてない?
 本当にここ、ゲストのための場所……?)

胸の奥が強くざわついた、そのとき――
森の奥から、ひゅう、と冷たい風が吹き抜けた。

まるで誰かが、すぐ耳元で囁いたように。

『ぐるぐる、くるくる、ぐーるぐる。
 迷って、探して? どこまでも』

気のせいだと思いたかった。

でも、横にいた男の子がぎゅっと私の手を握った。

「ねぇ……聞こえた?
 なんか……呼ばれた気がした……」

私は息を呑み、森の入口をじっと見つめた。

――このエリアは、
“優しいふりをした迷いの森”。

そして、入ったら最後。
何かが、必ず“あべこべ”になる。

「……行くしか、ないよね」

「う、うん……でも、一緒に行こうね……?」

私は頷き、
階段のように枝が折り重なる入口へ足を踏み入れた。

その瞬間――
空気の色が、ゆっくりと反転し始めた。
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