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恋花と愛那
恋花と愛那の場合 6ー4
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「海だー!!」
「……そうね」
数日前までプールに行く予定だった。しかし、流れるプールが機械の故障で休止し、それに伴い他のアトラクションも点検を行うことになり臨時休業となった。そのため急きょ海に行き先を変更したのだ。
「恋ちゃん、テンション低いよ!」
「それを言わないと始まらないのか?」
「大佐、遊びはテンションを上げるとこから始まるのです! 偉い人にはそれが分からんのです!」
「誰が大佐だ」
「知らない?」
「知ってる」
近くをいい匂いが過ぎ去っていく。焼きそばだ。愛那が目を輝かせている。
「まだ十時か。早速海に入ろうか」
「ん? あ、うん!」
嗅覚と視覚に五感ほとんど割り振って聴覚ほとんど働いてなかったことがよく分かる返事だ。頬を軽くつねって今度はハッキリと言ってやる。
「お昼は後にしろ」
「……ふぁい」
海へと走る愛那を引き止めて軽く準備運動をさせる。並んで泳ぎ始めると彼女の方が速いのが少し悔しかった。
「恋ちゃんはさ、平泳ぎできる?」
「まあ、一応」
「すごい、見せて!」
手足をカエルのように動かして泳ごうとするとあまり進まなかった。顔を出したままなのが原因だろうか。
「おおー、綺麗!」
自分では納得いかなかったが、愛那は喜んでくれたようだ。
「後で教えて!」
「今じゃダメなの?」
「もうお昼ご飯だから!」
そう言うと、雑だが速いクロールで砂浜へと向かっていく。まだまだ元気な彼女を、平泳ぎでゆっくりと追いかける。
適当な海の家で昼食にすることにした。愛那は焼きそばにすると言うので、カレーに決めた。違うものを頼んだ時、「少し交換しよ?」と言ってくるのだ。たしか、中辛くらいまでは食べれたはずだ。
「焼きそばは塩とソースどっちが好き?」
ここにはソースのみだが、興味本位で聞いてみた。
「ソースかなあ、色々あるし」
「うん、私も」
何気ないやり取りだが自然に笑顔で返事が出る。気がつくと自分のサイダーに口をつけていた彼女の額を軽く叩く。
「美味しかったよ」
と言う陽の光に照らされた笑顔は卑怯に感じられた。
食べ終えて二十分ほどで泳ぎに行こうと言い出したが、もう少し休もうと返す。
「手で水を掻いて、足で蹴って進むって感じかな?」
「うー……よく分かんない」
「そうだよね……」
午前中に話した平泳ぎのレクチャーだが、どうにも上手く伝わらない。自分も父親から教わった方法で泳いでいるので正しい説明と泳ぎ方ではないのかもしれない。
顔を上げた愛那はポツリと漏らす。
「海じゃ難しいのかな……」
「それはあると思う」
「今度プール行こうね」
さらっと次を誘ってくる。海にいるときにプールに行こうと言う人は初めて見た。
愛那がかき氷が食べたいと言い出し、そこで平泳ぎの練習は終わりになった。体を冷やしたくないので私はいいやと言うと、青々としたブルーハワイをくれようとした。
海の家で売られているイルカの浮き輪に惹かれ、他所様の高校生グループのスイカ割りに何故か参加させてもらい、クラゲの死骸をそうと知らずに触ろうとする。子どもがいるとこんな感じなのだろうか……いや、もっと大変なのだろう。
「恋ちゃん、そろそろ帰ろっか」
「あー、もう五時か」
更衣室で着替えた後、荷物をまとめ始めると五時を告げる鐘が鳴る。他にも帰る準備をするグループがちらほらと見受けられる。愛那より先に片付けが済んだのでスマホを取り出す。
「あと十分で電車来るって。間に合いそう?」
「大丈夫!!」
半透明なレジ袋に三枚ほどのサイズの違うタオルを詰め込んでいた。急かしてしまっただろうか。
「急がなくてい……」
「終わり! 行こ!」
電車には無事乗れた。これを逃すと三十分後と思うと有り難かった。
「……そうね」
数日前までプールに行く予定だった。しかし、流れるプールが機械の故障で休止し、それに伴い他のアトラクションも点検を行うことになり臨時休業となった。そのため急きょ海に行き先を変更したのだ。
「恋ちゃん、テンション低いよ!」
「それを言わないと始まらないのか?」
「大佐、遊びはテンションを上げるとこから始まるのです! 偉い人にはそれが分からんのです!」
「誰が大佐だ」
「知らない?」
「知ってる」
近くをいい匂いが過ぎ去っていく。焼きそばだ。愛那が目を輝かせている。
「まだ十時か。早速海に入ろうか」
「ん? あ、うん!」
嗅覚と視覚に五感ほとんど割り振って聴覚ほとんど働いてなかったことがよく分かる返事だ。頬を軽くつねって今度はハッキリと言ってやる。
「お昼は後にしろ」
「……ふぁい」
海へと走る愛那を引き止めて軽く準備運動をさせる。並んで泳ぎ始めると彼女の方が速いのが少し悔しかった。
「恋ちゃんはさ、平泳ぎできる?」
「まあ、一応」
「すごい、見せて!」
手足をカエルのように動かして泳ごうとするとあまり進まなかった。顔を出したままなのが原因だろうか。
「おおー、綺麗!」
自分では納得いかなかったが、愛那は喜んでくれたようだ。
「後で教えて!」
「今じゃダメなの?」
「もうお昼ご飯だから!」
そう言うと、雑だが速いクロールで砂浜へと向かっていく。まだまだ元気な彼女を、平泳ぎでゆっくりと追いかける。
適当な海の家で昼食にすることにした。愛那は焼きそばにすると言うので、カレーに決めた。違うものを頼んだ時、「少し交換しよ?」と言ってくるのだ。たしか、中辛くらいまでは食べれたはずだ。
「焼きそばは塩とソースどっちが好き?」
ここにはソースのみだが、興味本位で聞いてみた。
「ソースかなあ、色々あるし」
「うん、私も」
何気ないやり取りだが自然に笑顔で返事が出る。気がつくと自分のサイダーに口をつけていた彼女の額を軽く叩く。
「美味しかったよ」
と言う陽の光に照らされた笑顔は卑怯に感じられた。
食べ終えて二十分ほどで泳ぎに行こうと言い出したが、もう少し休もうと返す。
「手で水を掻いて、足で蹴って進むって感じかな?」
「うー……よく分かんない」
「そうだよね……」
午前中に話した平泳ぎのレクチャーだが、どうにも上手く伝わらない。自分も父親から教わった方法で泳いでいるので正しい説明と泳ぎ方ではないのかもしれない。
顔を上げた愛那はポツリと漏らす。
「海じゃ難しいのかな……」
「それはあると思う」
「今度プール行こうね」
さらっと次を誘ってくる。海にいるときにプールに行こうと言う人は初めて見た。
愛那がかき氷が食べたいと言い出し、そこで平泳ぎの練習は終わりになった。体を冷やしたくないので私はいいやと言うと、青々としたブルーハワイをくれようとした。
海の家で売られているイルカの浮き輪に惹かれ、他所様の高校生グループのスイカ割りに何故か参加させてもらい、クラゲの死骸をそうと知らずに触ろうとする。子どもがいるとこんな感じなのだろうか……いや、もっと大変なのだろう。
「恋ちゃん、そろそろ帰ろっか」
「あー、もう五時か」
更衣室で着替えた後、荷物をまとめ始めると五時を告げる鐘が鳴る。他にも帰る準備をするグループがちらほらと見受けられる。愛那より先に片付けが済んだのでスマホを取り出す。
「あと十分で電車来るって。間に合いそう?」
「大丈夫!!」
半透明なレジ袋に三枚ほどのサイズの違うタオルを詰め込んでいた。急かしてしまっただろうか。
「急がなくてい……」
「終わり! 行こ!」
電車には無事乗れた。これを逃すと三十分後と思うと有り難かった。
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