立てば芍薬、座れば牡丹、歩けば咲くは百合の花

鍵谷 雷

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キャサリンと絵美李

キャサリンと絵美李の場合 4-3

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 駅から十分くらい歩くと、庭付き二階建ての一軒家が多く並んでいるのが見えてきた。

「私の家、もうここから見えるんだけどどれだと思う?」

 いたずらっぽい笑顔で聞いてくる。あたりを見回すと表札に”山崎”とある家が見えるが、ありふれた苗字だしフェイクだろうと考えた。あまり深く考えずに百メートルほど先にある家を指す。高い塀に囲まれて中の様子がほとんど分からない頭一つ抜けて広い土地だった。

「ハズレ~」

 じゃあとその向かいの家を指す。キャシーは首を振った。

「……まさか、ここ?」

 キャシーがそちらに向かって歩き出す。それは最初にフェイクだと思った”山崎”さんの家だ。

「っぽくない?」
「そんなことないけど……」
「ま、入ろ」

 彼女は扉の前に立つとポケットからスマートフォンを取り出す。ケースのままインターホンの横の白い長方形にかざすとガチャという音がした。玄関は思ったよりも狭く、順番に靴を脱がないとぶつかってしまう。キャシーが先に上がってスリッパを用意してくれた。基本的に靴下か裸足で過ごす身としては違和感がある。そのまま二階へと上がる。「スリッパだから気を付けてね」と声をかけてくれるあたりがやっぱり王子だ。
 四畳くらいの部屋に通された。ベッドがないのが意外だ。寝室は別なのだろうか?他は特筆して驚くようなところはない。水色のカーテン、黄緑色の丸いマットの上に茶色いテーブルが置かれている。同じく茶色い学習机には置き場に困ったのであろう教科書が積まれている。その横には小さい本棚があり、上には小物が並んでいた。本棚の中身は後でチラ見しようと思った。

「適当に座って。押し入れとか本棚の奥見ても変なものなんて無いからね。飲み物持ってくるけど、麦茶と紅茶とオレンジジュースどれがいい?」
「じゃあ紅茶で」
「アイスでいい?」
「アイスで」
「ミルクと砂糖は?」
「どっちもいらない」
「承知しました、姫様」

 彼女が部屋を出て階段を下る音が聞こえ始めたのを見計らって本棚に近づく。少年漫画が多めで少女漫画と小説が少しといったところだ。ほとんどメディア化されたような有名作品ばかりだが、いくつかは知らないタイトルだ。後で調べてみよう。

「お待たせ~」

 ピンクの可愛らしいトレーを持って戻ってきた。グラスにアイスティーが二つ、パン皿が数枚、フォークも置いてある。コースターを敷いてグラスを差し出してくれる。

「さっき買ったパンもう食べるよね?」
「ええ、いただきましょ」

 お皿にパンを並べていく。焼きたてというには時間が経ってしまったが、まだいい香りがする。キャシーイチオシのキャラメルコロネに手をつける。ひたすら甘くて美味しい。パンもしっかりしていてるが、キャラメルクリームの邪魔はしていない。キャラメルクリームはこぼれそうなほどしっかりと詰まっている。そう思いながら食べているといつの間にかなくなっていた。

「美味しかった?」
「うん」
「もいっこ食べる?」
「キャシーの分でしょ」
「私はいつでも食べれるからさ」

 押し負けてもう一ついただく。食の太い方ではないがペロリと食べれてしまった。
 キャシーがスッと近づいてくる。

「口元にキャラメルついて…」

 その顔を手ひらの壁で遮る。

「……それはダメ」
「二人っきりだよ?」
「それでもダメ」

 キャシーは口を三角に結ぶ。彼女のペースに乗せられると、いつの間にか一線を越えそうだったからである。

「友達同士のスキンシップだよ?」
「日本生まれの日本育ちのくせに」
「バレた」

 会話の主導権を握った(?)ところで話題の転換を試みる。

「催促するわけじゃないけど、お土産が気になるわ」

 キャシーはにっこりと笑うと

「お昼にしよ。パンだけじゃ足りないでしょ?」
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