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二葉と早苗
会長と副会長の場合
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新校舎の三階、誰もいない三年生の教室の前を通り抜けると扉に段ボールが貼られており、
『星女生徒会室』
と書かれている。中は教室の半分ほどの広さだ。アニメでよく見る社長が座るような机は無い。あるのは普通の机と椅子だけだ。それらが縦長の部屋に三つずつ向き合うように置かれている。
入り口から見て左手の奥の席に先客がいた。生徒会副会長の如月早苗だ。腰辺りまで伸ばした黒い髪、モデルのようなルックス、少しつり目に見える眼鏡、と制服を着ていなければ教師と間違えられてもおかしくない。
「あら、しろちゃん。今日は早いのね」
「珍しく補講が長引かなかった。あと、しろちゃんって呼ぶな」
今、『しろちゃん』と呼ばれたのは生徒会会長の城田二葉だ。副会長の早苗とは対称的に、小柄で童顔、ショートカット、と見た目だけなら五歳はサバを読んでいるようだ。
二人は去年の九月に生徒会会長と副会長に任命された。今は三月なので、就任して半年程になる。
「早苗、新歓のプログラムはどうなった?」
「はい、これサンプル。イラスト部が頑張ってくれたわ」
二葉はざっと目を通して、早苗に返す。
「うん、良いじゃないか」
「あ、部活紹介の方はまだ出揃ってないわ」
「あれは今月末までだしなぁ」
二人は向かい合うように席に着き、黙々と作業を進めていく。しばらくすると、チャイムが鳴った。早苗が沈黙を破る。
「あら、もうお昼ね」
「そうだな。今日も学食行くか?」
「ええ、そうしましょう」
二葉は天ぷらうどんを、早苗はから揚げ定食を注文した。
「常々思っていたが、早苗はがっつりしてるよな」
「あら、しろちゃんの食が細いだけよ?」
「ふん、好きに言えばいい。小さいのにも需要がある……だろ」
「ええ、そうね。生徒会長がいきなりボンキュッボンになったら怖いわ」
二葉は無視してうどんをすすりだす。ジョークがスルーされて少し寂しがりながら、早苗もから揚げを口に運ぶ。
その後、特に会話もなく二人の昼食が終わる。生徒会室に戻り、また働き始める。一時間半ほど経ったとき、二葉が仕事以外の話題を切り出した。
「ときに、早苗。告白されたことはあるか?」
「ないわねぇ」
「いや、ここで指すのは恋愛における告白に限ったことじゃない。家族以外に大事なことを打ち明けられたことはあるか。ということだ」
「ああ、それなら何度か」
「そういった時どのような気持ちになる?」
「……」
早苗は姿勢を正して、斜め上を眺める。一方で二葉はおもむろに立ち上がった。
「すまない。少し疲れていたようだ。下で飲み物を買ってくるが何かいるか?」
「私は水筒があるから」
「そうか」
生徒会長が生徒会室を出て行った。副会長はゆっくりと扉が閉まるのをじっと見つめていた。
『星女生徒会室』
と書かれている。中は教室の半分ほどの広さだ。アニメでよく見る社長が座るような机は無い。あるのは普通の机と椅子だけだ。それらが縦長の部屋に三つずつ向き合うように置かれている。
入り口から見て左手の奥の席に先客がいた。生徒会副会長の如月早苗だ。腰辺りまで伸ばした黒い髪、モデルのようなルックス、少しつり目に見える眼鏡、と制服を着ていなければ教師と間違えられてもおかしくない。
「あら、しろちゃん。今日は早いのね」
「珍しく補講が長引かなかった。あと、しろちゃんって呼ぶな」
今、『しろちゃん』と呼ばれたのは生徒会会長の城田二葉だ。副会長の早苗とは対称的に、小柄で童顔、ショートカット、と見た目だけなら五歳はサバを読んでいるようだ。
二人は去年の九月に生徒会会長と副会長に任命された。今は三月なので、就任して半年程になる。
「早苗、新歓のプログラムはどうなった?」
「はい、これサンプル。イラスト部が頑張ってくれたわ」
二葉はざっと目を通して、早苗に返す。
「うん、良いじゃないか」
「あ、部活紹介の方はまだ出揃ってないわ」
「あれは今月末までだしなぁ」
二人は向かい合うように席に着き、黙々と作業を進めていく。しばらくすると、チャイムが鳴った。早苗が沈黙を破る。
「あら、もうお昼ね」
「そうだな。今日も学食行くか?」
「ええ、そうしましょう」
二葉は天ぷらうどんを、早苗はから揚げ定食を注文した。
「常々思っていたが、早苗はがっつりしてるよな」
「あら、しろちゃんの食が細いだけよ?」
「ふん、好きに言えばいい。小さいのにも需要がある……だろ」
「ええ、そうね。生徒会長がいきなりボンキュッボンになったら怖いわ」
二葉は無視してうどんをすすりだす。ジョークがスルーされて少し寂しがりながら、早苗もから揚げを口に運ぶ。
その後、特に会話もなく二人の昼食が終わる。生徒会室に戻り、また働き始める。一時間半ほど経ったとき、二葉が仕事以外の話題を切り出した。
「ときに、早苗。告白されたことはあるか?」
「ないわねぇ」
「いや、ここで指すのは恋愛における告白に限ったことじゃない。家族以外に大事なことを打ち明けられたことはあるか。ということだ」
「ああ、それなら何度か」
「そういった時どのような気持ちになる?」
「……」
早苗は姿勢を正して、斜め上を眺める。一方で二葉はおもむろに立ち上がった。
「すまない。少し疲れていたようだ。下で飲み物を買ってくるが何かいるか?」
「私は水筒があるから」
「そうか」
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