立てば芍薬、座れば牡丹、歩けば咲くは百合の花

鍵谷 雷

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恋花と愛那

恋花と愛那の場合

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こいちゃーん! おはよー!」

 登校中の恋花れんかは後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。こんなあだ名で自分を呼ぶのは一人しかいない。岡田愛那あいなだ。

「おはよう、愛」

 すごい勢いで走ってきた愛那に、少しぶっきらぼうに返事をする。恋花は毎朝そう思う。

「ねぇ、恋ちゃん。ぎゅーってしていい?」
「嫌だ」
「何で!?」
「人目があるし、汗臭いし、理由がない」

 恋花は愛那の希望をすぐに承諾しない。しかし、先ほど言った理由は本心とは少し違う。

「理由はあるよ! 汗臭いのは……ごめん」

 人目のことは無視かと思いながら、わざとらしくため息をついた後返事をする。

「じゃあ理由を聞こうか」
「昨日テレビで親しい人とハグすると、何とかってホルモンが出てお互いに元気になれるんだって」

 またテレビが情報源の謎科学を話し始めた。先週はカカオが健康に良いだのと言いながら水筒にコーヒーを入れてきて、一日中苦い顔をしていた。

「だから欧米の人たちは一日中元気に過ごせるって言ってたよ。だから、ね?」
「分かった」

 と言いながら、恋花は愛那に抱きつく。

「わっ……! 恋ちゃん、待って」
「ハグしたいって言ったのはあんたでしょ」
「そうだけど……」

 恋花が耳元でささやくと、愛那の治まりかけていた顔の紅潮がまた現れた。
 鐘の音が聴こえる。二人を祝福する鐘ではない、学校の予鈴だ。二人は我に返ったように学校に向かう。

 走っている二人の顔はすでに真っ赤だった。
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