立てば芍薬、座れば牡丹、歩けば咲くは百合の花

鍵谷 雷

文字の大きさ
34 / 43
奏と響子

奏と響子の場合 2

しおりを挟む
「ねえ、やっぱり軽音入ったら?」
「先生ひどい!  前も話したじゃん」
「何が?」

  旧校舎の屋上に続く階段の下、一人の生徒と一人の教師が話していた。

「一年の春に軽音行った話しなかったっけ?」
「いや、初耳だよ」
「じゃあ話すから聞いて」

  生徒である田辺奏がそう言うと、教師である櫻井響子は腕時計を見せて言った。

「それさ、あと十分で話せる?」
「……じゃあ、明日聞いて」
「うん、分かった。もう戻るね」

  響子は、そう言いながら立ち上がり新校舎の職員室へ向かう。奏は響子の足音が聞こえなくなってから動きだし、自分の教室へと向かった。教室に入ると待っていたと言わんばかりにクラスメイトの富士原洋子が話しかけてきた。

「田辺さん、ギター弾けるって本当?」
「まあ、一応……」
「校外ライブ一緒に出てくれない?  ギターが指骨折しちゃって、代役も見つからないんだ」
「どんな曲やるの?」
「今回はバンプとミスチルだよ」
「ごめん、あんまり詳しくないしムリかな」
「そっか、こっちこそ突然ごめんね」

  奏がバンプやミスチルに詳しくないというのは本当だった。しかし、断った理由としては正しくない。
  ほとんど交流の無い相手だったからかというわけでもない。例えば、響子に頼まれたとしても参加しなかっただろう。


  放課後、軽音部顧問でもある響子にこの事を軽く話した。自分でも「奏が気にすることじゃないよ」とでも言って欲しかったのは分かっていた。しかし、奏は響子の返事に目を見開いた。

「うん、知ってる。私が提案したからね」
「は?」

  奏はそれ以上の言葉が出ず、その場から走り去った。もっと早く話をしておくべきだった。
  気がつくと旧校舎の屋上に続く階段のところに来ていた。

「ここに来るのもこれが最後かな……」

  必死に涙をこらえようとする。歯を食いしばり、上を向いて、涙が落ちないようにする。それでも彼女の下には小さな水溜まりが出来ていた。

「奏!!」
「先……生?」

  響子は驚く奏を抱きしめて、悲しみを受けとるかのように小さく泣き出した。

「ごめん……ごめんね……」

  言わなければならない事は沢山あった。しかし、響子にはただ謝ることしか出来なかった。教師とは思えぬ行動に呆気にとられていた奏が少し冷静に口を開いた。

「先生、謝らないで……。悪いのは全部あたしだから」

  奏にはこの発言から始まるであろう責任の所在を追及することの不毛さが分かっていた。しかし、自分に抱きつく愛しい人の涙をこれ以上見たくなかった。

「ねえ、先生。今度家に行かせてよ。その時全部話すから」

  今度は響子が驚いた。少し間を置いて返事をした。

「もういいよ。辛いなら何も話さなくて。私ももう余計なことは言わないから」
「……」

  奏には響子の発言の真意が分からなかった。だが、それよりも家に行きたいという問いに対する返事が欲しかった。

「ねえ、先生。今度家に行って良い?」
「いや、さすがにそれは……」
「……」

  奏は泣き腫らした赤い目で響子を見つめる。無邪気な表情は幼い子どものようだった。

「……次の土曜の午後からだったら」

  櫻井響子は週末のために部屋を掃除し始めたという。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

モヒート・モスキート・モヒート

片喰 一歌
恋愛
主人公・翠には気になるヒトがいた。行きつけのバーでたまに見かけるふくよかで妖艶な美女だ。 毎回別の男性と同伴している彼女だったが、その日はなぜか女性である翠に話しかけてきた。 紅と名乗った彼女は男性より女性が好きらしく、独り寝が嫌いだと言い、翠にワンナイトの誘いをかける。 根負けした翠は紅の誘いに応じたが、暑い盛りと自宅のエアコンの故障が重なってしまっていた事もあり、翠はそれ以降も紅の家に頻繁に涼みに行くようになる。 しかし、妙な事に翠は紅の家にいるときにだけ耐え難い睡魔に襲われる。 おまけに、ほとんど気絶と言って言い眠りから目覚めると、首筋には身に覚えのないキスマークのような傷が付いている。 犯人候補は一人しかいない。 問い詰められた紅はあっさり容疑を認めるが、その行動の背景には翠も予想だにしなかった事情があって……!? 途中まで恋と同時に謎が展開しますが、メインはあくまで恋愛です。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

クールすぎて孤高の美少女となったクラスメイトが、あたしをモデルに恋愛小説を書く理由

白藍まこと
恋愛
あたし、朝日詩苑(あさひしおん)は勝気な性格とギャルのような見た目のせいで人から遠ざけられる事が多かった。 だけど高校入学の際に心を入れ替える。 今度こそ、皆と同じように大人しく友達を作ろうと。 そして隣の席になったのは氷乃朱音(ひのあかね)という学年主席の才女だった。 あたしは友好的に関わろうと声を掛けたら、まさかの全シカトされる。 うざぁ……。 とある日の放課後。 一冊のノートを手にするが、それは氷乃朱音の秘密だった。 そして、それを知ってしまったあたしは彼女に服従するはめに……。 ああ、思い描いていた学校生活が遠のいていく。 ※他サイトでも掲載中です。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...