立てば芍薬、座れば牡丹、歩けば咲くは百合の花

鍵谷 雷

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奏と響子

奏と響子の場合

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「櫻井先生、これはどう?」
「うん、良いじゃん。今度はアデルに影響受けたんだね」
「やっぱりバレた~、何で分かるの?」
「伊達に二十六年間洋楽聴いてないから。年季が違うのよ、年季が」

  櫻井響子きょうこと田辺かなでは、旧校舎の屋上に続く階段の下、一つのイヤホンを片耳づつ着けて、他愛の無い会話をする。大抵の内容は奏の作った歌詞の無い曲インストゥルメンタルを、音楽教師である響子が評価するというものだ。
  曲が終わるところで、奏は音楽プレーヤーの一時停止ボタンを押す。

「次の曲は先生のために作ったんだ」
「ん? 今までと何が違うの?」
「今までのは自分のため。まあ、技術が上がったわけでもないし、違うのは気持ちくらいだけど」

  そう言いながら、奏は自分の右耳に着けたイヤホンを外し響子に渡す。響子が両耳に着けたのを確認すると、再生ボタンを押す。
  三分ほどの沈黙の後、響子が一言発した。

「ありがとう。今までで一番素敵な曲だった」
「本当に?」

  奏が問う。すると、響子は右耳のイヤホンを外して奏に返す。

「でも、奏が作った曲を奏と一緒に聴く方がもっと素敵だね」
「……先生、誰にでもそんなこと言うの?」
「奏にしか言わないよ? それより、もっかい聴こう?」

  二人――特に奏――の昼休みはいつもより早く終わった。
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