立てば芍薬、座れば牡丹、歩けば咲くは百合の花

鍵谷 雷

文字の大きさ
43 / 43
1話のみ

眞子と沙羅の場合

しおりを挟む
  放課後、夕焼けの射し込む教室に二人の女生徒がいた。二人は机二つ分ほど離れた位置でお互いを見つめるように立っていた。
 片方が先に口を開いた。

「セレーナは私のことが嫌いなのか?」
「いいえ、リューシス。私は貴女を愛しているわ!」
「ああ、それでも君は私と共に夜の住人となることを拒むというの?」
「ごめんなさい。家族を、妹を捨てては行けないの……」

  セレーナがそれを言い終わると、リューシスはふぅと一息ついて口を開く。

「やっぱり『夜の住人』より『吸血鬼』がよくない?」
「そう?  あんまり『吸血鬼』連呼したくないんだけど」

  するとチャイムが鳴る。時計は六時を指していた。

「やば、もう出なきゃ!」
沙羅さら、台本!」

  ドタバタしながら校門を出る。二人ではぁはぁと息を切らしながら学校を離れていく。

「前から聞こうと思ってたんだけど、何で眞子まこがセレーナなの?  見た目で言ったらそっちが吸血鬼でしょ?」
「目つきが悪くて人の生き血すすってそうってこと?」
「そういう意味じゃなくてさ……」

  沙羅は眞子を上目遣いでじっと見つめる。眞子は目を逸らした。

「色んなものに囚われて何も出来ない憐れなやつだからよ……」
「え?」
「沙羅のそのいい加減さが吸血鬼っぽいと思ったからよ!」
「何怒ってるのさ」

 沙羅は寂しそうにうつむく。眞子は何も言い返さず、そこで会話が途切れた。
 二十歩ほど歩いたところで沙羅が「あー」という声を出す。眞子が沙羅の方を見た。沙羅は眞子をしっかりと見つめ、声を張り上げた。

「我が愛しのセレーナよ、君は太陽だ!  私は君という光に溶かされた!  光は誰にも独占出来ない。しかし、願わくば君を必要とする多くの人を照らしてほしい!」

 周囲の視線が二人に注がれる。赤面していた眞子は自らの頬を小さく叩き、先程の返事をする。

「リューシス、私は星でありたい。貴女だけが見つめてくれる小さく光る星でいたいわ!  貴女は違うの……?」
「君は……それで良いのか?  家族や友人を捨て、私と夜を過ごしてくれると?」
「私の心は既に決まっていたの。貴女を愛したあの時から」

  二人の近くで見ていた中学生くらいの少女が拍手を始めた。立ち止まって見ていた他のギャラリーにも伝播して大きな拍手となった。
  眞子と沙羅は軽く頭を下げて、その場を逃げるように離れた。

「あのさ……、さっきのは眞子の方が背が高くて髪長くて綺麗だって言いたかったんだよ」
「……そう、ありがと」

  セレーナはリューシスの方へ少し寄った。リューシスはセレーナの手を握る。

「手、冷たい」
「眞子と違って心が暖かいからね」

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

処理中です...