立てば芍薬、座れば牡丹、歩けば咲くは百合の花

鍵谷 雷

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1話のみ

眞子と沙羅の場合

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  放課後、夕焼けの射し込む教室に二人の女生徒がいた。二人は机二つ分ほど離れた位置でお互いを見つめるように立っていた。
 片方が先に口を開いた。

「セレーナは私のことが嫌いなのか?」
「いいえ、リューシス。私は貴女を愛しているわ!」
「ああ、それでも君は私と共に夜の住人となることを拒むというの?」
「ごめんなさい。家族を、妹を捨てては行けないの……」

  セレーナがそれを言い終わると、リューシスはふぅと一息ついて口を開く。

「やっぱり『夜の住人』より『吸血鬼』がよくない?」
「そう?  あんまり『吸血鬼』連呼したくないんだけど」

  するとチャイムが鳴る。時計は六時を指していた。

「やば、もう出なきゃ!」
沙羅さら、台本!」

  ドタバタしながら校門を出る。二人ではぁはぁと息を切らしながら学校を離れていく。

「前から聞こうと思ってたんだけど、何で眞子まこがセレーナなの?  見た目で言ったらそっちが吸血鬼でしょ?」
「目つきが悪くて人の生き血すすってそうってこと?」
「そういう意味じゃなくてさ……」

  沙羅は眞子を上目遣いでじっと見つめる。眞子は目を逸らした。

「色んなものに囚われて何も出来ない憐れなやつだからよ……」
「え?」
「沙羅のそのいい加減さが吸血鬼っぽいと思ったからよ!」
「何怒ってるのさ」

 沙羅は寂しそうにうつむく。眞子は何も言い返さず、そこで会話が途切れた。
 二十歩ほど歩いたところで沙羅が「あー」という声を出す。眞子が沙羅の方を見た。沙羅は眞子をしっかりと見つめ、声を張り上げた。

「我が愛しのセレーナよ、君は太陽だ!  私は君という光に溶かされた!  光は誰にも独占出来ない。しかし、願わくば君を必要とする多くの人を照らしてほしい!」

 周囲の視線が二人に注がれる。赤面していた眞子は自らの頬を小さく叩き、先程の返事をする。

「リューシス、私は星でありたい。貴女だけが見つめてくれる小さく光る星でいたいわ!  貴女は違うの……?」
「君は……それで良いのか?  家族や友人を捨て、私と夜を過ごしてくれると?」
「私の心は既に決まっていたの。貴女を愛したあの時から」

  二人の近くで見ていた中学生くらいの少女が拍手を始めた。立ち止まって見ていた他のギャラリーにも伝播して大きな拍手となった。
  眞子と沙羅は軽く頭を下げて、その場を逃げるように離れた。

「あのさ……、さっきのは眞子の方が背が高くて髪長くて綺麗だって言いたかったんだよ」
「……そう、ありがと」

  セレーナはリューシスの方へ少し寄った。リューシスはセレーナの手を握る。

「手、冷たい」
「眞子と違って心が暖かいからね」

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