42 / 43
1話のみ
彩音と咲良の場合
しおりを挟む
人の往来が激しくなった。電車が到着したのだろう。降車ランナーのトップ集団が目の前を通りすぎていく。そろそろだと思って改札に近づく。改札から彼女が出てくる。こちらに気が付いて、いつも通りの柔らかい笑顔を向けてくれる。
「おはよう、彩ちゃん」
「おはようございます。薬師寺さん!」
「同い年なんだし、咲良で良いって言ってるのに」
呼び捨てなど恐れ多くて出来るはずがない。それより、彼女が私だけを見て、私だけに話しかけてくれている。こんな嬉しいことはない。果たして、これは現実だろうか。
「毎朝そうして頬をつねってるね。大丈夫?」
「いえ、これは夢でないことの確認です」
「彩ちゃんは本当に面白いね」
また美しい笑顔を見せてくれる。このまま彼女が笑ってくれるのなら、私はずっと頬をつねっていられる。気が付くと学校に到着している。何故駅から学校までの距離がわずか十分程しかないのだろう。二年一組、いや、薬師寺さんのクラスメートがどれだけ羨ましいことか。机に荷物を置き、一限の準備をして二つ隣の教室に行く。
「彩ちゃん!ちょうど良かった」
「どうしました?」
「出来るだけ早く話しておきたくってさ。三日後の木曜日、良かったら放課後少し付き合ってもらえないかな? 他に用事ある?」
「大丈夫です!」
「ありがとう。じゃあ木曜はどっちかの教室の前で待ち合わせね」
「はい!」
私は自分のクラスに戻り、スケジュール帳を開く。薬師寺さんに関することが分かる範囲でびっしりと書かれている。三日後というと何かあっただろうかと確かめる。これといった用事は無かった。まあ、あっても全ての優先順位のトップに上書きするだけだ。
三日後、ホームルームが終わると、私は誰よりも早く教室を出た。しかし、薬師寺さんは三組の教室の前で待っていた。待たせてしまった。
「お待たせしてすみません!」
「数分しか待っていないから気にしないで。行こうか」
「それで、今日はどこに行くんですか?」
薬師寺さんは少し考えたような素振りをして言う。
「彩ちゃんはどこか行きたいところってある?」
「いえ……、特に無いです」
「じゃあ、とりあえず駅の方へ向かって歩きましょうか」
「……?」
今日の彼女は何を考えているのか分からない。このような全く無計画の行動を他人に提案するような人ではないはずだ。疲れているのだろうか。
薬師寺さんの話に聞き入っていると、駅前に着いてしまった。
「あそこに入りましょ」
小さな喫茶店を 指差しながら言った。オシャレなスイーツを多く揃えていることから若い女性から人気の高いお店だ。空いている席に座ると、若い女性店員がお冷とメニューを持ってきてくれる。
「彩ちゃん、好きなものを選んで。今日は私が奢るから」
「え!? そんな……申し訳ないです」
「良いの。いつものお礼だと思って、ね?」
薬師寺さんに限って裏があるなどということは無いだろうが、それでもいきなり奢ると言われたら戸惑う。確かに彼女のために色々としてきたが、これでは恩の押し売りをしていたみたいではないか。しかし、にこやかに笑いながら私の顔とメニューを交互に見る彼女の気持ちを無下には出来なかった。
「じゃあ、チョコパフェで」
「私はアップルパイにするから、良かったらはんぶんこしない?」
「はい!」
まさか、こう来るとは思ってなかった。''はんぶんこ''、なんて素敵な響きだろう。薬師寺さんと食べ物を共有できる日が来るとは思ってなどいなかった。
先ほどの店員がチョコパフェとアップルパイを運んでくる。
「彩ちゃん、ハッピーバースデー!」
「え……?」
「もう、自分の誕生日覚えてないの?」
「私の誕生日は十一月十一日ですよ……」
「……ご、ごめん」
今日は十月十一日だ。薬師寺さんは赤面して顔を伏せる。私はそんな彼女をフォローする。
「お気持ちだけで嬉しいですよ。ありがとうございます」
この言葉に嘘など一切ない。言った覚えのない誕生日を祝ってくれようとしただけで嬉しい。私の誕生日は十月十一日だが、一日も私の記念日となった。
「おはよう、彩ちゃん」
「おはようございます。薬師寺さん!」
「同い年なんだし、咲良で良いって言ってるのに」
呼び捨てなど恐れ多くて出来るはずがない。それより、彼女が私だけを見て、私だけに話しかけてくれている。こんな嬉しいことはない。果たして、これは現実だろうか。
「毎朝そうして頬をつねってるね。大丈夫?」
「いえ、これは夢でないことの確認です」
「彩ちゃんは本当に面白いね」
また美しい笑顔を見せてくれる。このまま彼女が笑ってくれるのなら、私はずっと頬をつねっていられる。気が付くと学校に到着している。何故駅から学校までの距離がわずか十分程しかないのだろう。二年一組、いや、薬師寺さんのクラスメートがどれだけ羨ましいことか。机に荷物を置き、一限の準備をして二つ隣の教室に行く。
「彩ちゃん!ちょうど良かった」
「どうしました?」
「出来るだけ早く話しておきたくってさ。三日後の木曜日、良かったら放課後少し付き合ってもらえないかな? 他に用事ある?」
「大丈夫です!」
「ありがとう。じゃあ木曜はどっちかの教室の前で待ち合わせね」
「はい!」
私は自分のクラスに戻り、スケジュール帳を開く。薬師寺さんに関することが分かる範囲でびっしりと書かれている。三日後というと何かあっただろうかと確かめる。これといった用事は無かった。まあ、あっても全ての優先順位のトップに上書きするだけだ。
三日後、ホームルームが終わると、私は誰よりも早く教室を出た。しかし、薬師寺さんは三組の教室の前で待っていた。待たせてしまった。
「お待たせしてすみません!」
「数分しか待っていないから気にしないで。行こうか」
「それで、今日はどこに行くんですか?」
薬師寺さんは少し考えたような素振りをして言う。
「彩ちゃんはどこか行きたいところってある?」
「いえ……、特に無いです」
「じゃあ、とりあえず駅の方へ向かって歩きましょうか」
「……?」
今日の彼女は何を考えているのか分からない。このような全く無計画の行動を他人に提案するような人ではないはずだ。疲れているのだろうか。
薬師寺さんの話に聞き入っていると、駅前に着いてしまった。
「あそこに入りましょ」
小さな喫茶店を 指差しながら言った。オシャレなスイーツを多く揃えていることから若い女性から人気の高いお店だ。空いている席に座ると、若い女性店員がお冷とメニューを持ってきてくれる。
「彩ちゃん、好きなものを選んで。今日は私が奢るから」
「え!? そんな……申し訳ないです」
「良いの。いつものお礼だと思って、ね?」
薬師寺さんに限って裏があるなどということは無いだろうが、それでもいきなり奢ると言われたら戸惑う。確かに彼女のために色々としてきたが、これでは恩の押し売りをしていたみたいではないか。しかし、にこやかに笑いながら私の顔とメニューを交互に見る彼女の気持ちを無下には出来なかった。
「じゃあ、チョコパフェで」
「私はアップルパイにするから、良かったらはんぶんこしない?」
「はい!」
まさか、こう来るとは思ってなかった。''はんぶんこ''、なんて素敵な響きだろう。薬師寺さんと食べ物を共有できる日が来るとは思ってなどいなかった。
先ほどの店員がチョコパフェとアップルパイを運んでくる。
「彩ちゃん、ハッピーバースデー!」
「え……?」
「もう、自分の誕生日覚えてないの?」
「私の誕生日は十一月十一日ですよ……」
「……ご、ごめん」
今日は十月十一日だ。薬師寺さんは赤面して顔を伏せる。私はそんな彼女をフォローする。
「お気持ちだけで嬉しいですよ。ありがとうございます」
この言葉に嘘など一切ない。言った覚えのない誕生日を祝ってくれようとしただけで嬉しい。私の誕生日は十月十一日だが、一日も私の記念日となった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
モヒート・モスキート・モヒート
片喰 一歌
恋愛
主人公・翠には気になるヒトがいた。行きつけのバーでたまに見かけるふくよかで妖艶な美女だ。
毎回別の男性と同伴している彼女だったが、その日はなぜか女性である翠に話しかけてきた。
紅と名乗った彼女は男性より女性が好きらしく、独り寝が嫌いだと言い、翠にワンナイトの誘いをかける。
根負けした翠は紅の誘いに応じたが、暑い盛りと自宅のエアコンの故障が重なってしまっていた事もあり、翠はそれ以降も紅の家に頻繁に涼みに行くようになる。
しかし、妙な事に翠は紅の家にいるときにだけ耐え難い睡魔に襲われる。
おまけに、ほとんど気絶と言って言い眠りから目覚めると、首筋には身に覚えのないキスマークのような傷が付いている。
犯人候補は一人しかいない。
問い詰められた紅はあっさり容疑を認めるが、その行動の背景には翠も予想だにしなかった事情があって……!?
途中まで恋と同時に謎が展開しますが、メインはあくまで恋愛です。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
クールすぎて孤高の美少女となったクラスメイトが、あたしをモデルに恋愛小説を書く理由
白藍まこと
恋愛
あたし、朝日詩苑(あさひしおん)は勝気な性格とギャルのような見た目のせいで人から遠ざけられる事が多かった。
だけど高校入学の際に心を入れ替える。
今度こそ、皆と同じように大人しく友達を作ろうと。
そして隣の席になったのは氷乃朱音(ひのあかね)という学年主席の才女だった。
あたしは友好的に関わろうと声を掛けたら、まさかの全シカトされる。
うざぁ……。
とある日の放課後。
一冊のノートを手にするが、それは氷乃朱音の秘密だった。
そして、それを知ってしまったあたしは彼女に服従するはめに……。
ああ、思い描いていた学校生活が遠のいていく。
※他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる