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奏と響子
奏と響子の場合 4
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「櫻井先生!」
響子は肩を揺さぶられるのを感じた。
「……あ、北条先生」
「大丈夫? 大分お疲れのようだけど」
「ごめんなさい、ちょっと眠かっただけですよ」
北条香梨は櫻井響子の二つ先輩である。他に若い女性教諭がいないことから、お互いに話しやすい関係にあった。
「何か悩みがあるなら聞くよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。生徒の悩みってどこまで踏み込んで良いと思います?」
「どういう感じのやつ? 恋愛? 勉強?」
「うーん、人付き合いって感じですかねぇ」
実際、響子は奏から詳しいことを聞いた訳ではない。しかし、自ら交流を制限してる以上この言い方は間違いないと思っていた。
「学内でならお互い呼んで間に立って言い分くらいは聞いてもいいと思うけどねぇ」
「そこがよく分からないときは……?」
「それは手を出しちゃいけないかな。まだ全部は話してくれてないってことでしょ。相手が気持ちの整理出来てない以上、こっちが踏み込んでいく隙はないね」
「……ありがとうございます」
奏はまだ全てを話したくないのだろう。それは理解していた。
奏を家に招いてから一週間。人目につかないところで二人で会うということが無かった。
時折、旧校舎の屋上前に顔を出したが誰も居なかったのだ。
その翌日、ダメ元で覗いてみると手の平サイズの紙切れが壁に貼られていることに気がつく。
『放課後、いつもの場所で』
少し丸くて斜めった字でそう書かれていた。奏の字だ。
「来てくれたんだ」
「奏、ごめん……」
「何で先生が謝るの? 全部私のワガママだよ」
響子は黙り込む。自分が振り回されていることは否定出来なかったからだ。
「今日呼んだのはあの話をしようと思って」
奏は入学直後、部活見学の際に迷わず軽音部に向かった。鞄には自作の曲を入れていた。しかし、どのバンドもカバーしかしていないと言われ、自作曲は聴かれもせずにバカにされたというものだった。
「それ以来、バンド……誰かと音楽をやるのが嫌になった。誰も分かってくれなかった……」
響子は何も言わず隣に座る奏の肩を引き寄せる。
「先生?」
「辛いよね……。自分の創ったものが誰にも届かないのは……」
「先生、泣いてるの?」
「だって……、私にも分かるもの……」
奏は響子を少し引き離しポケットからハンカチを取り出し響子の目元に当てる。
「教師が生徒の前で泣かないでよ」
「……ごめん」
「鼻水噛まないでね。ティッシュなら別にあげるから」
数分後、響子の涙は止まった。それまで二人は黙りこんでいたが、目を腫らして鼻声の響子が口を開いた。
「……二人で音楽やろっか。お互いに曲創って持ち寄って、一緒に歌って、ネットに投稿したりしてさ。もちろん、奏が良ければだけど」
「うん! やろうよ! やりたい!」
奏は柄にもなく興奮した返事をする。
「あ、でも二人ともギターじゃん」
「私はキーボードとかも出来るよ」
「嘘!?」
「これでも音楽教師だよ?」
こうして、教師と生徒のデュオバンドが結成された。
響子は肩を揺さぶられるのを感じた。
「……あ、北条先生」
「大丈夫? 大分お疲れのようだけど」
「ごめんなさい、ちょっと眠かっただけですよ」
北条香梨は櫻井響子の二つ先輩である。他に若い女性教諭がいないことから、お互いに話しやすい関係にあった。
「何か悩みがあるなら聞くよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。生徒の悩みってどこまで踏み込んで良いと思います?」
「どういう感じのやつ? 恋愛? 勉強?」
「うーん、人付き合いって感じですかねぇ」
実際、響子は奏から詳しいことを聞いた訳ではない。しかし、自ら交流を制限してる以上この言い方は間違いないと思っていた。
「学内でならお互い呼んで間に立って言い分くらいは聞いてもいいと思うけどねぇ」
「そこがよく分からないときは……?」
「それは手を出しちゃいけないかな。まだ全部は話してくれてないってことでしょ。相手が気持ちの整理出来てない以上、こっちが踏み込んでいく隙はないね」
「……ありがとうございます」
奏はまだ全てを話したくないのだろう。それは理解していた。
奏を家に招いてから一週間。人目につかないところで二人で会うということが無かった。
時折、旧校舎の屋上前に顔を出したが誰も居なかったのだ。
その翌日、ダメ元で覗いてみると手の平サイズの紙切れが壁に貼られていることに気がつく。
『放課後、いつもの場所で』
少し丸くて斜めった字でそう書かれていた。奏の字だ。
「来てくれたんだ」
「奏、ごめん……」
「何で先生が謝るの? 全部私のワガママだよ」
響子は黙り込む。自分が振り回されていることは否定出来なかったからだ。
「今日呼んだのはあの話をしようと思って」
奏は入学直後、部活見学の際に迷わず軽音部に向かった。鞄には自作の曲を入れていた。しかし、どのバンドもカバーしかしていないと言われ、自作曲は聴かれもせずにバカにされたというものだった。
「それ以来、バンド……誰かと音楽をやるのが嫌になった。誰も分かってくれなかった……」
響子は何も言わず隣に座る奏の肩を引き寄せる。
「先生?」
「辛いよね……。自分の創ったものが誰にも届かないのは……」
「先生、泣いてるの?」
「だって……、私にも分かるもの……」
奏は響子を少し引き離しポケットからハンカチを取り出し響子の目元に当てる。
「教師が生徒の前で泣かないでよ」
「……ごめん」
「鼻水噛まないでね。ティッシュなら別にあげるから」
数分後、響子の涙は止まった。それまで二人は黙りこんでいたが、目を腫らして鼻声の響子が口を開いた。
「……二人で音楽やろっか。お互いに曲創って持ち寄って、一緒に歌って、ネットに投稿したりしてさ。もちろん、奏が良ければだけど」
「うん! やろうよ! やりたい!」
奏は柄にもなく興奮した返事をする。
「あ、でも二人ともギターじゃん」
「私はキーボードとかも出来るよ」
「嘘!?」
「これでも音楽教師だよ?」
こうして、教師と生徒のデュオバンドが結成された。
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