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9.クリスマス ※給水パッド
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「まだ歩ける?疲れてない?」
千傘が聞いて、陽登は首を傾げた後頷く。
「調べたらこの先にイルミネーションあるって。せっかくだから見に行かない?」
ぱっと陽登は顔を明るくした。
「すき」
言ってから「あっ」と真っ赤になって口に手を当てて、
「イ、イルミネーションが……」
と陽登はうつむきながら言い直す。
「俺も好き!」
千傘はわざとらしく大きめの声で言った。陽登はおどろいて顔を上げる。
「イルミネーションが」
すこし期待した自分が恥ずかしくて、ケラケラと笑って明らかにからかうようにいたずらっぽく笑った千傘の肩を陽登が恥ずかしさに軽くポスポス殴ると千傘は笑いながらイルミネーションの方へと歩いた。
「あと陽登が」
振り返らず、前を見ながら千傘は少し声を落としていった。陽登が驚いて立ち止まって千傘の顔を見ると、千傘も赤い顔をしている。千傘は立ち止まらずに歩く。
「おいてくぞ」
ぶっきらぼうな声が完全に照れ隠しとわかって、陽登は目をぱちくりと瞬かせ、そして慌てて追いかけた。
まったくそんなつもりなく伝えた言葉が愛の言葉に書き換わって気恥ずかしいやら嬉しいやら、高揚する気持ちを抑え陽登はまだ熱い頬をマフラーの中にうずめる。浮かれているのは街に流れるクリスマスの歌のせいだ。
イルミネーションの会場に着くと床に光が映し出され海越しにこの街の夜景がみえた。きりのいい時間になると子どもたちがはしゃいだ声でカウントダウンを始め、3.2.1と声のあと街の灯りが連動して点灯し始める。
「うおーきれー!」
「すごい……」
街の色が赤や青や緑とリズミカルに色を変えていく。さっきまでいたクリスマスマーケットの会場も見えた。マーケットの真ん中にあった大きなクリスマスツリーも同じように街と一緒に色を変え、街全体が踊っているように見える。ちらと千傘をみるとキラキラと目を輝かせながら街を見て、弟妹にも写真を送ってあげようと夜景の写真を撮っている。
「陽登、1枚撮ろうぜ一緒に」
千傘が自然に肩を組み、陽登が緊張で固まっている間にパシャっと写真を撮られた。1枚で終わりだろうと陽登は千傘を見上げると千傘と目が合い、そのままおでこにちゅ、とキスをされパシャッとまた音が鳴る。
陽登は頭に血が上り混乱し固まって「へ?」と間抜けな声を上げてしまった。
何事もなかったかのように千傘は陽登の手を引き床の光の映像がよく見える場所までグイグイ連れていき座った。陽登はまだおでこにキスをされたことでまだ頭がいっぱいのままだった。
「はいこれ」
千傘はぽんと陽登の膝に何かを乗せる。ようやく陽登は現実に引き戻された。
「え、あ?え?なに、これ」
「クリスマスプレゼント」
「えっ!ぼ、僕会うと思ってなかった、から、何も用意してない……」
陽登が落ち込みながらいうと千傘は全く気にしてない様子でいい、いいと言う。同じ年なはずなのに千傘はいつも男前で、陽登はいつも要領が悪くぼんやりとしていて間抜けな自分を少し恥ずかしくおもう。悔しかった。もらうばかりでなくて陽登も千傘にいろいろあげたいのに。
「本当にいいんだって。あけて」
早く早くと促され陽登がプレゼントの包を開けると、出てきたのはさっき見たくまの湯たんぽだ。
「わぁ」
陽登は自分に買ってくれていたことにまるで気づかなかったから純粋に驚いた。
「これを……こう」
出てきた湯たんぽを千傘は陽登に押しつけくまを抱っこするように陽登の腕をセットする。陽登は何をされているのかわからないままされるがままだった。
「あ、ほら!やっぱ似合う」
千傘はへへと嬉しそうに笑った。
「……っありがとう」
心の底から嬉しくて、ギュッと陽登はくまのぬいぐるみを抱く。
「保健室で湯たんぽ借りてただろ。家用もあったら使うかなって。もう持ってるかもだけどさ」
「前使ってたの、こ、こわれちゃって、もってない、嬉しい」
「よかった。俺だと思って抱っこして」
千傘は冗談めかして言う。
「ん」
千傘にいつもいつも寝かせてもらうわけにはいかないから、いいお守りになりそうだと陽登はおもった。
「大事にする」
くまを抱きしめて陽登が嬉しそうにわらっているのをみて、千傘はその陽登をなでて抱きしめて膝に乗せてキスがしたくなって手を伸ばしたが、さすがにこんな場所ではできないと冷静さを取り戻そうと膝に手を戻す。
手をつないだり、やむを得ず隠すために抱き締めたり、おでこにキスなどしてはしゃいでしてしまったものの、人目のある場所で男同士の本来の距離を考えれば軽率に陽登をなでることも、あまり密着して座るのも今更ではあるが躊躇われる。触りたい気持ちはあふれるのにもどかしい。陽登が座り直すために床に手をついたその手の上から千傘はそっと手を重ねた。
「……次会うのはもう少し人いないとこがいいかも。楽しかったけど。もっと陽登にさわれるとこ」
後半は声を落として千傘はいう。
「う、うん……」
「キスとか、したい」
「……うん」
「次はもう少し早く会いたいな。時間少なくてもよければバイト終わった後とかさ……陽登が嫌じゃなきゃ、俺が陽登の家の近くまで行くし」
陽登は頷いた。
「会いたい……い、いつもの、も……したい……」
いつものがすぐにハグのことだとわかって千傘は嬉しくてくすぐったくて吹き出した。
「…っふ、はは、陽登、本当にそれ好きだな、最初はあんな嫌がってたのに、近寄んなってさ」
クククと抑えきれずにまだ笑っていると陽登は不満そうにしてムキになる。
「そっそんなに笑うなら、じ、じゃぁちかよらない」
「えっ!!やだ、ごめんて」
陽登に距離を置かれることが嫌すぎて秒で折れると陽登は「冗談」という。陽登の冗談は本当に分かりにくいと千傘はおもいほっとした。
「……ぁ、ぁ、あれすると、よく眠れる、から……」
「……まだよく眠れない?」
「少し……だけ」
「じゃぁ次会ったらハグとキスしよう、約束」
千傘が返事のない陽登を見ると、またいつものように赤く縮こまっていて、リンゴみたいでかわいい。そういえば、お隣の国ではイブの日にりんごを食べるらしい。煙でも噴き出しそうなほど真っ赤に熟れた陽登を食べることができたならよかったのに。
陽登の体調や精神状態などを鑑みると付き合ったからと言ってそうやすやすと頂けそうにはない。
当分お預けの果実を目の前に千傘は一人悶々として一人陽登にバレないように心の中だけで大きなため息をついた。合わせることは全然苦ではない。ただ、何も思わず我慢するには時々あまりにも陽登は扇情的な行動を繰り返すから、誘っているのかと少しだけ憎たらしかった。
今日、腕の中で震えていた陽登が今もまだ鮮明に思い出される。
(えろかった……)
もうそろそろ帰ろうというのに、思い出して自分が立ち上がるより先に自分の息子が立ち上がってしまいそうで千傘は慌てて無になろうと違うことを考える。
帰って息子を構ってやれるようになってからゆっくりと思い返そうと、千傘は大切に思い出の中に丁寧に保管した。
千傘が聞いて、陽登は首を傾げた後頷く。
「調べたらこの先にイルミネーションあるって。せっかくだから見に行かない?」
ぱっと陽登は顔を明るくした。
「すき」
言ってから「あっ」と真っ赤になって口に手を当てて、
「イ、イルミネーションが……」
と陽登はうつむきながら言い直す。
「俺も好き!」
千傘はわざとらしく大きめの声で言った。陽登はおどろいて顔を上げる。
「イルミネーションが」
すこし期待した自分が恥ずかしくて、ケラケラと笑って明らかにからかうようにいたずらっぽく笑った千傘の肩を陽登が恥ずかしさに軽くポスポス殴ると千傘は笑いながらイルミネーションの方へと歩いた。
「あと陽登が」
振り返らず、前を見ながら千傘は少し声を落としていった。陽登が驚いて立ち止まって千傘の顔を見ると、千傘も赤い顔をしている。千傘は立ち止まらずに歩く。
「おいてくぞ」
ぶっきらぼうな声が完全に照れ隠しとわかって、陽登は目をぱちくりと瞬かせ、そして慌てて追いかけた。
まったくそんなつもりなく伝えた言葉が愛の言葉に書き換わって気恥ずかしいやら嬉しいやら、高揚する気持ちを抑え陽登はまだ熱い頬をマフラーの中にうずめる。浮かれているのは街に流れるクリスマスの歌のせいだ。
イルミネーションの会場に着くと床に光が映し出され海越しにこの街の夜景がみえた。きりのいい時間になると子どもたちがはしゃいだ声でカウントダウンを始め、3.2.1と声のあと街の灯りが連動して点灯し始める。
「うおーきれー!」
「すごい……」
街の色が赤や青や緑とリズミカルに色を変えていく。さっきまでいたクリスマスマーケットの会場も見えた。マーケットの真ん中にあった大きなクリスマスツリーも同じように街と一緒に色を変え、街全体が踊っているように見える。ちらと千傘をみるとキラキラと目を輝かせながら街を見て、弟妹にも写真を送ってあげようと夜景の写真を撮っている。
「陽登、1枚撮ろうぜ一緒に」
千傘が自然に肩を組み、陽登が緊張で固まっている間にパシャっと写真を撮られた。1枚で終わりだろうと陽登は千傘を見上げると千傘と目が合い、そのままおでこにちゅ、とキスをされパシャッとまた音が鳴る。
陽登は頭に血が上り混乱し固まって「へ?」と間抜けな声を上げてしまった。
何事もなかったかのように千傘は陽登の手を引き床の光の映像がよく見える場所までグイグイ連れていき座った。陽登はまだおでこにキスをされたことでまだ頭がいっぱいのままだった。
「はいこれ」
千傘はぽんと陽登の膝に何かを乗せる。ようやく陽登は現実に引き戻された。
「え、あ?え?なに、これ」
「クリスマスプレゼント」
「えっ!ぼ、僕会うと思ってなかった、から、何も用意してない……」
陽登が落ち込みながらいうと千傘は全く気にしてない様子でいい、いいと言う。同じ年なはずなのに千傘はいつも男前で、陽登はいつも要領が悪くぼんやりとしていて間抜けな自分を少し恥ずかしくおもう。悔しかった。もらうばかりでなくて陽登も千傘にいろいろあげたいのに。
「本当にいいんだって。あけて」
早く早くと促され陽登がプレゼントの包を開けると、出てきたのはさっき見たくまの湯たんぽだ。
「わぁ」
陽登は自分に買ってくれていたことにまるで気づかなかったから純粋に驚いた。
「これを……こう」
出てきた湯たんぽを千傘は陽登に押しつけくまを抱っこするように陽登の腕をセットする。陽登は何をされているのかわからないままされるがままだった。
「あ、ほら!やっぱ似合う」
千傘はへへと嬉しそうに笑った。
「……っありがとう」
心の底から嬉しくて、ギュッと陽登はくまのぬいぐるみを抱く。
「保健室で湯たんぽ借りてただろ。家用もあったら使うかなって。もう持ってるかもだけどさ」
「前使ってたの、こ、こわれちゃって、もってない、嬉しい」
「よかった。俺だと思って抱っこして」
千傘は冗談めかして言う。
「ん」
千傘にいつもいつも寝かせてもらうわけにはいかないから、いいお守りになりそうだと陽登はおもった。
「大事にする」
くまを抱きしめて陽登が嬉しそうにわらっているのをみて、千傘はその陽登をなでて抱きしめて膝に乗せてキスがしたくなって手を伸ばしたが、さすがにこんな場所ではできないと冷静さを取り戻そうと膝に手を戻す。
手をつないだり、やむを得ず隠すために抱き締めたり、おでこにキスなどしてはしゃいでしてしまったものの、人目のある場所で男同士の本来の距離を考えれば軽率に陽登をなでることも、あまり密着して座るのも今更ではあるが躊躇われる。触りたい気持ちはあふれるのにもどかしい。陽登が座り直すために床に手をついたその手の上から千傘はそっと手を重ねた。
「……次会うのはもう少し人いないとこがいいかも。楽しかったけど。もっと陽登にさわれるとこ」
後半は声を落として千傘はいう。
「う、うん……」
「キスとか、したい」
「……うん」
「次はもう少し早く会いたいな。時間少なくてもよければバイト終わった後とかさ……陽登が嫌じゃなきゃ、俺が陽登の家の近くまで行くし」
陽登は頷いた。
「会いたい……い、いつもの、も……したい……」
いつものがすぐにハグのことだとわかって千傘は嬉しくてくすぐったくて吹き出した。
「…っふ、はは、陽登、本当にそれ好きだな、最初はあんな嫌がってたのに、近寄んなってさ」
クククと抑えきれずにまだ笑っていると陽登は不満そうにしてムキになる。
「そっそんなに笑うなら、じ、じゃぁちかよらない」
「えっ!!やだ、ごめんて」
陽登に距離を置かれることが嫌すぎて秒で折れると陽登は「冗談」という。陽登の冗談は本当に分かりにくいと千傘はおもいほっとした。
「……ぁ、ぁ、あれすると、よく眠れる、から……」
「……まだよく眠れない?」
「少し……だけ」
「じゃぁ次会ったらハグとキスしよう、約束」
千傘が返事のない陽登を見ると、またいつものように赤く縮こまっていて、リンゴみたいでかわいい。そういえば、お隣の国ではイブの日にりんごを食べるらしい。煙でも噴き出しそうなほど真っ赤に熟れた陽登を食べることができたならよかったのに。
陽登の体調や精神状態などを鑑みると付き合ったからと言ってそうやすやすと頂けそうにはない。
当分お預けの果実を目の前に千傘は一人悶々として一人陽登にバレないように心の中だけで大きなため息をついた。合わせることは全然苦ではない。ただ、何も思わず我慢するには時々あまりにも陽登は扇情的な行動を繰り返すから、誘っているのかと少しだけ憎たらしかった。
今日、腕の中で震えていた陽登が今もまだ鮮明に思い出される。
(えろかった……)
もうそろそろ帰ろうというのに、思い出して自分が立ち上がるより先に自分の息子が立ち上がってしまいそうで千傘は慌てて無になろうと違うことを考える。
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