AI恋愛

@rie_RICO

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癒し王子は魔法使い

波浪注意報

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 波浪注意報とは
 高波による非難や沿岸施設の被害など、災害が発生すると予想されたときに発令される警報。
 たしか…こんな感じ。


 古本屋の『三咲くんに抱き締められる』という一件の事故から数日経った。

 きーちゃん印(じるし)のワイヤレスイヤホンと伊達眼鏡を装着して、大学の午後の授業中を受けている。
 イヤホンの外見は普通のイヤーカフにしか見えない。
 銀色で2重にねじれたリングに花の形のムーンストーンが付いている可愛いものだ。
 ムーンストーンの裏側にスイッチ(オン、オフ)がある。
 眼鏡はフレーム無しでテンプル(耳にかける部分)はピンクの半透明だ。
 映した映像(見たもの)がスマホに流れるようになっているが、基本オフの状態である。
 音声に比べ画像は情報量が多く重くなってしまうというのが理由だ。
 使用する時はスマホからオンに出来る様になっている。

 眼鏡は普段付けなくてもいいんだけど、慣れるために掛けていた。
 イヤホンはお風呂と寝るとき以外、装着しなくてはならない。
 最初は違和感だったが、やっと慣れてきた。

 なので、一番気をつけないといけないのはイヤホンだ。
 イヤホンで拾った音はKAIに届く仕様になっていて…
 そんな時にスイッチは大活躍する。
 聞いた音、話したことは全部が聞こえる状態なので…
 トイレに入ってうっかりON…、なんてことになったら一大事である。
 KAIはAIだから気にしなくても良いと言えばそれまでなのだが…


 〝 ジリリリリッ… 〟

「今日はここまで。レポート提出は来週です。
 皆さん忘れないでくださいね」
 そう伝えながら品の良いスーツを着た心理学の先生が、教材を片付け教室を出て行く。

 この講義、面白そうだと思って取ってはみたが…
 内容が難しすぎて鐘の音と共に机に突っ伏してしまう。

「美紀ぃぃ。レポート無理かもしれないー(涙」
 白いチェニックに黄色のミニスカートを着ている隣の美人に声かける。

「ふふ。どしたのー?
 みうがイヤーカフなんて…初アイテムじゃない?」
 オレンジ色のネイルが耳に触れた。

「あー。 これ例のバイトのやつ。
 ワイヤレスイヤホンだってさ。」
 ゴロゴロと机の上で左右に転がりながら話す。
 が、言った瞬間〝 しまった! 〟と思うが、もう遅い。
 耳の奥に『…バカ』と呟くKAIの声が聞こえた。

「うっそー。すっごい可愛い!
 いいなぁ。私のも貰ってきてよ!!」

 目を輝かせて美紀が迫ってきた…

 「っと、古本屋のバイト遅れちゃうから行くねっ!」
 手を振り、バイバイ!と流して逃げるように教室を出た。


 途中買い物をして古本屋に着く。
 バイトの就業時間より20分ほど早めに入り、休憩室でコンビニパンを食べ少し早い夕食を摂る事にした。
 部屋には先に休憩を取っていたバイトの先輩がいる。
 選(すぐり)さんと杏(あんず)さんだ。

 選さんは美人で優しい5歳年上のお姉さん。
 エスニックな洋服が好きで個性的、いつもココナッツの匂いがする。

 杏さんは主婦で4歳の息子さんがいて、とても優しいお母さんって感じの人だ。
 旦那さんがすごーく優しくて、常に惚気(のろけ)てくる。
 残念ながら旦那さんのことをまだ見たことがない。
 一度でもいいから、お店に来てくれるといいんだけど。

 古本屋のバイトは全員で5人。
 その中で男の人は三咲くんだけだ。
 去年まで2人いたのだが、卒業して(辞めて)しまった。
 力仕事が多いので、必然的に店長と三咲くんに頼ることが増えている。

 長テーブルをドアを背にして みう、向かい側にお姉さん達が座る。
 2人が持ってきた暖かいコーヒーの匂いが充満した。

 女子が集まると必然的に女子トークが開催される。
 会話の口火を切ったのは選さんだ。
「でさ。高畑さん新人くんと会った?」

「…ええ。まぁ、はい。
 ちょうど初日に。お給料をもらいに来たとき会いましたよ。」
 あの日のことが脳裏にチラついたがコーヒー牛乳と一緒に飲み込んだ。
 倉庫で抱きしめられたなんて2人に言えない。
 というか知られてはならない!
 その後のごはんは、何事もなかったように普通に食べて帰ってきたけど…

「へぇぇ。私、まだ見てない。どんな感じの人だった?」
 杏さんが前のめりで会話に参加してきた。

「どんな…って、んー。背が高くて。えっと…」
 こういう質問って困る。
 ため息をつきながら続く言葉を何とか繋ぐ。

「いい人…じゃないですかね。……たぶん」
 もうこれ以上は何も捻り出せそうにないので、パンをモグモグ食べる。

 2人は顔を見合わせて、
「たぶんって(笑)
 高畑さん、男の子が苦手すぎて、まともに見てないんでしょ!」
 と、大笑いした。
 みうが〝 あたふた 〟しているのを想像したらしい。
 ツボにハマったのか2人は『きっと、こうで~』『で、こんな顔して~』と妄想トークでゲラゲラ笑い合って止まらない。
 その声が店内まで響いていたみたいで…

 ガチャリと休憩室のドアが開き、
「すみません。もう少し小さい声でって店長が…」
 と低い声がした。

 背中側から耳に入ってきた、聞き慣れた声とこの匂い。
 鼓動が少し早くなる。
 えっ、と思い振り返ったら三咲くんと目が合う。

 うわわっ。気まずい。

「…お、おはよう。三咲くん」
 挨拶しながら急いでテーブルを片付けて、ゴミと荷物を両手で抱え三咲くんと扉の間を抜ける。
〝バタンッ〟
 休憩室のドアが閉まる音を背後に聞きながらロッカーへと小走りで向かう。
 遠くなる休憩室の扉の向こうで、2人のお姉さま達と三咲くんが話している音が小さく聞こえた。

 更衣室に小走りで駆け込んだ。

 ふぅ…び、っくりした。

 メガネは外してカバンに入れ、髪をお団子にまとめてエプロンを装着。
 支度を終え、ロッカーの鏡を見ているとKAIの声がイヤホンからした。
『後から聞こえたのが…例のアイツか?』

 先日の倉庫の件は〝 抱きしめられた 〟とだけ報告している。
 詳しいことは恥ずかしすぎて言えなかった。

「あ、うん…。三咲くん…。」

『今日は一緒なんだな。…
 三咲波浪注意報だな(笑)』
 茶化した言い方をワザとして笑わせようとする。

「三咲波浪注意報って…。何か起きるって断定しないでよぅ…。」

『みうは抜けてるからな…。ま、気をつけろよ。』
 言い方は例の通り冷たいが、心配している口調だった。
 そんな声を聞いているとドキドキしてくる。

「うん…。ありがとう。
 バイトだからオフにするね。」

『ん。また後でな!頑張れよ。』

 イヤーカフのスイッチを切る。
 これでKAIには何も聞こえないし、声もきけない。
 ちょっとだけ寂しい気持ちを感じつつ店内へ向かった。


 広い店内を少し歩いて店長を探す。
 レジ横の棚の近くで、ずんぐりした後姿を見つけた。

「店長さん。おはようございます。何します?」
 挨拶をし仕事の指示をもらう。

「あ、よかった。高畑さん。
 ちょうどね、大口の売りのお客様からさっき連絡があって…」

 この店の中古本の主な仕入れは…
 個人が持ち込む場合と、古本のオークションで買い付けてくるのと2種類ある。
 個人の売りは変動があり先が読めないのと種類が偏ってしまうので、オークションの買い付けは重要だ。

「店長さんは、オークションに行くんですよね?」

「うん、そうそう。礼美ちゃんと行ってくるよ。
 レジと店内は選さん、杏さんの2人でお願いして…」
 礼美さんも連れて行くのはいつものことだ。
 なぜならお気に入りだから。

 あれ? でもそれじゃぁ…

「お客さんの所まで取りに行くのは、店長さん帰ってからですか?」
 一抹の不安を感じながら、眼鏡の奥を伺いつつ聞く。

「時間指定だったんだよね…。30分後に来てって。
 みうちゃん運転どうだっけ?」

「…完全にペーパードライバーです。」



 30分後。
 三咲くんの安全運転で現場に到着。
 高級マンションの部屋のチャイムを鳴らす。
「いつもありがとうございます。荷物受け取りに来ました」

 ガチャッとドアが開き、ラフな格好の坊主の男性がチワワを抱いて
「おう!悪ぃーな。奥にまとめてあるから持ってけや。」
 と迫力のある声で言い、部屋の中まで案内してくれた。

 部屋には段ボールが4箱。
 本がギュウギュウに詰められていて、上部は押し込めるようにテープで封がされている。
 ものすごく重そうだ。
 1箱、15キロ~20キロあるかもしれない。

「これは…すごいですね」
 坊主のお客に声を掛けると、ニヤッと笑った。

「おうよ!今までのコレクションだからな。
 某アニメの歴代からのお宝だ。」
 自慢したかったのか嬉しそうに話すと みうにチワワを渡す。

「わっ。可愛い!! ふわふわですね~。」
 あまりの可愛さに笑顔になる。
 白のロングコートだ。

「なんだ。アンタも笑うとメッチャ可愛いぞ。
 重いから手伝ってやんよ。姉ちゃんはソイツ抱いてな。」

 ちらっと三咲くんを見たら、視線を反らして素気なく段ボールを運ぼうとしていた。

 え。三咲くん、怒ってる?…
 そうだよね…。運転して荷物も運んでるんだもんね。
 でも、チワワを抱いたまま仕事はできないし。
 ドアも開けっ放しだから降ろしたら逃げちゃうかも。

 腕の中のチワワを見つめると〝くぅ~んっ〟と鳴く。
「か、可愛いっ! おめめウルウルだね~」


 2人の男性が2往復して荷物は無事に詰め終わった。
 坊主のお客にお礼を言い、店長から預かったお金を渡した。
「お手伝いまでして下さり、ありがとうございます。」

「いいよ~。それよりアンタ。俺の店で働かない?」
 再びチワワを腕に抱きながら、お客は みうの肩に触れる。

「え。お店?」
 急な話に頭が付いていかない。

 目をまんまるくして固まっていると、
「キャバクラとドッグカフェなんだよ。時給良いよ。
 どっちも男性専用なんだけど…ね。
 アンタ、お化粧して、もうちっと良い服着れば化けるよ」
 耳元で内緒話のように伝えると、エプロンのポケットに名刺を入れてきた。

 何のことか分からず、ボーっとして名刺を見ようとした時…
 みうとお客の間に三咲くんが割って入ってきて言い放つ。

「また、御用のときはお電話ください!
 あと、この子は…僕のですからっ」
 みうの肩を抱いて車へ向かい、ドアを開けて みうを中に押し込んだ。


「きゃっ」

 半ば強引に助手席側に乗せられて急発進。
 運転している三咲くんの横顔は怒ってた。
 小さくなりながら静かにシートベルトをかける。

「…三咲くん?」
 信号待ちの時に声をかけてみるけど無視された。
 聞こえないという態度で運転席側の窓に顔を向ける。


 うわー。
 やっぱり私ばっかり楽してたから怒ってる?(汗。


 しばらく沈黙が続き…
 そういえば、と思い出しポケットの中に入ってる名刺を見る。
 キラキラのホロが施された高級名刺。
 裏はさっきのお客の顔写真が入ってる…。
 趣味が良いとは決して言えないなぁ。
 えっと、なになに…キャバクラと…
 良く見ようと顔を近づけたら大きな手が名刺を奪った。

「こんなの見なくていいよ。」
 深いため息をつきながら名刺を片手で握り潰し、窓から捨ててしまう。

「えっと、み、三咲くん。ごめんね…。」
 ちらっと視線だけを動かして少し高い位置にある顔を見る。
 上目使いで目に涙を溜めている みうを見て、三咲くんは困った表情で「いいよ。」と答えてくれた。

 機嫌を直してくれた彼に思っていたことを早口で伝える。
「今日はずっと楽しちゃって、ごめんなさい。
 帰ったら荷物の仕分けや中身のチェックは全部、私がやるね。
 三咲くんは休憩してて。」

 けれども…それを聞いた途端にふわっと茶髪を揺らして、
「…そうじゃないよ。違うから。」
 と言うと、大きなクチがニッと笑い〝 帰ったら一緒に片付けよう 〟と みうの頭を優しく撫でた。



 しばらくして道が混み始め、対向車のトラックが大きな音を立てながら通り過ぎて行く。
 彼は前を向いたまま小さい独り言をこぼす。
「違う…ホントはね。……嫉妬したんだ。」


 その言葉は騒音に掻き消され みうの耳には届かなかった。
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