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第一章 2、須藤先生は、ちょっぴり理不尽
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心惹かれる、手書きの看板たちが、そこここに並んでいる。職人たちの通りのようで、こんなところにアトリエを構えるクラフト教師は、よほど腕のよい職人なのだろう。私は、クラフト教師が背中を向けているうちに、さっきとは違う場所にハンカチを結びなおしてから、彼の背中を追いかけた。
*
アトリエは、まさにアトリエだった。
通されたのは一階。作業部屋とひと続きになっている、休憩室のような座敷。煎餅座布団が二つと、薄い布団が休憩室の座敷の入り口に置いてある。古風な、色濃く変色した木製のちゃぶ台には、食べたあとのカップ麺が所狭しと置いてあった。
つん、と鼻をつく腐臭が休憩室全体から漂っていた。食べ残しは腐敗しており、使いっぱなしの布団と、部屋の隅に脱ぎ捨てられた洗濯待ちの衣類、それらからが匂いのもとである。
汚さでいえな、あちこちに転がっている飲みかけのペットボトルもなかなかだ。中身を飲み切っていないために、黴がうようよと浮かんでいたり、干からびてこびりついたりしている。
「話をしよう」
「……はい」
クラフト教師が、布団を、ずさっと奥へ押しやった。積み重なっていたペットボトルが、ごろんと転がる音がする。私のために場所を空けてくれたのかと思ったが、座ったのはクラフト教師本人だった。
座るとすぐに、彼は口をひらく。
「バイトをしないか」
「あの、私のぶんの椅子とか」
「見ての通り、少し散らかってるんだ。生活全般の手伝いと、仕事の雑用や補助を頼みたい」
結局立ちっぱなしで、私は話を聞いている。
だが、あまり真剣に聞くつもりはなかった。バイトをする必要はない。お金には困っていないし、何より、こんな不当な扱いをする相手が雇い主など、長続きするとは思えなかった。
「早速、今日から頼もう」
「いや、あの、返事をしてないんですが」
「決定している」
「どこで決定したんですか」
「私のなかでだ」
さすがにむっとした私は、クラフト教師を睨みつけた。背負っていたリュックの肩ひもをぎゅっと握りしめて、顔をあげる。
*
アトリエは、まさにアトリエだった。
通されたのは一階。作業部屋とひと続きになっている、休憩室のような座敷。煎餅座布団が二つと、薄い布団が休憩室の座敷の入り口に置いてある。古風な、色濃く変色した木製のちゃぶ台には、食べたあとのカップ麺が所狭しと置いてあった。
つん、と鼻をつく腐臭が休憩室全体から漂っていた。食べ残しは腐敗しており、使いっぱなしの布団と、部屋の隅に脱ぎ捨てられた洗濯待ちの衣類、それらからが匂いのもとである。
汚さでいえな、あちこちに転がっている飲みかけのペットボトルもなかなかだ。中身を飲み切っていないために、黴がうようよと浮かんでいたり、干からびてこびりついたりしている。
「話をしよう」
「……はい」
クラフト教師が、布団を、ずさっと奥へ押しやった。積み重なっていたペットボトルが、ごろんと転がる音がする。私のために場所を空けてくれたのかと思ったが、座ったのはクラフト教師本人だった。
座るとすぐに、彼は口をひらく。
「バイトをしないか」
「あの、私のぶんの椅子とか」
「見ての通り、少し散らかってるんだ。生活全般の手伝いと、仕事の雑用や補助を頼みたい」
結局立ちっぱなしで、私は話を聞いている。
だが、あまり真剣に聞くつもりはなかった。バイトをする必要はない。お金には困っていないし、何より、こんな不当な扱いをする相手が雇い主など、長続きするとは思えなかった。
「早速、今日から頼もう」
「いや、あの、返事をしてないんですが」
「決定している」
「どこで決定したんですか」
「私のなかでだ」
さすがにむっとした私は、クラフト教師を睨みつけた。背負っていたリュックの肩ひもをぎゅっと握りしめて、顔をあげる。
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