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第一章 初恋は実るもの
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「ご馳走様でしたー!」
陽気な声で、ミコ先生が店主に挨拶をした。
可愛い女性に笑顔を向けられたおやじはデレッと鼻の下を伸ばし、奥さんに肘で突かれている。
なんだかんだ言って、ミコ先生は楽しんだようで何よりだ。
今回の歓迎会は、ミコ先生をもてなすものだから、彼女が楽しまないと意味がない。
「ねぇ、神崎せんせー」
気がつくと、すぐ隣にミコ先生がいた。
驚くほど距離が近く、ぐいぐいと腕を絡ませてくる。
「なに? 酔ったの?」
「酔ってませんよー。ねぇ、せんせー。先生って、実家暮らしですかぁ?」
「え? や、うちは貸家だよ。すぐそこで、借りてんの」
「ええっ、そうなんですか~。教員寮にいないから、てっきりこの辺の出身だと思ってました~」
「そうなんだ」
「神崎先生似合ってますもん」
うふふ、とミコ先生は嗤う。
田舎臭いと言いたいらしいけれど、私はこの山城ヶ原村が好きだし、似合っていると言われて嫌な気はしない。
笑顔で、ありがとう、と返しておいた。
ふぅん、と私に興味を失ったらしいミコ先生は、ちらちらと心配そうにこちらを振り返っていた緑川先生へ寄りかかった。
「せんせー」
「わわ、ミコ先生っ。ち、ちかっ」
「酔ってないでーす」
「酔ってますよ、それ。俺、送りますから」
「いいですよぉ、平気ですぅ」
「いいえ、ここは俺が。紳士な俺が、送らせて頂きますからっ!」
「やだ、緑川先生かっこいいー」
えへへ、と笑いながら。
ちら、と私を振り向いたミコ先生は、安定の悪女顔をしている。
「調子に乗りすぎだ」
ふと。
すぐ隣で、低く呟いた人物がいた。
心臓が、大きく音をたてる。
私の隣に、姫島屋先生がいた。
「酔ったふりで、男を篭絡か」
ミコ先生は、緑川先生と腕を組んで歩いている。
正直、私は、ミコ先生に対してあまりよい感情を抱かない。けれど、羨ましくもある。あれだけ、自分からぐいぐい行けたら、どれだけいいだろう。
私も。
少しだけ、勇気を振り絞ってみようか。
「姫島屋先生は、今日も学校へ戻られるんですか?」
お酒の力も借りて、何気なく、隣を歩く姫島屋先生に話しかける。
大体、姫島屋先生は飲み会のあと学校へ戻る。何かやることがあるらしいが、その辺は、校舎も学部も違うので詳しくは知らない。
「いや、今日は帰る」
「そうなんですか」
「ああ」
そして、話しは終わった。
まったくもって、広がらない。
ミコ先生ならもっと巧みな話術で、アドレス交換くらいしただろうに。
「それじゃあ、私たちこっちなので」
「俺は、ミコ先生送っていきますから」
「ちょっと、教員寮へ行くなら乗っけていきなさいよ」
先生同士の和気あいあいとしたやり取りを聞きながら、私は挨拶をして、先に帰路についた。
緑川先生をはじめ、何人かは町へ帰る。
ミコ先生をはじめ、他の先生は教員用の寮へ戻る。
私はどちらでもなく、村が行っている転居者斡旋計画にて、契約をした一戸建て住宅で暮らしていた。
教師同士が同じアパートで暮らすのは気疲れするし、腰を据えてここで暮らしていくつもりだったから、庭付きの一戸建てを借りたのだ。
村が斡旋している「転居者用貸し出し物件」は、なだらかな傾斜の途中にぽつぽつと点在する。学校への出勤、行きは下り坂だが帰りが登り坂なので、疲れている日は、わりと応えたりするけれど、まぁ、それも含めて田舎暮らしを満喫している。
あれ?
身体を強張らせて、耳を澄ませた。
気のせいか、背後で足音がする……ような。
トン、トン、トン。
乱れのない、人が地面を踏みしめる音だ。
陽気な声で、ミコ先生が店主に挨拶をした。
可愛い女性に笑顔を向けられたおやじはデレッと鼻の下を伸ばし、奥さんに肘で突かれている。
なんだかんだ言って、ミコ先生は楽しんだようで何よりだ。
今回の歓迎会は、ミコ先生をもてなすものだから、彼女が楽しまないと意味がない。
「ねぇ、神崎せんせー」
気がつくと、すぐ隣にミコ先生がいた。
驚くほど距離が近く、ぐいぐいと腕を絡ませてくる。
「なに? 酔ったの?」
「酔ってませんよー。ねぇ、せんせー。先生って、実家暮らしですかぁ?」
「え? や、うちは貸家だよ。すぐそこで、借りてんの」
「ええっ、そうなんですか~。教員寮にいないから、てっきりこの辺の出身だと思ってました~」
「そうなんだ」
「神崎先生似合ってますもん」
うふふ、とミコ先生は嗤う。
田舎臭いと言いたいらしいけれど、私はこの山城ヶ原村が好きだし、似合っていると言われて嫌な気はしない。
笑顔で、ありがとう、と返しておいた。
ふぅん、と私に興味を失ったらしいミコ先生は、ちらちらと心配そうにこちらを振り返っていた緑川先生へ寄りかかった。
「せんせー」
「わわ、ミコ先生っ。ち、ちかっ」
「酔ってないでーす」
「酔ってますよ、それ。俺、送りますから」
「いいですよぉ、平気ですぅ」
「いいえ、ここは俺が。紳士な俺が、送らせて頂きますからっ!」
「やだ、緑川先生かっこいいー」
えへへ、と笑いながら。
ちら、と私を振り向いたミコ先生は、安定の悪女顔をしている。
「調子に乗りすぎだ」
ふと。
すぐ隣で、低く呟いた人物がいた。
心臓が、大きく音をたてる。
私の隣に、姫島屋先生がいた。
「酔ったふりで、男を篭絡か」
ミコ先生は、緑川先生と腕を組んで歩いている。
正直、私は、ミコ先生に対してあまりよい感情を抱かない。けれど、羨ましくもある。あれだけ、自分からぐいぐい行けたら、どれだけいいだろう。
私も。
少しだけ、勇気を振り絞ってみようか。
「姫島屋先生は、今日も学校へ戻られるんですか?」
お酒の力も借りて、何気なく、隣を歩く姫島屋先生に話しかける。
大体、姫島屋先生は飲み会のあと学校へ戻る。何かやることがあるらしいが、その辺は、校舎も学部も違うので詳しくは知らない。
「いや、今日は帰る」
「そうなんですか」
「ああ」
そして、話しは終わった。
まったくもって、広がらない。
ミコ先生ならもっと巧みな話術で、アドレス交換くらいしただろうに。
「それじゃあ、私たちこっちなので」
「俺は、ミコ先生送っていきますから」
「ちょっと、教員寮へ行くなら乗っけていきなさいよ」
先生同士の和気あいあいとしたやり取りを聞きながら、私は挨拶をして、先に帰路についた。
緑川先生をはじめ、何人かは町へ帰る。
ミコ先生をはじめ、他の先生は教員用の寮へ戻る。
私はどちらでもなく、村が行っている転居者斡旋計画にて、契約をした一戸建て住宅で暮らしていた。
教師同士が同じアパートで暮らすのは気疲れするし、腰を据えてここで暮らしていくつもりだったから、庭付きの一戸建てを借りたのだ。
村が斡旋している「転居者用貸し出し物件」は、なだらかな傾斜の途中にぽつぽつと点在する。学校への出勤、行きは下り坂だが帰りが登り坂なので、疲れている日は、わりと応えたりするけれど、まぁ、それも含めて田舎暮らしを満喫している。
あれ?
身体を強張らせて、耳を澄ませた。
気のせいか、背後で足音がする……ような。
トン、トン、トン。
乱れのない、人が地面を踏みしめる音だ。
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