不機嫌な先生は、恋人のために謎を解く

如月あこ

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第一章 初恋は実るもの

5-1

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「歓迎会って、大体金曜日にやるもんじゃないんですか?」
 むすっ、とした表情のミコ先生は、露骨に不満を含ませた声でそう言った。
 歓迎会へは、基本的に全員参加だ。
 教師は山城ヶ原村に越してきた者が六割で、残り四割が隣町から車通勤だという。私は村へ引っ越してきた組なので、どれだけ飲んでも徒歩で帰宅できるのだ。
「まぁまぁ。村の酒場って、一件しかないんですよ。そこが、明日定休日で」
 緑川先生が、ミコ先生の不満をフォローするけれど、ミコ先生は益々不満げな氷像になった。
「だったら、町に出ればいいじゃないですか。なんで、わざわざ村のなかで飲むんですか。二次会できなーい」
「そういうもんなんですって。村社会だし、歓迎会とかは、近所で経済回さないと」
 緑川先生の言葉は正しい。
 村は狭く、近所付き合いというものも色濃く存在しているため、何か活動をするときは、基本的に「地元で」が暗黙の了解となっている。もし、理由もなく「外」の居酒屋で歓迎会をひらいた日には、翌朝には村中で薄情者扱いされてもおかしくはないのだ。
 村で暮らす人たちは、気のいいひとたちだけれど。
 村の内外へのこだわりや、青年会や消防団、盆祭り、虫送りなど、行事や風習には、とても敏感でもあった。
 私は、自然豊かなこの村が好きだし、特別嫌な思いはしていないけど。
 ミコ先生みたいな今時の女性は、物足りないのかもしれない。
 私は、ミコ先生を見て、ふと苦笑した。
 昨年の私も、あんなふうに戸惑っていた気がする。村で暮らすことというよりも、今後の新しい生活について不安でたまらなかったのだ。
 ぞろぞろ歩く教師のなかには、姫島屋先生もいる。中高両方の教師合同歓迎会なので、当然といえば当然だ。
 どうしても用事があるという高等部の教師一人を除いて、ほかは全員出席となっていた。
 斜め前を歩く姫島屋先生の後姿は、近いようで、遠い。
 勢いのまま、声をかけてみようか。
 何度もそんな考えが過ったけれど、結局、声をかけられないまま居酒屋へとついた。
 村で唯一の居酒屋は、寂れた商店街の片隅にひっそりとある。
 木造平屋建ての店内には、四人掛けのテーブルが二つ。ドアを開けっぱなしにしており、外に籠をひっくり返した即席の椅子とテーブルが置いてあった。
 最大十六人が座れるようになっているのが、この居酒屋の自慢の一つだという。
 ミコ先生以外は慣れたもので、居酒屋の店主に挨拶をして席に座っていく。ミコ先生は、緑川先生が丁寧にエスコートしてくれているので、私が声をかけるまでもないだろう。
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