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第二章 少女失踪事件
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朝方の電話で驚きはしたものの、年頃の子どもにはよくあることだと思う。
少なくとも、前の赴任先では家出なんてしょっちゅうで、そのうちひょっこり出てくるパターンが大半だ。
だから、私は沙賀城美咲のことはあまり深刻に考えなかった。
だって、私の脳内は、どれだけ真剣さを装うが、現在ハッピーな鐘が鳴りまくっているのだから。
念願の、姫島屋先生との交際が始まった。
つい、昨夜から。
これは、とんでもなくすごいことだ。
あのあと、勢いで連絡先まで交換した。
さすがになだれ込むように、その先の関係へは進まなかったけれど、自宅へ帰ってからもにやにやが止まらず、恥ずかしい妄想ばかりして睡眠時間を減らしてしまったりした。
今朝になって、夢だったんじゃないかと心配になって。
連絡先が登録されていることにほっとして。
でも、もしかしたら勘違いだったんじゃないかとか、気を使ってくれたんじゃないかとか、本当は面倒だと思っているかもしれないかとか、邪推して不安になった。
そんな経過をたどり、現在の私は吹っ切っていた。
なるように、なる。
後悔だけはしないように。
一方的に結論は出さず、話し合いを忘れないように。
私はもう大人なんだから、大人としてのお付き合いが出来るはずだ。
三時限目の授業を終えて職員室に戻ってきた私は、静かに息を吐きだした。
あと一時限終えればお昼休憩だ。
もし。
もし、よかったら、姫島屋先生と一緒に食べれたりできないかな。
さすがに、そんな学生みたいなことはできないか。
でも、聞いてみるだけなら、いいんじゃない?
携帯電話を取り出して、昨夜登録したての連絡先を表示する。連絡内容に、お昼ご一緒にどうですか、と打ち込んで、すぐに消した。
さすがに恥ずかしい。
それに初めての連絡なのだから、初めての連絡です、と少し可愛い感じにアピールしてみるのもいいかもしれない。
よし、これでいこう。
は、じ、め……あ、間違えた。一回消して――。
「せーんせ!」
「わっ」
驚いて顔をあげると、ミコ先生がにっこりと見下ろしてきた。慌てて携帯電話を伏せて、作り笑いを浮かべる。
「どうしたの?」
「先生こそ、どうしたんですか? なーんか、怪しい」
「あ、怪しくないよ?」
「えー、今日は嬉しそうですよ」
「そりゃ、明日休みだし」
「うふ、そうですね。お気持ちはわかりますぅ。明日、私、緑川先生とお出かけすることになったんですよぉ」
「へ、へぇ」
「昨夜ね、あのあといい感じになってぇ。まだお付き合いとか、そこまで行ってないんですけど。でも、すっごく優しくしてくれるんです。あ、ごめんなさい、神崎先生って元カノなのに~」
いや、そこは違うけど。
どうやら、ミコ先生も誤解しているらしい。
「それで、何か用なの?」
雑談でも構わないんだけど。
ミコ先生の手には、もさっとした書類が握られている。
あ、とミコ先生は、思い出したように書類を前に出した。
「これなんですけど、お聞きしたくて」
「どれ――」
「あ、ちょっと待ってくださいね」
ミコ先生が、職員室のドアを見て、そちらに歩いて行った。
職員室入り口に、絶世の美少女が立っている。
まるで日本人形のような絹のような黒髪に、顔は、名のある彫刻家が掘りだしたような完璧な造形だ。少しつり上がった目や口元は、おしとやかさの中に、凛とした意志が見えて、それもまた彼女の美しさを際立たせている。
古くゆかしい大和なでしこを絵に描いたような生徒の名前は、田中真理亜。
ミコ先生が副担任を務めるクラスの、学級委員で、学年は二年。
私の受け持ちも二年だけど、あいにく一組なので、違うクラスだ。
そういえば、田中真理亜は二組。
例の、行方不明になった沙賀城美咲と同じクラスだ。
ミコ先生と田中さんが話をしている間に、伏せていた携帯電話を確認した。
「げ」
初メールです、と打ち直そうとして。
はつ、で自動変換をしたのち「発明家です」と誤入力して、そのまま送信していた。
なに、「発明家です」って。
私でもわからない謎メールなんだから、姫島屋先生はもっとわからないだろう。今の時代、メールでも既読未読がわかる。今のところ、まだ未読だ。
早いうちに、間違いだと訂正しておこう。
慌てて、言い訳の追加連絡を入れようとしたところに、ミコ先生が戻ってきた。
結局、訂正の連絡も、お昼を誘うことも出来ないまま、ミコ先生との話に時間を費やすことになり、四限目の授業へ行くことになってしまった。
少なくとも、前の赴任先では家出なんてしょっちゅうで、そのうちひょっこり出てくるパターンが大半だ。
だから、私は沙賀城美咲のことはあまり深刻に考えなかった。
だって、私の脳内は、どれだけ真剣さを装うが、現在ハッピーな鐘が鳴りまくっているのだから。
念願の、姫島屋先生との交際が始まった。
つい、昨夜から。
これは、とんでもなくすごいことだ。
あのあと、勢いで連絡先まで交換した。
さすがになだれ込むように、その先の関係へは進まなかったけれど、自宅へ帰ってからもにやにやが止まらず、恥ずかしい妄想ばかりして睡眠時間を減らしてしまったりした。
今朝になって、夢だったんじゃないかと心配になって。
連絡先が登録されていることにほっとして。
でも、もしかしたら勘違いだったんじゃないかとか、気を使ってくれたんじゃないかとか、本当は面倒だと思っているかもしれないかとか、邪推して不安になった。
そんな経過をたどり、現在の私は吹っ切っていた。
なるように、なる。
後悔だけはしないように。
一方的に結論は出さず、話し合いを忘れないように。
私はもう大人なんだから、大人としてのお付き合いが出来るはずだ。
三時限目の授業を終えて職員室に戻ってきた私は、静かに息を吐きだした。
あと一時限終えればお昼休憩だ。
もし。
もし、よかったら、姫島屋先生と一緒に食べれたりできないかな。
さすがに、そんな学生みたいなことはできないか。
でも、聞いてみるだけなら、いいんじゃない?
携帯電話を取り出して、昨夜登録したての連絡先を表示する。連絡内容に、お昼ご一緒にどうですか、と打ち込んで、すぐに消した。
さすがに恥ずかしい。
それに初めての連絡なのだから、初めての連絡です、と少し可愛い感じにアピールしてみるのもいいかもしれない。
よし、これでいこう。
は、じ、め……あ、間違えた。一回消して――。
「せーんせ!」
「わっ」
驚いて顔をあげると、ミコ先生がにっこりと見下ろしてきた。慌てて携帯電話を伏せて、作り笑いを浮かべる。
「どうしたの?」
「先生こそ、どうしたんですか? なーんか、怪しい」
「あ、怪しくないよ?」
「えー、今日は嬉しそうですよ」
「そりゃ、明日休みだし」
「うふ、そうですね。お気持ちはわかりますぅ。明日、私、緑川先生とお出かけすることになったんですよぉ」
「へ、へぇ」
「昨夜ね、あのあといい感じになってぇ。まだお付き合いとか、そこまで行ってないんですけど。でも、すっごく優しくしてくれるんです。あ、ごめんなさい、神崎先生って元カノなのに~」
いや、そこは違うけど。
どうやら、ミコ先生も誤解しているらしい。
「それで、何か用なの?」
雑談でも構わないんだけど。
ミコ先生の手には、もさっとした書類が握られている。
あ、とミコ先生は、思い出したように書類を前に出した。
「これなんですけど、お聞きしたくて」
「どれ――」
「あ、ちょっと待ってくださいね」
ミコ先生が、職員室のドアを見て、そちらに歩いて行った。
職員室入り口に、絶世の美少女が立っている。
まるで日本人形のような絹のような黒髪に、顔は、名のある彫刻家が掘りだしたような完璧な造形だ。少しつり上がった目や口元は、おしとやかさの中に、凛とした意志が見えて、それもまた彼女の美しさを際立たせている。
古くゆかしい大和なでしこを絵に描いたような生徒の名前は、田中真理亜。
ミコ先生が副担任を務めるクラスの、学級委員で、学年は二年。
私の受け持ちも二年だけど、あいにく一組なので、違うクラスだ。
そういえば、田中真理亜は二組。
例の、行方不明になった沙賀城美咲と同じクラスだ。
ミコ先生と田中さんが話をしている間に、伏せていた携帯電話を確認した。
「げ」
初メールです、と打ち直そうとして。
はつ、で自動変換をしたのち「発明家です」と誤入力して、そのまま送信していた。
なに、「発明家です」って。
私でもわからない謎メールなんだから、姫島屋先生はもっとわからないだろう。今の時代、メールでも既読未読がわかる。今のところ、まだ未読だ。
早いうちに、間違いだと訂正しておこう。
慌てて、言い訳の追加連絡を入れようとしたところに、ミコ先生が戻ってきた。
結局、訂正の連絡も、お昼を誘うことも出来ないまま、ミコ先生との話に時間を費やすことになり、四限目の授業へ行くことになってしまった。
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