不機嫌な先生は、恋人のために謎を解く

如月あこ

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第二章 少女失踪事件

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 私も同じ気持ちだ。
 ただの家出だと思ったけれど、実家がそれだけすごいのなら、誘拐っていう線も十分ありえる。
 私は、ナイフを首筋に突き付けられる沙賀城美咲の姿を想像して、ぶるりと震えた。
「高等部のほうには、情報が来ていないな」
「保護者からの要望で、美咲さんはしばらく『風邪』で学校を休むということになったんです。中等部では情報として統一しているんですけど」
「高等部にも回してもらいたい案件だ。……だが、保護者の希望はわからんでもない」
「ほかの生徒も、不安になりますもんね。しばらく、下校の見送りとかしたほうがいいかもしれません」
「それもそうだが、保護者は村内で広がるだろう噂を気にしてるんだろう」
「それ、美咲さんのお母さんも言ってました。悪評に繋がるからって」
 権力があるのなら、そんな噂、どうにでも出来そうなものだけど。
 なんて思ったけれど、電話の向こうのか細い声を思い出して、反省した。美咲さんのお母さんは、きっと、大人しい人なのだ。娘を心配する親の気持ちを推し量ると、私の考えは随分と薄情だ。
「四年前にも、似たような事件があった」
 唐突に、姫島屋先生が口をひらいた。
 眉をひそめ、虚空を見つめている。記憶を手繰り寄せるかのように、ゆっくりと、話を続けた。
「私が赴任してきた年だから、よく覚えている。高等部一年生の女生徒が、行方不明になったんだ」
「どうなったんですか?」
「女生徒が失踪したあと、村では、その女生徒が悪い男についていったという噂が流れてな。結局、事件から二か月ほど過ぎたころ、女生徒の唯一の保護者だった母親も引っ越していった」
「今も行方不明の、まま?」
「ああ」
 だから、今朝の電話で、沙賀城美咲の母親は『風邪』ということにしてほしいと言ったのか。悪評というのは、存外恐ろしいものなのかもしれない。
 孤立した村で、周りが敵となれば――いわゆる、村八分の状態になれば、暮らしていくことも侭ならないのだろう。
「怖いですね。行方不明って事件も、村人が悪評を広げちゃうところも」
「娯楽が少ないからな。最近は外部の人間も頻繁にくるようになって、閉鎖的だった村が変わりつつあるが、まだ、この近辺は集落といえるだろう」
 平和な村だと思っていた。
 長閑でゆったりした時間が流れる、理想的な田舎。

 私の山城ヶ原村に対する見方が、少しだけ、変わってしまった。

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