55 / 76
第四章 隠された真実
5-2、
しおりを挟む
「……神崎先生は、とても魅力的な女性でござるよ」
「はは、ありがとう」
「ほんとうでござる。女性として、そして教師として、とても尊敬申し上げているでござる」
「優しいね、空閑くんは」
私の落ち込み具合を察してか、空閑くんが持ち上げようとしてくれる。
本当に優しい生徒だ、空閑くんは。
「先生は、拙者を差別しなかったでござるよ」
ふと、空閑くんの声音が変わった。
ぴりっ、とした緊張感が含まれている。
何か伝えたいことがあるのだ、と本能で察して、私も話を聞く体制にはいった。歩きながらとはいえ、真剣に話をしてくれる生徒の声を、聞き逃さないように。
「拙者、小学生のころ、教師から変な目で見られていたでござる。口調がおかしいだの、髪が長いだの、上げ足を取るなだの……ちょっと間違いを教えてあげただけでござるのに」
小学生の空閑くんを、あっさり想像できた。
空閑くんも姫島屋先生同様、真面目な子だ。教師の間違いを「それは間違っているでござる!」などと言って、指摘することもあるだろう。
ふと、デジャブを覚えて、首を傾げ――あ、と思い出した。
昨年赴任してきたとき、私も間違いを指摘されたことがあった。別によくあることだし、人間誰だって間違いはある。
私は、「わぁ、ほんと。よくわかったね。ありがとう、私嘘つくとこだった~」と返した覚えがあった。
あのとき私を指摘したのは、確か空閑くんだ。
真面目な生徒だなぁと感心したのも、思い出した。そういえば、あれからだ。空閑くんが、空き時間に声をかけにきてくれるようになったのは。
「先生は、教師としても人としても、真っ直ぐなかたでござる」
「い、いや、真っ直ぐってそれ褒め言葉じゃないよね。それに、そんなひと、大勢いるし」
「勿論、褒め言葉でござるよ。先生は、生徒を対等に扱ってくださる。適当に誤魔化したりもせず、ひとりひとりと向き合った姿勢を、拙者は、とても好ましいと思うでござる」
そうなのか。
空閑くんが慕ってくれるのは、私を真っ直ぐな人間だと思っているからだったのだ。
私自身を褒めてくれた空閑くんの言葉は、私の心をふわりと暖めた。
教師を続けていてよかった。辞めようと思ったときもあったけど、赴任してまで続けて、本当によかった。
「……ありがとうね、空閑くん」
「拙者こそ、ありがとうでござる」
十五分ほど休憩なしで登りつづけると、突如ひらけた場所にでた。山腹を平らにならした場所で、強引に地盤を整えたような違和感がある。
広さは、体育館くらいだろうか。
雑木林がまるで牢獄のように、そのひらけた土地を囲っている。
私たちの視線は、同じ建物に向けられていた。元は洋館だっただろう建物が、半壊した状態で放置されていた。
私は、生唾を飲み込んだ。
想像より遥かに「病院」らしくない見た目だが、本当にあった。
「はは、ありがとう」
「ほんとうでござる。女性として、そして教師として、とても尊敬申し上げているでござる」
「優しいね、空閑くんは」
私の落ち込み具合を察してか、空閑くんが持ち上げようとしてくれる。
本当に優しい生徒だ、空閑くんは。
「先生は、拙者を差別しなかったでござるよ」
ふと、空閑くんの声音が変わった。
ぴりっ、とした緊張感が含まれている。
何か伝えたいことがあるのだ、と本能で察して、私も話を聞く体制にはいった。歩きながらとはいえ、真剣に話をしてくれる生徒の声を、聞き逃さないように。
「拙者、小学生のころ、教師から変な目で見られていたでござる。口調がおかしいだの、髪が長いだの、上げ足を取るなだの……ちょっと間違いを教えてあげただけでござるのに」
小学生の空閑くんを、あっさり想像できた。
空閑くんも姫島屋先生同様、真面目な子だ。教師の間違いを「それは間違っているでござる!」などと言って、指摘することもあるだろう。
ふと、デジャブを覚えて、首を傾げ――あ、と思い出した。
昨年赴任してきたとき、私も間違いを指摘されたことがあった。別によくあることだし、人間誰だって間違いはある。
私は、「わぁ、ほんと。よくわかったね。ありがとう、私嘘つくとこだった~」と返した覚えがあった。
あのとき私を指摘したのは、確か空閑くんだ。
真面目な生徒だなぁと感心したのも、思い出した。そういえば、あれからだ。空閑くんが、空き時間に声をかけにきてくれるようになったのは。
「先生は、教師としても人としても、真っ直ぐなかたでござる」
「い、いや、真っ直ぐってそれ褒め言葉じゃないよね。それに、そんなひと、大勢いるし」
「勿論、褒め言葉でござるよ。先生は、生徒を対等に扱ってくださる。適当に誤魔化したりもせず、ひとりひとりと向き合った姿勢を、拙者は、とても好ましいと思うでござる」
そうなのか。
空閑くんが慕ってくれるのは、私を真っ直ぐな人間だと思っているからだったのだ。
私自身を褒めてくれた空閑くんの言葉は、私の心をふわりと暖めた。
教師を続けていてよかった。辞めようと思ったときもあったけど、赴任してまで続けて、本当によかった。
「……ありがとうね、空閑くん」
「拙者こそ、ありがとうでござる」
十五分ほど休憩なしで登りつづけると、突如ひらけた場所にでた。山腹を平らにならした場所で、強引に地盤を整えたような違和感がある。
広さは、体育館くらいだろうか。
雑木林がまるで牢獄のように、そのひらけた土地を囲っている。
私たちの視線は、同じ建物に向けられていた。元は洋館だっただろう建物が、半壊した状態で放置されていた。
私は、生唾を飲み込んだ。
想像より遥かに「病院」らしくない見た目だが、本当にあった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
翡翠の歌姫-皇帝が封じた声-サスペンス×中華×切ない恋
雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に引きずり込まれていく。
『強情な歌姫』翠蓮(スイレン)は、その出自ゆえか素直に甘えられず、守られるとついつい罪悪感を抱いてしまう。
そんな彼女は、田舎から歌姫を目指して宮廷の門を叩く。しかし、さっそく罠にかかり、いわれのない濡れ衣を着せられる。
翠蓮に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。
優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。
嘘をついているのは誰なのか――
声に導かれ、三人は王家が隠し続けてきた運命へと引き寄せられていく。
【中華サスペンス×切ない恋】
ミステリー要素あり/ドロドロな重い話あり/身分違いの恋あり
行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする
九條葉月
キャラ文芸
「皇帝になったら、迎えに来る」幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。今度会ったらぶん殴ろうと思う。皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。……だというのに。皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる